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異世界転移したら自称魔王に取り憑かれていたんですけど  作者: にゃる
第3章 魔獣の森と騎士団、そして神獣登場
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第62話 おすわり!!

 話し合いで解決するかも――

 などと一瞬でも思ったのがバカだった。


「我の出番のようだな」

「いや、まだ出てこなくていいから」


 一体何に存在をアピールしたがってるんだコイツは……

 目立ちたがり屋か。


 結局、この事態を解決するには拳で訴えるしかないようだ。

 クロが出てきたら黒焦げにして終わってしまう。


 狼のボス、もといフェンリルは既にやる気になっている。


「なぁ、最後にもう一回確認するけど頼みを聞いてくれる気はないのか?」


「アンタバカなの? 状況が理解出来てないの?」


「よし、任せ――」

「しつこいっての! なんにせよ話し合いで解決出来ないなら仕方ないな」


 再びクロの口を塞ぎつつ、これ見よがしに盛大なため息を吐く。

 まぁ駄目で元々だ。

 既定路線に戻るだけだ。


「フェンリルさん、お願いします」


 リサが俺の横に出てくるとフェンリルにそう訴える。


「貴女には悪いけど人間如きが私に生意気な口を聞いたんだもの、生きて帰す訳にはいかないわ」


「お願いします! じゃないと――」

「もういいよリサ、心配してくれてありがとな」


 リサの気遣いはありがたいが、いい加減このバカ犬の見下した態度に腹が立ってきた。


「ミナトさんの心配をした訳じゃないんだけど……」


 なんかすごく失礼な事が聞こえた気がする……


「まぁいいか、おいバカ犬」


「……は? え? 今、バカ犬って――」

「躾がなってないみたいだからな、俺がキッチリ躾てやる」


 言われた事が理解出来ず目を丸くしていたフェンリルだったが、続く言葉の内容も相まって先程以上の殺気を放ちながら激昂した。


「死になさい!!」


 その巨大な前足を振り上げ叩きつける動き――

 普通ならペシャンコだろうが――


「お手ぐらいは出来るのか、でもまだ何も言ってないからダメだな」


「……は??」


 片腕一本で強烈な一撃を受け止める。


「うわ……出た……」

「うむ……【金剛】だったか……」

「エドアルドのシールドチャージに微動だにしなかったあれか」


 クリス達にあの遊び半分の稽古でやった事は大概説明させられた。

 これもその1つだ。


 大層な技名だが、爺さんに言われて渋々名前をつけた。


 相手の力をコントロールし、受け流したり逃したり、返したりする技術だ、【化勁(かけい)】とか呼ばれたりする。


「ほっ!」


 掛け声と同時に受け止めたフェンリルの前足が大きく跳ね上がる。


「いったあああ!! え?え? なに?!」


 突然の衝撃と痛みに何が起きたのか分からず混乱してるようだな。


「あれは【寸拳】でしたっけ?」


「側から見ていても何をしたのか分からんな……」


「魔法を使った形跡も皆無ですからね、実際魔法じゃありませんし、受けた方は理解出来ないでしょう」


 なんかクリス達が実況解説になってる。

 その解説必要か?

