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異世界転移したら自称魔王に取り憑かれていたんですけど  作者: にゃる
第4章 王都到着、そしてーー
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第67話 ヒュウガミナト

 全員がゆっくり風呂を堪能し、リラックスしているところにギルドで俺からの伝言を聞いたウェインが合流したのだが――


「なんつーところに泊まってんすか……」


 久しぶりに再開したウェインは開口一番にそう言って顔を引き攣らせた。


「風呂に入らなきゃ死んじゃう病気なんだ」


「そんな病気聞いたことないっす……」


 そりゃ嘘だからな。


「ま、冗談はさておき合流出来てよかったよ、門番からギルドに行き先を伝えて欲しいってウェインからの伝言を聞いてたから無事だったのは知ってたが、安心した」


「大丈夫っすよ! まぁ動ける様になるまで大変だったすけど」


 俺たちと別れた後、予定通り王都に着くとすぐに騎士団に手紙を届け、その後はスキルの反動で1週間ぶっ倒れていたそうだ。

 食事すらまともに取れないのでかなり苦労したとの事だ。


 そんな訳で労いも兼ねて少し贅沢な夕飯を全員で楽しむ事にした。

 当たり前のように酒盛りに発展したのは言うまでもない。


 ♦︎


 翌朝、丁度朝食を終えたタイミングで部屋の扉をノックする音が響いた。

 続いて聞こえてきたのは来客を伝える宿の人間の声だ。

 俺たちへの来客など限られているので、そのまま部屋迄案内を頼む。


 待つ事数分――


 部屋に訪れたのはクリス達と同じ第2師団の騎士だった。

 てっきりクリス達が来ると思っていたので意外だったが、その理由は訪れたのは騎士からすぐに説明がなされた。


 クリス達の懸念通り、クリス達には隊律違反の嫌疑がかけられているそうだ。

 とは言え、ウェインが届けたクリス達からの書簡が最も早く騎士団に伝わっていた。

 その為、現在事実確認の調査が行われているそうだ。

 その調査が終わる迄、クリス達は行動を制限されているそうだ。


 そういった理由もあり、行動を共にしていた俺たちからも話を聞きたいので第2師団の拠点に来て欲しいとの事だった。


 元々、クリス達第2師団の師団長には会わなければならないし、クリス達にもその為の場を用意してもらう予定だったので不都合はない。


 俺が騎士からの要請を快諾すると――


「外に馬車を用意しています。 準備が出来次第お越し下さい」


「分かった」


 そう言って一礼すると騎士は部屋を後にした。


「クリスさん達大丈夫でしょうか?」


「まぁ調査してるって言ってたし問題ないだろ。 実際森の異変は解決したし、最悪俺たちにはその異変の原因が一緒にいるからな、本人の口から説明させれば信憑性も増すだろ」


「めんどくさいから絶対嫌よ」


 ルリが心底面倒臭そうに不満を口にする。


「……なら仕方ないな」


「あら? やけに素直――」

「原因を差し出せば問題ないだろ」

「じょ、冗談よ! 喜んで説明するわ!」


 最初からそう言えばいいものを……

 どうもルリの奴は捻くれてると言うか、素直じゃないと言うか……


 そんな下らないやり取りをしつつ、俺たちは手早く支度を済ませ、馬車で待つ騎士の元に向かった。


 ♦︎


 馬車に揺られる事数十分――

 ゆっくりと馬車が停まった。

 どうやら目的地に着いたようだ。


 馬車を降りると無骨な石造りの巨大な建物が目に飛び込んできた。

 促されるまま案内の騎士に連れられ建物の中に入っていく。

 外見と同様、建物内部も調度品など一切なく飾り気がない。

 長くまっすぐな廊下を進み、階段を登る。

 窓からは恐らく訓練所なのだろう広い敷地で騎士達が訓練する姿が見える。

 建物といい、窓から見える景色といいまるで学校の校舎とグラウンドの様な造りだ。


 そんな事を考えていると先を歩いていた騎士が足を止め扉をノックする。


「師団長、ミナト様一行をお連れしました」


「おう、入ってくれ!」


 すぐに部屋の中から返事が聞こえてきた。

 案内の騎士が扉を開け、その場で胸に拳を当て直立する。


 どうやら中に入ればいいようだ。


 軽く会釈をして部屋の中に足を踏み入れる。

 どうやら案内されたのは執務室のようだ。

 部屋の中で男がひとり大きな机に向かっている。

 歳は40代半ばくらいだろう。

 赤みがかった茶髪に、威厳を感じる顔つきで体格も座っていてもわかる程に屈強そうだ。

 実際、相当な実力者だろう。

 少なくともこの世界で見た中ではぶっちぎりだ。


「呼びつけて済まんな、俺が王国騎士団第2師団長の――」


 机から顔を上げそこまで口にした男と目が合った瞬間、男の表情が驚きに染まり、そにまま固まった。


「どうかしたか?」そう口にしようとしたその時――


「カ、カイト!!??」


 その言葉に今度は俺が固まる――


 待て、この男は今なんて言った?

