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異世界転移したら自称魔王に取り憑かれていたんですけど  作者: にゃる
第3章 魔獣の森と騎士団、そして神獣登場
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第56話 ちょっとした遊び

 クリス達と行動を共にするようになって3日目――

 俺たちはいよいよ街道を外れ、森の奥へと進む事になる地点に到着していた。


 本来なら1日以上早く到着する予定だった。

 だが、クリス達の鍛錬に時間を割いた結果ここまで予定を繰り下げる事になったのだ。


 正直これには頭を悩ませた。

 クリス達を捨て駒にした本隊が王都に帰還する前に異変を解決し、合流するのが最善だ。


 だが、状況からみてそれはかなり厳しかった。

 爺さんのおかげで本隊が既に森を抜けている事を把握出来たからだ。


 急ぐべきか、慎重に行くべきか――


 悩んだ結果、クリス達の希望もあって慎重に事を運ぶ選択に全振りする事にしたのだ。


「よし、かなり早いが今日の移動はここまでにしよう」


 時分とすればまだ正午を過ぎて間もない。

 夕暮れまでかなり時間はあるのでこのまま進む事も出来るが、残りの時間は鍛錬に充ててしまうのだ。


「了解だ。 では今日もここからは鍛錬と言う事になるのか?」


「そのつもりだけどその前にどの程度成果が出てるか確認させてくれ」


 今日までクリス達に課していた鍛錬は体力強化と体幹強化だ。

 たかが3日じゃ鍛えると言ってもたかが知れている。

 だが、それでも多少は変化が出始める頃のはずだ。


 その変化を確かめる為に初日に行った素振りをしてもらう。

 ひとりずつ確認して成果が出ている事を確かめた。


「うん、初日に比べて大分マシになったな」


「そうなのか? あまり実感はないのだがな」


 まぁそうだろう。

 良くなったと言っても本当に多少マシになった程度だからな。

 実感出来るのはもう少し先だろう。


「そもそも僕たちがやってたのって体力作りと基礎鍛錬ですよね? それだけで強くなれるとは思えないんですけど……」


「基礎は大事だぞ。 地盤や土台が貧弱じゃ豪邸は建たないだろ? まぁそうだな……そうは言っても基礎ばかりじゃな。 よし! じゃあ今日はちょっと志向を変えてみるか」


 努力の成果をイメージするのはモチベーションにも繋がる。


「なるほど、それで何をすればいいのだろうか?」


「ちょっとした遊びをしよう」


 ♦︎


「ルールは簡単だ、俺が円の外側の地面に触れたら終了。 どんな手を使っても構わないぞ、武器も使っていい。 その代わり俺も反撃はするからそのつもりでな」


 地面に描いた直径50センチ程の円を示し、ルールを説明する。


「え? それだけで良いんですか?」


 ボガードは拍子抜けだと言いたげだ。


「ま、やってみれば分かるさ」


 実際にやればその認識もすぐに変わるだろう。


「ボガード……相手はミナト殿だぞ? しかも反撃すると言っているんだ。 痛い目を見ても知らんぞ」


「た、確かにそうですね……」


 クリスの言葉にボガードの表情が引き締まる。


「別に緊張する事はないって、最初に言った通り遊びだからな。 とにかく始めるぞ」


 その言葉にここまでのやり取りを無言で見ていたエドアルドが一歩前に出た。


「俺から行かせて貰うが、構わないか?」

「いや、ここは私が最初に行かせてくれ」

「僕は何番目でも良いです」

「わたしも」


 リサを含む4人が順番をどうするかと相談し始める。

 やれやれ、勘違いしてるな。


「おいおい、なに言ってんだ?」


 4人が一斉にこちらに顔を向ける。


「全員でかかってこい」


 ♦︎


「ミナト殿、本当によいのか? 貴殿の実力を疑うつもりは無いがこれだけの条件下で我々全員を一度に、しかも武器まで使用して相手取ると言うのは些か無理があるのではないか?」


