第66話 俺じゃないよ?
今日中にもう一話更新出来たら良いと考えてはいます。
出来れば推敲したいので間に合えば……
流石に王都のギルドと言うだけあり、スクルドより立派な建物だった。
かなり広そうな建物だったが、中は思ったより人が少ない。
多分、時間的にまだ戻っていない冒険者が多いのだろう。
「じゃあちょっと確認してくるから適当に待っててくれ」
そうステラ達に伝え、俺は受付カウンターに向かう。
ちなみにルリだけはギルドの外にいる。
「なんかクサいからイヤ」だとか……
なんかちょっと分かる気もするし時間もかからない筈なので好きにさせた。
受付にいた女の人に声をかけ、用件を済ませる。
ついでに目的の宿の場所を確認、それでギルドでの用事は完了だ。
後は聞いた宿に向かえばいい。
「おい、ミナト」
「ん」
肩の上のクロに襟を引かれ、そちらに視線を移すと――
「いいじゃねぇか! ちょっと付き合ってくれりゃいいんだからよ!」
ギルドに併設された食堂、というか酒盛り場でステラがオークに言い寄られていた。
♦︎
「す、すみません、人を待っているだけなので……」
「お嬢ちゃんみたいな美人を待たせる様な奴の事は放っておけばいいんだな。それより高ランク冒険者である俺様に付き合った方が嬢ちゃんにとっても価値があると思うんだな! ブヒャヒャヒャ!!」
うーん、オークかと思ったら人間――やっぱオークだな。
いつぞやに見たオークにそっくり過ぎて混乱するな。
「こ、困ります!」
しつこく言い寄るオークが遂にはステラの腕を掴んだ。
あの豚野郎……
「その汚い手を離せブタ」
……俺じゃないよ?
いや、同じ事を思ったけど俺じゃないよ?
まさかのリサの毒舌が炸裂し、酒盛り場全体が一瞬で凍りついた。
もちろん俺もステラも同じように思わず固まってしまった。
というかリサさんなんで杖を握りしめてるんですか?
これはマズいスグに止めなくては――
「あ゛? 今なんて言ったんだな?」
「汚い手を離せブタって言ったんだブタ」
おおおい! なに平然と喧嘩売ってんですかリサさん!!
あれ? 変だな? あんな子じゃ無かった筈なんだが……
「ふははははは!! 傑作だ! なんだアレはミニミナトがおるぞ!」
「笑ってる場合じゃねぇだろ……」
顔を真っ赤にしたオーク(多分人間)がリサに掴み掛かろうと手を伸ばしたところにギリギリで割って入る。
「誰なんだな! おまえは!」
おー怒ってる怒ってる。
テーブルを見るに相当呑んでるっぽいし酔いも手伝って気が短くなってるんだろう。
まぁこういう時は相手にせずさっさと退散するのが正解だ。
「いやー悪い悪い、待たせたな。 用事も終わったしさっさと次に行くぞー」
素早くリサとステラの手を引きその場を後にしようとするが――
「なに無視して逃げようとしてんだ!」
ミナトはにげだした。
しかし、手下にまわりこまれてしまった。
うーん……出来れば揉め事は起こしたくないんだよなぁ……
「おいコラ、テメェらポークさんにふざけた口聞いてタダで済むと――」
「ぶッ!!」
不意打ち過ぎんだろ!
ダメだ耐えきれんかった!
ポークはヤバい!!
なんだその悪意満載の名前!