『カイト』

 そう口にしなかったか?

 余りにも予想外の言葉に上手く口が回らない。


 そうこうしてるうちに、男は座っていた椅子が倒れるのもお構いなしの勢いで立ち上がると、驚いた表情のままこちらに駆け寄って来るや否や俺の両肩をがっしり掴み前後に激しく揺すった。


「おま! な、なんでここに居るんだ!? 後ろの連中は?! ナギサはどうした!!??」

「ッ!!」


 間違いない――

 決して聞き間違えでも、人違いでもない。


 そんな偶然、起こるはずがない。


「おい!! なんとか言え!!」

「うっさいわね!! いい加減にしなさいよ!!」


 激しく動揺する男にルリが体当たりをかます。


「どわッ!! な! フェンリル?! なんでこんなところに!!」


 男はルリの姿を見てますます動揺に拍車が掛かる。


 騒ぎを聞きつけたのか、先程ここまで案内してくれた騎士と他数名がバタバタと部屋になだれ込んでくる。


 慌てた騎士の声となんとか場を収めようとするステラの声が聞こえて来るが、何を言っているのか迄は理解出来ない。


 部屋の喧騒など耳に入らない――

 多分、今の俺は目の前の男より余程動揺している筈だ。


 どうしたら良いのか分からない俺の後頭部に衝撃が走る。


「ええい! いい加減にせんか! 貴様の混乱は分からんでも無いが、固まっていても仕方なかろう!!」


 どうやらクロが俺の後頭部を叩いたようだ。

 痛みはないものの、お陰でまともに頭が回り始めた。


 そうだ、無言で固まってても仕方ない。


 俺は同じように混乱する師団長を名乗る男の肩を掴む。


「一応名乗っとくぞ、俺はミナトだ。 アンタがルークさん?」


「あ? あ、ああ……」


 やはりこの男がマーリンの依頼にあった男で間違いないようだ。


「そうだよな……冷静に考えてアイツがこっちに居る訳ねぇよな……悪かったな、あまりにも昔馴染みに似てたもんだかよ」


 俺が名乗った事で自らの勘違いに気がつき、ルークも落ち着きを取り戻したようで集まってきた騎士達に問題ない事を伝え、下がらせる。


 再び、部屋には俺たちとルークだけになった。


 ステラとリサは先程の混乱がまだ尾を引いているのかどこか落ち着かない様子だ。


「……悪かったな、改めて名乗ると俺が第2師団長のルークだ」


 そう言って部屋のひとり掛けのソファに腰を下ろすと、俺たちにも座るよう促した。


 全員が腰を下ろし、ステラから順番にそれぞれ簡単に自己紹介した。

 唯一、ルリだけは何が不満なのかそっぽを向いたまま丸まって名乗ろうとしなかった。


「いや、本当に悪かったな。 20年も前に別れた奴にそっくりだったからよ、でもそうだよなよくよく考えれば年齢が全然違うわ」


 ハッハッハと、恥ずかしさを誤魔化す様に大袈裟に笑ってみせるルークに、ようやく場の空気が和み始めた。

 そのまま本題に入ろうとするルークだったが、俺はそれを無言のまま手で制した。


「さっきも言ったが俺の名前はミナトだ、アンタの言う『カイト』とやらとは別人だよ」


 酷い喉の渇きを覚えつつも、俺は再びそう名乗る。


「ん? ああ、だから悪かったよ、その名前は忘れてくれ。 俺がどうかして――」

「俺はミナト――ヒュウガミナトだ」


 3度目――

 今度は敢えてフルネームを口にした。


「ヒュウガ……」


 俺の苗字にルークの表情が険しくなる。


 ああ……やっぱりそう言う事なのか……


 信じられない事だが、そう言う事なんだな……


「ヒュウガカイトは俺の親父、ヒュウガナギサは俺のおふくろの名前だよ。 なぁ教えてくれ、なんでアンタがその名前を知ってるんだ?」


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