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異世界転移したら自称魔王に取り憑かれていたんですけど  作者: にゃる
第3章 魔獣の森と騎士団、そして神獣登場
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第54話 ……おすすめしない

ちょっと忙しくて更新出来ませんでした!

「そろそろ日が傾く、野営出来そうなところを探し始めた方がいいな」


 日中なら然程困らないが、日が傾き始めたらあっという間に視界が奪われるだろう。

 用意した灯りを使えば動く事は出来るが、そうなる前に動くのが正解だな。


「それならこの先に丁度いい場所があった筈だ」


 クリスの言葉通り、少し進んだところで開けた場所があった。

 大きな広場くらいのスペースが切り拓かれている。

 隊商や騎士の部隊などそれなりの人数でも困らない広さが確保されているところをみると、今のような野営や拠点設営の為のスペースなのだろう。


「街道沿いはこんな感じで野営に適した場所が点在している。 やはり多少遠回りでも可能な限り街道沿いに進んだほうがいいだろう」


 元々1日で抜けられる森ではないので街道を通した際につくられたのだろう。


 クリス達にも手伝ってもらい、早々に野営支度を終えた。


「先程も思いましたがアイテムボックスとは珍しい物をお持ちですな、まったくもって羨ましい限りです」


 クレメンは俺がアイテムボックスからテントなど野営道具を取り出すたびに興味深げにこちらを伺っていた。


「そんなに珍しいものなのか?」


 クロに頼んだら使えるようになったアイテムボックス。

 ホントこれだけはマジで感謝している。


 目の前に置かれた野営道具を担いで移動するのはかなり骨が折れそうだ。

 それ以上にアイテムボックス内は時間が止まっているらしく、お陰で大した手間なく出来立ての料理も食べられる。


「かなり希少な天恵スキルですな、商人の家系に多いと言われますので私も初めて拝見しました」


 ん? また知らない単語が出てきたな……

 天恵ってくらいだから多分自然と身につくスキルって事だろう。


 そんな事を考えていると、ふと気がついた。


「俺、魔法とかスキルってイマイチよく分かってないな……」


 魔法には属性がある事くらいは知っている。

 スキルもなんとなく予想がつく程度だ。


「え?! またまた変な冗談を、そんなに強いのに魔法もスキルも分かってないとかあり得ませんよ」


 近くにいたボガードが俺の言葉に驚きつつも笑い飛ばした。


「あー、そういえばなんも言ってなかったか」


 俺は近くの倒木に腰掛けると、自身がこの世界で言うところの迷い人である事を告げた。

 クリス達は最初こそ驚いていたが、俺が迷い人である事に疑いは持たなかった。

 むしろ何故かすぐに納得してくれたぐらいだ。


「むしろ妙に納得しちゃいましたよ」


 ボガードは何が納得なのか分からないが一人で頷いている。


「ではひょっとしてステラ殿とリサ殿も?」


「いえ、私はソーン村の出身です」

「わたしはスクルドの森です」


「そうなのか……ふむ……しかしそうなると……いや、なにか事情があるのか」


 クリスはなにか言いかけ、すぐに飲み込んだ。

 まぁなんとなく言いたい事は分かる。


 考えてみれば、俺たちの事を殆ど話していなかった。

 このままなにも話さなくても多分問題はない。

 だが、リサの事もそうだが俺たちに後ろめたい事はない。

 ならばいっそ話してしまっても良いかもしれない。

 受け入れてくれるかは別として、クリス達には話しても良いと思える程度には信用出来た。


 俺は2人の顔を見る。

 ステラもリサも俺の言いたい事が分かったのかすぐに頷いくれた。


「かいつまんで話しておくよ」


 俺はここまでの経緯をおおまかに説明した。

 俺とクロの事。

 森でステラに出会った事。

 オークと戦い、ステラを連れ訪れたスクルドの街でリサと出会い、共に戦った事。

 そして爺さんの事。

 流石クロの事は本人も記憶が無いので正体不明という事にしておいた。


「まぁ簡単に説明するとこんなところだ。 この世界に住んでる奴にとっては色々思うところもあるだろうが――」

「別にないですよ?」


 ボガードは俺の言葉を遮って、そう言い切った。

 ボガードだけでなく、クリス達も頷いていた。


「どうやら少し勘違いがあるみたいだが、教会派ならばそういった考えの者も少なくないだろう。 だが、そうでない者は教会派ほど強い差別感情を持っている者の方が少ないと思う」