「お、おまえらぁ!」
「おっと!」
いきり立ったオーク、もといポークの額を素早く人差し指で押さえる。
もちろん某神拳伝承者ではないので頭が弾け飛んだりしない。
ただ、椅子から立ち上がれないようにしただけだ。
「あ?!」
こんな雑魚相手、コレで充分だ。
「ステラに触った罰だ」
中指を弾くとそのまま椅子ごと吹っ飛んだ。
うーん……身体強化の微調整は難しいな。
思ったより強すぎた。
まぁ死にはしないだろう。
「ポークさぁぁぁぁん!!」
「なにしやがった!!」
「え? デコピンだけど」
わざとらしく中指を弾いてみせる。
「ふざけんな! デコピンで人間が吹っ飛ぶ訳ねぇだろ!!」
「そんな事言われてもな、アンタも見てたろ? まぁどうしても信じられないって言うなら――」
食ってかかってきた仲間に近づく。
「アンタが身を持って体験してみたらいいんじゃないか?」
「ヒッ!」
威圧しながらそう言うとその場で腰を抜かした。
「ギルド内で暴力沙汰は禁止ですよ!」
騒ぎすぎたのかギルド職員が集まってきた。
そのまま職員がすぐに仲裁に入り双方お叱りを受ける。
今回は厳重注意で済んだが、次に同じような事が有ればペナルティだそうだ。
ま、こっちとしてはいらんトラブルは御免なので構わない。
むしろ助かるのだが――
「次からは外でやって下さい」
あ、外なら良いんですか……
♦︎
「おまえなぁ……」
ギルドから開放された俺たちはとりあえず目的の宿に向かっていた。
「あれはあのブタが悪い」
一応リサに釘を刺しておこうと思ったのだが、悲しいかな全く反省の色が見えない。
とりあえず膨れっ面のリサの頭を小突いておく。
「あいたっ!!」
頭を押さえ若干涙目になっている。
やれやれ、俺がなにに怒っているのか分かってないな。
「リサ、おまえあの時なにしようとしてた?」
「……ぶっとばそうと思った」
ですよねぇ……
確かにリサは強くなった。
それこそ異常な速度で成長している。
今のリサならあの程度、難なく倒すだろう。
だが、経験上あの手の輩は執念深い。
ウンザリする程執念深い。
なので無闇に怨みを買うような真似は避けた方がいい。
そうリサに説明したのだが――
「ケンカは先手必勝ってミナト言ってた」
どこのミナトだ、そんなアホな事教えたミナトは。
……俺か、そうだなぁー、確かに言った。
「ミ〜ナ〜ト〜さぁ〜ん?」
「ま、まぁとりあえず全員無事で何よりだな!」
ステラの笑顔が怖いので早々にこの話題は切り上げた方が良さそうだ。
リサとは後でじっくり話し合うとしよう。
「なんか楽しそうね、私も我慢してついてけば良かったかしら」
疎外感でも感じたのかルリがつまらなさそうにする。
ルリがいたら多分収拾がつかなかった予感しかしない。
今後も出来ればルリにはお留守番してもらいたい。
♦︎
「えっと……ひょっとしてここの宿に泊まる気ですか?」
手入れが行き届き、色とりどりの美しい花が咲く庭園――
庭園の中央には池と噴水が置かれ、そこから涼しげに流れる人口の小川――
そんな美しい庭園の先には訪れた者を歓迎する白亜の建物――
スクルドで世話になった宿――
銀嶺荘だ。
内装もスクルドと同じように豪奢ではあるが決して下品ではない、まさに高級宿と名乗るに相応しい。
「ふーん、まぁまぁね」
相変わらず高飛車なルリだが、いい加減みんなも慣れてきたのか特に反応もしなくなっている。
正直、こんないい宿に毎回泊まっていいのかと思わなくもない。
なのでステラの表情が引き攣るのもまぁ理解出来る。
だが、俺にはどうしてもここに泊まらなければならない理由がある。
俺たちを迎えたのは初老の男性でこの宿の支配人だった。
幸い部屋は空いており、早々に宿泊の手続きを取り部屋へと案内してもらう。
案内された部屋はスクルドで利用した部屋と似た作りになっているがこちらの方が広かった。
ベッドルームも複数あり、大人数での宿泊も問題なし。
執務室を始め、多分使う事はないであろう部屋もある。
だが、そんなものはあくまでおまけだ。
俺の目的はただ1つ――風呂だ!!
「おおー」
「広い」
スクルドの銀嶺荘もなかなかだったが、流石は王都の高級宿だ。
浴室だけでも大人が複数入れる広さに、5人は入れそうな広々とした湯殿には定番のライオンの口がついており、絶えず湯を吐き出している。
うん、サイコー!
今はとにかくゆっくり休む事にしよう。