 あと随分余裕が出てきたなアイツら……


 そんな事を心の中で思いながら困惑するフェンリルの背後に素早く回り込んでおく。


「こんの……いい加減に――って、え? どこ行っ――」

「こっちだ!」


 そう叫ぶと同時に跳躍――

 フェンリルの尻尾の付け根辺り、腰に踵落としをお見舞いする。


「おすわり!!」


「んきゃあああ!!」


 悲鳴を上げ、衝撃と痛みで狙い通りフェンリルが腰をつく。


「ッッ!! 調子に乗ってんじゃ無いわよ!」


 泣きそうな顔で今度は口を開き、鋭い牙でこちらを噛みちぎるろうと迫ってくる。


 うーん……なんか森の犬っころとやってる事が変わらんな。


 とは言え、サイズがサイズなので間違っても噛まれたら痛いでは済まないのでとりあえず口は閉じてもらおう。


「キャンキャンうるさい! 伏せぇ!!」


 フェンリルの攻撃を受け流すと同時に掌打で上顎を叩きつける。


「ふぎゃっっ!」


「うーん……顔だけじゃ伏せにとは言わんな」


 伏せと言えばお腹が地面にくっついてるもんだよな。

 顔だけ地面についてるのは伏せじゃない気がする。


「……圧倒的だな」

「強すぎですよ……どっちが化け物だか分からない」

「だからやめてってお願いしたのに……」

「リサちゃん、あれってそういう意味だったんですね……」


 ボガードとリサ、後で覚えてろよ……


「さて、どうする? そろそろこっちの頼みを聞いてくれてもいいんじゃないか?」


 確かに神獣と言うだけあってパワーもスピードも相当なものだ。

 クリス達が束になったところで瞬殺されていただろう。


 だが、こちとら冒険開始早々に無理ゲー感満載の爺さんを相手にした経験がある。


 フェンリルとやらには悪いが爺さんと比べればちょっとデカい犬と変わらない。


 なのでこの辺で終わらせたいところなのだが――


「ふ……ふふふ……」


 フェンリルから怒りを押し殺した笑い声が漏れる。

 どうやらまだこちらの話を聞いてくれる感じじゃないな……


 案の定――


「ふざけんじゃ無いわよ!」


 そう怒声を上げると、再びその口を開く。

 が、今度はフェンリル自身が襲ってくる事はない。


 代わりに赤く燃え盛る炎をその口から吹き出した。


 大きいとは言え姿形は犬や狼と変わらない。

 なのでまさかそんな手を隠し持っているとは思わなかった。


 襲いくる炎はフェンリルの怒りそのものか、猛り狂いながら一瞬で俺を飲み込んだ。


「人間如きが調子に乗るからよ! 燃え尽きなさい!」


 燃え盛る炎の中で勝利を確信したかのようなフェンリルの声と、ステラの悲鳴が聞こえてきた。

 多分クリス達も声は聞こえないが、ステラと変わらない心境だろう。


 しくったな……


 ステラ達に()()()()()を掛けてしまった。


「下らんな、なんだコレは? これなら子どもの火遊びと変わらんわ」


「――はへ??」


 クロの言葉――

 そして平然とした様子で炎の中から歩み出てきた俺の姿にフェンリルはここまでで一番間の抜けた言葉を漏らした。


「さてミナトよ、奴に本物の炎を見せてやれ」


「いや、それはやめておく」


「な! 何故だ!」


 何故って言われてもな……

 なんというか……既視感覚えそうじゃん。


 何とは言わんけど……


「な、なな、なんで平然としてんのよっ!!」


「悪いが俺に炎は効かないらしいぞ」


 その事を知ったのはつい昨夜の話だ。

 自分の鍛錬中に爺さんに言われたのだ。

 最初は半信半疑だったが、そんな俺に爺さんはいきなり炎の魔法を放ってきたのだ。

 それもさっきのフェンリルの炎を遥かに上回る規模のやつをだ。

 お陰でフェンリルの炎を見ても冷静でいられた。


「黒炎の魔王たる我を宿しておるのだ、あんな炎と呼ぶのもおこがましいものでは髪の毛一本燃やす事は叶わんわ」


「って事らしいぞ」


 いよいよフェンリルの許容範囲を超えたのか、言葉を失い目を白黒させながら固まっている。


 そろそろ折れてくれそうだが、もうひと押ししておくか。


 固まるフェンリルの目の前で、俺の両腕にあの黒い手甲が姿を現す。


「これ以上やるって言うなら仕方ない、ここからは躾じゃなく力ずくになるぞ?」


「…………」


 その言葉にフェンリルはなにも答えない。

 変わらず固まったままだったが、数秒後――


「く、くーーーん……」


 哀愁を感じる鳴き声を上げ、その巨大な身体で仰向けになり無防備に自らの腹をさらけ出す。


 犬っころの降伏、降参の意思表示だ。


 そういうところまんま犬なんだな……


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