第58話 悪かったな非常識で
読者様が増えてる……ぽい!!
モチベ上がります!ありがとうございます!
「いいってなんだよ? どうなるか分かって言ってるのか?」
「あの時、襲った相手がアニキじゃ無かったら自分はもう死んでるか堕ちるところまで堕ちてたんス、だからこの命はアニキの為に使うッス。 アニキに迷惑掛けるくらいなら死んだ方がマシッスよ」
そう言ってウェインは屈託なく笑う。
本気で死罪でも構わないと言った様子だ。
冗談じゃないぞ!
こんな事になるくらいならあんな事頼まなきゃよかった。
今更後悔したところで完全に手遅れだ。
「……ウェインと言ったか、貴殿にひとつだけ問いたい」
クリスが重苦しい口調でそう問いかける。
その言葉にウェインは真っ直ぐにクリスを見つめ、無言で頷く。
「貴殿はミナト殿を襲ったのが初めてだと言ったな? その言葉に偽りはないか?」
「?? そうッス。 いよいよどうにもならなくなって、スクルドの街からアニキ達を尾けて、街から離れた所で襲ったッス」
「…………その言葉をミナト殿も信じているのか?」
「ああ」
クリスが瞑目し、腕を組む。
その姿は何かを迷っている様にも見える。
「……分かった。 他ならぬミナト殿の言葉だ、私も信じよう」
え?
と言う事は――
「ウェイン殿、本来であれば貴殿のした事は絶対に許されない事だ。 だが、ミナト殿への恩義に報いらんとするその想いを信じよう。 だが忘れないでくれ、貴殿が再び道を踏み外せばその時はミナト殿にも多大な迷惑をかける事になると言う事を」
「……感謝するッス」
「ありがとうクリス」
「僕は疲れててなにも聞こえなかったって事で」
「……」
ボガードは仰向けに倒れたままそう言った。
エドアルドは無言で顔を逸らす。
どうやらなんとかなった。
「ふんっ! どいつもこいつもお人好しが過ぎる連中だな」
クロは呆れたようにそう呟いたが、少しだけ安堵を含んでいるのは勘違いじゃないだろう。
なんだかんだ言ってクロも悪いやつじゃないからな。
「さて、んじゃちょっと早いけど晩飯の支度でも始めるか。 報告は食いながらでいいだろ」
まだ特訓中のステラとクレメンも暗くなり始めれば終わるだろ。
♦︎
「すみません支度をお任せしてしまって」
日が傾き始めた頃、ステラとクレメンを交え晩飯を食べ始めた。
「気にするな、むしろいつも任せてるからなこういうのは手が空いた奴がやればいいのさ」
むしろステラは本格的に魔法の訓練を始めたばかりだ。
明らかに疲労の色も見えるし余裕のある俺が準備する方がいい。
「とにかく今は全員しっかり休息を取った方がいい、明日から街道を外れる事になる。 ゆっくり休めるのはこれが最後になるかも知れないからな」
「街道を外れるって、まさかアニキ達森の中に入るんスか?」
事情を知らないウェインが驚いた様子で訊ねてくる。
「そうだな、とりあえず掻い摘んで説明しておくか」
そう言って食事を取りつつウェインにここまでの経緯を簡単に説明する。
「はー……普通なら無茶な話ッスけど、アニキなら心配ないッスね」
「だったらいいんだけどな。 つか気になってたんだが、その『アニキ』ってなんなの?」
「アニキはアニキっす! アニキの男気に惚れたんす! 一生ついていくッスよ!」
重い……重いよ……
一生ってなに?
まぁ……ウェインの今後は後々考えるか……
「……まぁあれだ……頼んでた件、話して貰えるか?」
とにかく今は本題だ。
最大限避けて来たのだ、問題はないだろうが一応動向くらいは把握しておいた方がより安心だろう。
「そうッスね、とりあえず簡潔に説明するんで気になるところがあったら言って欲しいッス」
そう言ってウェインは勇者一行について調べた事を報告し始めた。
「まず山間部の宿場町に出たアンデット討伐は完了したみたいッス、既に山を降りて街道を進んでるんで明日にはスクルドに到着すると思うッス」
「そうか、まぁとりあえず間違っても鉢合わせる事にはならなさそうだな。 ちなみになんで勇者一行はスクルドに向かってるんだ? そのまま引き返して聖都とやらに戻らないって事はなんか理由でもあるのか?」
気にしすぎな気もするが、俺やクロの事が露見するのだけは勘弁して欲しいところだ。
「それならなんでもスクルド近郊の廃教会にアンデットが巣食ってるらしくて、それの討伐が目的らしいッスよ」
ん??
廃教会のアンデット??
なんか、聞いた事があるような……
「それって――」
黙って話を聞いていたボガードも気がついたようで、おもむろにそう口にする。
「ふむ、儂の事かのぉ?」
「ですよね? それならミナトさんが既に解決しちゃってるやつじゃないですか?」
「へ? ど、どういう事っスか!?」
困惑するウェインに廃教会での事を端的に話すと納得した様子で頷いた。
「あー……タナトスさん……そういう事ッスか。 アニキって勇者と縁があるんじゃないッスか?」
「やめてホント」
全然嬉しくないご縁だよ。
「まぁギルドには守秘義務があるッスからアニキの事が伝わる事はないと思うッス。 ただちょっと気になる事はあるッスけど」
「なんだよ気になる事って……」
含みのある言い方はやめて欲しい。
「いや、自分も廃教会の噂は耳にしてたんスけど、実際にギルドの依頼には出てなかったんスよ」
「ん? そうなのか?」
「はい、頻繁にギルドと獣人の子どもが職員と揉めてたんでスクルドの冒険者なら大抵耳にしてたはずなんスけど。 今にして思えばあれってリサだったんスね」
なるほど、確かに俺もリサを始めて見たのはギルドだったな。
アレを毎日やってれば噂くらい立つか。
「自分も気にはなってたんスよ。 なかにはリサが可哀想だって依頼を受けるって名乗りを上げる気のいい冒険者もいたんスけど、ギルド側が正式に依頼を出す事は無かったッス」
「え?」
ウェインの言葉にリサが反応する。
「わたし、いろんな人にお願いしたけど誰も相手にしてくれなかったよ?」
「そりゃそうッスよ、アンデット討伐なんて危険な依頼にリサみたいな小さい子を連れてく非常識な冒険者なんている訳ないッス」
「悪かったな非常識で」
「あ! いや!! アニキの強さは異常ッスから非常識でもなんでもないッス」
「ぶっ! 非常識とか言われてるぞミナトよ」
コイツ、悪気はないんだろうが腹立つな……
「ま、まぁそんな訳でちょっと気になっただけッス」
「ま、その辺の事はマーリンに直接聞いてみればいいだろ。 とりあえず勇者一行の目的も一応わかったし、無駄足だったと分かれば早々に立ち去るだろ」
今後の事はまだ未定だが、滞在先の候補は多いに越した事はない。
正直、なんでこっちが勇者の動向に左右されなきゃならんのかという思いもあるが、その辺は俺の都合なので仕方ない。
「その事なんスけど……うーん……」
何故かウェインがここにきて言い淀んでしまう。
「おい、なんだよ? 勿体ぶるなよ」
「えーっと……未確認の情報なんでどこまで正しいか分からないって前提で聞いて欲しいんスけど――」
そう前置きし、何故か一瞬ステラの方を見る。
疑問を感じるも、その理由はすぐに判明した。
「ソーン村の住民がアンデット化したらしいッス」
ブクマ、評価を頂けるとテンションとモチベが上がります!
続きを読んでもいいよ、という方、是非お願いします!!