「王都には獣人族も暮らしていますよ」


「闇属性に適正を持つ人族も極稀におりますしね。 そういう意味ではむしろ興味深いのでお話を聞いてみたいですね」


「……俺たちは気にしない」


 クリス達が口々にそう告げる。

 気をつかっている感じはしないので、本当にそう思ってくれているのだろう。


 それはありがたい事だし、嬉しい事だった。


「なるほどなるほど……ならばミナト殿がスキルや魔法に詳しくないのもある程度納得がいきますな」


「僕は逆にスキルも魔法も知らないのにここまで強いって言うのがちょっとあり得ないと思いましたけどね……」


「俺の住んでいた世界には魔法は存在しないよ。 まぁスキルに関しては個々の能力って意味ではまぁ存在しない訳じゃないけどな」


 スキルとは要は能力やそのまま技能という意味だ。

 そういう意味で言えば確かに存在はする。


「よろしければ私がこの世界のスキルと魔法に関してご説明いたしますか?」


 クレメンはそう俺に尋ねる。

 確かにこの世界の知識は必要になる。

 なら折角の機会だ、ここはクレメンにその辺りの事を聞いてみる事にしよう。


「そいつは助かる、是非頼むよ。 けど、その前に――」


 かなりスムーズに野営の準備が済んだおかげでまだ夕暮れまで時間がある。

 それならやるべき事を先に済ませてしまおう。


「リサ」

「はい!」


 流石にここ数日の日課になっているのでリサも何故声をかけられたのか既に理解している。

 何故かついて来たクマ吉と戯れていたリサの表情が引き締まる。


「もう説明はいらないな? とりあえず型が終わるまで一通り自分でこなしてみなさい。 クマ吉は……まぁ大人しくしてろ」

「はい!」


 うん、いい返事だ。

 リサはそれ以上なにも言わず、クマ吉の頭をひと撫でするとその場で柔軟を始めた。


 そう、やるべき事というのはリサの鍛錬である。

 武術は1日にしてならず、だ。


「いち、に、さん、し――」


 最初、柔軟を見ていた時に数を数えて教えていたのが残っているのかリサはひとりで柔軟をする際にも口に出して数える癖がついてしまった。

 まぁ愛嬌があっていいか、という事でそのままにしている。


「ミナト殿、リサ嬢はなにを始めたのですか?」


「ああ、鍛錬だ」


 その言葉にクリスの目が光ったのを俺は見逃さなかった。


「今『型』と言っていなかったか? まさかとは思うが治癒術師のリサ殿が近接戦闘の鍛錬をしているのか?」


「その通りだが?」


「ええ?! なんでそんな無茶な事をさせてるんですか?!」


 ボガードが驚きの声を上げた。


「わたしがお願いした。 強くなりたい、ならなきゃいけないから」


「リサちゃんは治癒魔法も使えるし、自分で戦わなくても充分やっていけますよ! それより、魔術の修練に励んだ方が――」

「ボガード!」


 クリスが声を上げ、ボガードの言葉を遮った。


「そんな事はお前が言わずとも理解しているはずだ。 それでも彼女が決め、真剣に修練しているのだ。 彼女の目を見ればその覚悟はお前も分かるだろう? 他人が口を出すことではない」


「……そうですね、すみませんでした」


 ボガードはそう言って頭を下げた。


「気にしないから大丈夫」


 柔軟をしながら、リサはそう短く答えた。


「ところでミナト殿、ものは相談なのだが、我々もリサ殿の修練に参加させてもらえないだろうか?」


「えっ!」

「ふむ……」

「カッカッカ!」


 クリスの言葉にステラを始め、クロと爺さんまで反応した。


「……おすすめしない」


 俺が返事をする前にリサがそう答えた。

 その表情は若干暗い気がする。


「頼む、決して邪魔はしない。 簡単に強くなれるなどとは思っていないが、我々とてこのまま君たちに頼りきりにはなりたくないのだ。 足掻けるだけ足掻きたい」


 うーむ……


 まぁクリス達の実力をこの目で見たわけではないが、まぁおおよそは察しがつく。


 多分、多少レベルアップするくらいは手伝えるだろう。


「そういう事なら俺は構わないぞ? ただし、遠慮はしない。 リサみたいに甘やかさないからそのつもりでいてくれよ?」


「もちろんだ!」


 クリスだけでなく、ボガードとエドアルドもしっかりと頷いた。


 やる気に満ち溢れるクリス達をどう鍛えるか考えていると、背後視線を感じ、そちらをみると――


「「?????」」


 仲間たちが無言で「なにを言ってるんだコイツ」みたいな目で俺を見てくる。


「どうした?」


 意味が分からずそう尋ねたのだが、その言葉に答えるものはいない。


 代わりにリサが小さく、遠い目をしながら一言――


「……死ぬかもしれない」


 そう呟いたのだった。

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