「そんな心配はいらねぇって、それよりルールは理解してるよな?」


「ああ、ミナト殿をその円の外に出せば良いのだろう?」


「正確には円の外に俺の身体が触れたら、だな」


 ルールを再確認したクリス達だが、まだ少し躊躇っているようだ。

 まぁ始めればその躊躇いが杞憂だと理解するだろう。


「さて始めるぞ……どっからでも掛かってこい」


 躊躇うクリス達を無視して開始を宣言する。


 と同時だった。


 躊躇のない、背後からの一撃――

 なるほど、どうやら迷いはなく、やる気満々のようだな。


 だが、甘い。


 最小限の動きで荒削りな突きを躱し、同時にその武器を素早く掴み、リサの体勢を崩した。


「わ!」


 リサが短い悲鳴と共にそのまま倒れ込んでしまった。


「狙いは悪くないし、思い切りもいいが躱される事も頭に入れて動け、こんな事で体勢を崩してたら話にならないぞ」


「はい……」


「それと武器を奪われるなんて最低だ。 教えたはずだ、リサの杖は刃も穂も無いんだ、武器を掴まれないように立ち回れ」


 奪ったリサの杖を投げ返す。

 それを悔しそうにキャッチするとクリス達に向かって口を開いた。


「……見ての通り。 ミナトさん相手に遠慮する意味はない」


「完全に死角からの攻撃でしたよね……」


「武器を奪うまで背後を見ること無くな……」


 目の前で起こった事が未だに理解出来ない様子だな。


「おーい、ぼさっとしてないでどんどん来い。 時間は限られてるんだ、無駄にする暇はないぞ」


 眺めているだけじゃこの遊びの意味がない。


「……行くぞ」


 普段から口数が極端に少ないエドアルドが、そう短くて言葉を発し大楯を構えると地を蹴り、そのまま突進してくる。


 恐らくエドアルドの基本戦術だろう。

 エドアルドほどの恵まれた体格から繰り出されるシールドチャージ――

 大抵の相手には通用するだろうが、残念だがコレも甘い。


「悪くないが残念だったな」

「む!」

「はあぁ?!」


 エドアルドのシールドチャージは突き出された俺の右腕一本で完全に受け止められている。


「その程度じゃ俺は1ミリも動かせないな」

「っく!」


 微塵も止められるとは思っていなかったのか、エドアルドの表情が歪む。


「行くぞ? しっかり受け身を取れよ?」

「!!」


 大楯を受け止めた体勢のまま一撃――

 だが、その一撃は巨漢のエドアルドを吹き飛ばす。


 なにが起きたのか理解出来ないのかクリス達が驚愕に目を剥いている。

 なにも知らないクリス達には突然エドアルドが吹き飛んだ様に見えただろう。

 だが、種明かしは後回しだ。


 まだまだ始まったばかりだからな――


 ♦︎


「はぁ……はぁ……ホント、悪い夢でも見てるんですかね?」

「いや……はぁ、残念ながら現実だろうな」

「うむ……」


 遊びと言う名の鍛錬を初めて1時間ほど経った頃、クリス達は精根尽き果てたのか遂に仰向けで地面にひっくり返っていた。

 リサも地面にへたり込んでしまっている。


 どうやら限界のようだな。


「仕方ない、もうちょい頑張って欲しかったが終わりにするか」

「だらしのない奴らだな、もう少し根性を見せれんのか?」


 いつからそこにいたのかステラの修行を見学していた筈のクロがクリス達にそう声を掛けた。


「はぁはぁ、全く面目もない」


 クリスがそう言うと、ボガードが仰向けのまま声をあげた。


「有り得ないですよホント……自分、始まる前に簡単だとか思ったのが恥ずかしいです」


「いや、それを言ったら初めにミナト殿に遠慮していた自分も同じだ」


「うむ……自惚れていた」


「わたしはこうなる気しかしなかった……」


 それぞれ思うところはあるだろうが、それだけで終わったのでは本当に遊んだだけになってしまう。


 それじゃあ意味がない。


「さて、じゃあ反省会も兼ねた座学を始めるとするか」


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