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異世界転移したら自称魔王に取り憑かれていたんですけど  作者: にゃる
第4章 王都到着、そしてーー
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第68話 増える疑問

応援いただきありがとうございます!

楽しんでいただけたら幸いです!

「カイトの息子ぉぉぉ!!??」


 ルークが音を立てて椅子から立ち上がる。

 またさっきのようになるのかと思わず身構えてしまったが、そうはならずルークは再び腰を下ろした。


「なぁ教えてくれ、なんでこの世界の住人であるアンタが俺の親父とおふくろを――」


「知ってるんだ?」そう口にしようとした俺だったが、ルークの表情を見て思わず言葉を失った。


「そうかぁ……アイツら……幸せにやってんだなぁ……」


 ルークはぱっと見、威厳漂う強面のオッサンだ。

 そのオッサンが涙を零して嬉しそうに笑顔を浮かべているのだ。

 ちょっとは話を聞けと言いたいがそんなのを見せられたら流石に何も言えないだろ……


「まったく……いい歳してメソメソと……いい加減にしなさいな」


 背後から聞こえてきた聞き覚えのある声とため息に思わず振り返る。


「マーリン……」


 そこに居たのは間違いなくあの女だ。

 だが先程まで、まったく気配など感じなかった。

 いつの間にかそこに現れたとしか思えない。


「マーリン……仮にも師団長の執務室に直接転移してくるな。 バレたら大問題になるんだぞ?」


「あら、それならもう少しまともな結界でも張っておきなさい? 今のままじゃ入り放題よ?


 マーリンはまるで悪びれる様子もない。

 というか今転移って言った?

 それっていわゆる転移魔法ってやつか?


「馬鹿言うな、ここの結界を抜ける様な魔術師がそうポンポンいてたまるか!」


 状況がイマイチ飲み込めないが、このままこちらを放置されては堪らない。


「大体、ミナトとカイトを勘違いするなんて想定外だったわ……貴方本当にバカね。 お陰で予定が狂ったのよ?」


「ぐっ! 仕方ないだろ! カイトの息子なんて想像もしない上に、似てるってレベルじゃねぞ! 生写しだ!」


「だああああ!! いつまでやってんだ! いい加減質問に答えろ!」


 我慢の限界に達し、思わず叫んでしまった。

 が、お陰でようやく2人がこちらを向いた。


「お、おお、悪い悪い」


「もう一度聞くぞ! なんでオヤジを知ってる!」


「ああ、カイトとナギサは――」

「私が説明するわ」


 ルークの言葉を遮り、マーリンが口を開いた。

 その顔はどこか悲しげだった。


「その前に貴方に渡した手紙をこの男に渡して、ルークはその手紙を確認しなさい」


 言われるがままに預かっていた手紙をルークに渡す。

 ルークは納得していないのか少し不満そうだが、大人しく手紙を読みはじめた。


「さて、どこから話そうかしら? この馬鹿(ルーク)のお陰で話すことが増えてしまったわ」


「なら最初に答えてくれ、2人のでやり取りを見る限りアンタもオヤジとおふくろを知ってるんだろ?」


 という事はマーリンは初めて会った時から気がついていた筈だ。

 今思えば初めて会ったその日、唐突にオヤジ達の事を聞かれた。

 なんでそんな事を聞かれたのか不思議だったが、それなら合点がいく。


「……そうね、知っているわ。 本当は他人の空似であって欲しかったけれど。 ――出来れば今も信じたくないわ」


「は? なんでそう――」

「おい!! どういう事だ!! カイトとナギサが死んだだと!? んな馬鹿な話信じられるか!! 答え――」

「黙りなさい!!」


 鈍い音が部屋の中に響き渡る。

 それはマーリンが手にしていた杖でルークの顔を殴った音だ。

 いや、かなりいい音が響いてたけど大丈夫かアレ……


「話を戻すわ、私とこの男は貴方の両親を知っている。 今から20年ほど前かしら、あの2人も貴方と同じ迷い人としてこの世界にやってきたの」


 マーリンの口から語られた事実に俺は衝撃を受けた。

 オヤジとおふくろが迷い人?

