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異世界転移したら自称魔王に取り憑かれていたんですけど  作者: にゃる
第4章 王都到着、そしてーー
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第69話 イライラも限界

「はぁ……」


 正直、ここまで色々と勿体ぶるわ振り回されるわじゃ疲れてくる。

 悩みと疑問が多すぎて爆発寸前だ。


「大きなため息ね?」


「このため息の大半は誰かの所為だけどな?」


 皮肉を込めてそう言うと、マーリンは心外だと言わんばかりに頬に手を当てた。

 余りにもわざとらしいその態度に、俺の額に青筋が浮かんでいる事だろう。


「冗談よ、でも安心しなさい」


「は? 何を安心しろと?」


 何一つ安心する要素がない。

 むしろストレスが凄い。


「元の世界に戻る方法を探し続ければいずれ全て知る事になると思うわ」


『アンタが教えてくれればすぐ解決するんだが?』そう言いたくなるのをなんとか飲み込む。

 冷静になって考えれば、ふたりの話を全面的に信用する根拠がない。

 爺さんが使った様な記憶を覗く魔法が存在する世界だ。

 まぁそこまで疑って掛かるとキリが無いし、疑心暗鬼になり過ぎるのも良くない。

 とりあえず話す気が無い以上、気にするだけ無駄、精神衛生上よろしくない。


「おいミナト、この女は構うだけ無駄だ」


「あら、冷たいわね」


「何を企んでいるのか知らんが、貴様の力など借りずとも我らだけでどうとでもなるわ」


「ははは! 相変わらず傲慢な男だなク――」

「ルーク!!」


 笑うルークの顔面に再びマーリンの杖がめり込み悶絶する。

 もうね、情報の小出しがすごい。

 正直うんざりしてきた。


「うふふ」

「うふふじゃねぇよ、いい加減にしねぇと暴れるぞ」


 こいつらクロの事も知ってやがる。


「あらあら、貴方に暴れられたら堪らないから私はそろそろ失礼するわ。 それじゃルーク、あとはお願いね? くれぐれも余計な事は言わないでちょうだいね?」

「おま、ちょ、ま――」


 こちら言い終える間も無く、マーリンの姿は忽然と消えてしまった。


「やれやれ、相変わらず勝手な奴だ……いたたたた」


 鼻を摩りながら諦めた様にそう呟いた。


 ♦︎


「おい、いい加減この状況を説明しろ……」


 100を超える騎士に周囲を囲まれつつ、満面の笑みで正面に立つルークを睨みつける。


「はっはっは! ここは男同士拳で語り合うのがお互いを知るには最善だろ!」


 何言ってんだこのオッサン……


 マーリンが去った後、俺達は問答無用で騎士達が訓練していた訓練場に説明も無く連れて来られた。

 てっきりクリス達の話だと思って黙って付いてきたのだ。


「別に知りたいと思ってねぇ」

「またまた、そんな事言うなよぉ」


 オッサンが語尾を伸ばすな気色悪い。


「アニキー! 頑張って下さい!!」

「ミナト頑張れ」

「怪我しないでくださいね」


 ステラ達は既に訓練場の隅で応援モードに入ってる。

 周囲を囲む騎士達もざわついているものの、何故か好意的で突然の事にも関わらずこの状況を楽しんでいる様に見える。


 え? なにこれ? もうやるの決定?