 でも俺は間違いなく日本で育った筈だ。


「貴方の想像通り、カイトとナギサは貴方の世界に戻ったのよ」


 そう、そういう事になる。

 元の世界に戻れる――

 その事実に俺は少なからず嬉しくなる。

 だが、素直に喜ぶにはまだ聞かなければならない事がある。


「ならどうやってオヤジ達は――」

「待って、その話をする前に一つ答えて欲しいの。 本当にあのふたりが死んだの? 何故?」


 その質問に俺は思わず言葉に詰まった。


 出来れば思い出したくない記憶なのだ。

 病気や事故と言うなら話せただろう。

 だが、オヤジ達はそうじゃない。

 何者かによって殺されたのだ。


 俺が黙っていると、マーリンが重々しく言葉を発した。


「……殺されたのね?」


 ドクン、と胸が大きく脈を打つ。


 何でそう思った?

 なんで分かった?


 他にも色々な言葉が浮かんでは消える。

 結局俺は口を開けないまま、無言の肯定をする事になる。


「こ、殺されただと……」


 痛みに悶絶していたルークがヨロヨロと立ち上がり、そう口にした。

 マーリンは顔を逸らし、苦しそうな顔で瞑目している。


「んな訳、あるか……アイツが、あの殺したって死なないヤツが――」


 それ以上は言葉にならないのだろう、顔を伏せ、握られた拳からは血が流れている。


「分かったわ……よく分かった……」


 そう言うとマーリンはこちらへ向き直した。

 その顔には怒りが滲んでいる。

 うさんくさい笑みを浮かべ感情が読めないマーリンとは思えない程にハッキリとした感情だった。


「私達とカイト、そしてナギサの事を教えてあげるわ」


 ♦︎


「アイツらと最初に出会ったのは俺が駆け出しの冒険者だった頃だ」


 そう切り出したルークはゆっくりと語り始めた。


 オヤジとおふくろも俺と同じようにある日突然この世界に飛ばされてきた。

 ゴブリンに囲まれていたオヤジ達を見つけ、急いで助けに入ろうとしたが、親父は一瞬で十数体のゴブリンを蹴散らしたそうだ。

 その後、同世代だった事もあり意気投合したオヤジ達とルークは3人でパーティーを組み冒険者として活動した。


「と言っても初めの頃はカイトに頼りきりだったけどな」


 そう恥ずかしそうに頭を掻くルークに、ステラとリサが共感していた。


 そうして冒険者として活動していた時、ある依頼でマーリンと知り合い、それからは4人で活動した。


 そしてオヤジ達がこの世界に来て2年程経った頃、元の世界に戻る方法を見つけた。

 だが、それは一方通行であり一度戻れば二度とこの世界には戻れない方法だった。

 オヤジとおふくろは散々迷った後、元の世界に戻る事を決意し、ルークとマーリンに別れを告げ、この世界を去ったそうだ。


「と、まぁ詳しい思い出話は省いたがそれが今から20年くらい前の話だな」


 なるほど、俺が生まれる前の事だから断定は出来ないが、オヤジ達の年齢を考えると時間の流れはこっちの世界と元の世界はほぼ同じだろう。

 まぁそれに関しては今気にする意味はない。

 それより重要なのはオヤジ達が元の世界に戻った事だ。


 その方法を尋ねようと口を開きかけたのだが――


「ちなみにカイト達と同じ方法で元の世界に戻るのは現段階では不可能よ?」


 マーリンはこちらが聞く前にそう断言した。


「現段階って事は将来的には可能って事か?」


「分からないわ」


 本当に分からないのか、誤魔化しているだけなのか――


 とりあえずひとつハッキリしたのは――


「色々聞きたいところだが、アンタ教える気ないだろ?」


 俺の指摘に、マーリンは微笑むだけでイエスともノーとも答えない。

 どういうつもりか分からんが、マーリンは意図的に情報を隠してる。

 多分、爺さんに色々口止めしてるのもマーリンだろう。

 そこまでするからには何かしらの理由があるのだろうが、同時に聞いたところで答える筈もない。


 だが、まぁいいだろう。

 オヤジ達が元の世界に戻ったのはほぼ確定だ。

 可能性がある事が分かっただけで一歩前進と言える。


 でもさ――

 それ以上に疑問ばかり増えていく気がするんだよな……

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