「よーし、いい感じに盛り上がってきたな」

「勝手に盛り上がっててくれ……」


 そう言って俺は踵を返した。

 はっきり言ってやってられない。


「はっはっは! お前、言ってる事と態度が正反対だな」

「あ?」


 ルークの言葉の意味が分からず、思わず振り返る。


「そんな嬉しそうな笑顔で格好つけんな、色々溜まってんだろ? ぶつけて来いよ、お前の全力を受け止められる奴なんざ、この国に俺以外そうそういないぜ?」


 不敵な笑みを浮かべるルークの気配が一気に強くなる。


「ミナト、貴様はもう少し感情を隠す努力をせんか」


 クロは呆れた様にそう言うと、肩から飛び降りた。


「我の出番はなさそうだ、巻き込まれても堪らんからな。 殺さん程度にぶちのめして我の情報を聞き出して来い」


「そうだな、いい加減イライラも限界だ」


 こうなったらまとめてオッサンにぶつけてやる。


 ♦︎


 ようやくやる気になってくれたみたいだ。

 目の前に立つのはカイトの忘れ形見――

 姿形が似てるだけじゃねぇ、ありゃカイトと同じ根っからの戦闘狂だ。

 カイトの奴、どう育てたらあんな風になるんだ……

 アイツもなかなかに戦いが好きな男だったが、その息子はそれ以上だ。


 だが、真っ直ぐに育てたのも見れば分かる。


 あれは純粋に戦う事が好きなタイプ――

 腕試し、力試しが好きで相手を殺したり壊したりする事に喜びを見出す悪質なタイプの戦闘狂じゃない。


 ただその分、微塵も油断出来ない。


「俺はコイツを使わせてもらうぞ」


 槍を構えてみせる。

 言葉を並べるより、この方が手っ取り早いし、何より間違いがない筈だ。


 カイトの奴はなにを持たせても超一流の男だったが、中でも剣の腕は飛び抜けていた。

 息子に仕込むならおそらく同じように剣をだと思ったのだが――


「好きにしてくれ」


 カイトの息子、ミナトはまとめて置いてある訓練用の武器に目もくれない。


「おいおい、やる気になったんじゃないのか?」


 まさか丸腰でやるつもりじゃねぇだろうな?


「俺は武器ってのが好きじゃないんだ、まぁコイツは使わせてもらうけどな」


 そう言うとミナトの両腕に黒いガントレットが現れた。

 アイツ、魔力の物質化なんて高度な事すんのかよ。

 アイツらの世界に魔法はないんじゃなかったか?

 一朝一夕で身につくもんじゃねぇぞ?

 しかし素手か……

 確かにカイトは素手での戦いもヤバかったが……


「はっはっは! 好きにしろ、だが本当にいいのか? 攻撃魔法禁止の上、こっちはご覧の通りコイツを使うぞ?」


 もう一度、手にした槍を示す。

 訓練用の木槍だが、まともに当たれば痛いでは済まない。

 魔法が使えないルールでこの間合いの差はかなり大きい。


「良いって言ってるだろ?」


 迷う素振りもない。

 間合いの差など問題にならないと言う事か?

 それとも使える武器がないのか?


 ふっ、まあいいやれば分かる話だ!


「では行くぞ!」


 それは開始の合図と同時――


 一呼吸の間も無く肉薄される――


「うお!!」


 疾い!!!


 鋭い拳を辛うじて躱すが、怒涛の連撃を捌くだけで間合いを取り直す余裕を与えてくれない。


(いや、間合いが離れないように動きを制限されているのか!)


 攻撃を捌きつつ決定打だけは躱すが、それが誘導なのだ。

 油断したつもりはない!

 単純に戦い方が上手いし何より練度が高い。

 何度か反撃を試みるも悉く潰されて、防戦一方だ!


「バケモンかよっ!」


 身体強化を防御に振り切る――


「ぐっ!!」


 鎧の上からでも内臓を抉られるかと思うほどの衝撃で吹き飛ばされるが――


 かなりの痛手だったが、お陰で間合いが取れた!


「怪我しても恨むなよっ!!」


「こっちのセリフだ!」


 超高速の連続突き――

 全てを捌き切るのは不可能――


 そのはずだった――


 最初のひと突きで勝負は決した。


 ♦︎


 やれやれ……


 わざと俺の攻撃で吹き飛ばされて間合いを取るとはな……


 でもまぁ、結果は変わらないけどな。


 確かに槍というのは俺のような徒手は相性が悪い。

 そもそも槍という武器自体が一方的に攻撃する事を目的として作られている。

 間合い広く、小さな動きで広範囲を攻撃する事が出来る上に、速度も早い。

 連続技ともなれば捌くのは容易じゃない。


 なので――


「ふんッ!!」


 繰り出された突きに合わせ、穂の根本、けら首を拳で打ち抜く。

 結果、訓練用の木槍などあっさりと砕け散る。


「……降参だ」


 ルークは手にした槍の柄をその場で手放し、その場で両手を上げたのだった。

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