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異世界転移したら自称魔王に取り憑かれていたんですけど  作者: にゃる
第3章 魔獣の森と騎士団、そして神獣登場
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第52話 八つ当たり

ストックが減ると焦るので必死に執筆中…

「逃げましょう! アレは危険過ぎますよ!」


 ボガードはそれを視認すると間髪入れずに撤退を進言した。


「っく! フォレストグリズリーだと? 何故こんなところにいるんだ」


 クリス達の慌てようを見るに、恐らく危険な相手のようだ。


 熊と言えば日本の野生動物の中では多分最強だ。

 有名なヒグマはオスで2メートルを超える体長と個体によっては500キロを超える体重を持つ。

 人間など突進されただけで全身の骨がバラバラになる。


 ちなみに熊は全身筋肉の塊で、走る速度は時速60キロだ。

 下り坂に弱いってのは嘘で、木登りも超得意。


 体毛はゴワゴワで筋肉の鎧も相まって嘘か本当か猟銃ですら急所の眉間に当てなければ怯ませる程度にしかならないと聞いた事がある。


 そんな危険な熊だが、基本的には臆病で普通はわざわざ人間を襲ったりしない。


「まぁ異世界の熊だし、そういうものと言われてしまえばそれまでか」


「なにをさっきからぶつぶつ言っておる。 あんなもの焼き払ってやれば良かろう」


 まったくコイツ(クロ)は毎度毎度ワンパターンに……それしか頭にないのか?


「2人ともなにを呑気に構えているんだ! 早く逃げ――」

「大丈夫大丈夫、俺が相手するからクリス達は下がっててくれ」


 こう言っちゃなんだが、ようやく実戦らしい実戦ができそうなんだ。


 熊には悪いが、ちょっと相手になってもらうとしよう。


「相手をするって――本気で言っているのか?! 相手は凶暴凶悪で知られる魔獣だぞ!」


「熊と戦うのは初めてじゃないから心配すんなって」


 昔、親父に連れて行かれた北海道の山で強制的にヒグマと勝負させられた経験がある。


 ――ホント今考えても頭イカれてるだろあの親父……普通死ぬぞ?


 そんな事を言っている間に熊が直近まで迫ってきた。

 体毛は黒く、北海道で見たヒグマより大きい。

 体重も300キロ越えてそうだ。


 明らかに興奮しており、完全に襲う気満々だ。

 ちょっと脅かしたくらいじゃ逃げ出してくれそうもないな。


「さて、んじゃちょっと可哀想だが、痛い目みて頭を冷やしてもらうとしますか」


「グルルルル……」


 唸り声を鳴らし、後ろ足で立ち上がる。


「っく! 仕方ない! こうなったら微力ながら私も戦います!」

「俺も戦おう……盾くらいにはなれる」


 クリスとエドアルドが横に並び立つ――


 が、ここはひとつ遠慮してもらおう。


「問題無いって言ってるだろ? 俺としても鈍った身体を動かしたいんだ。 2人は下がっててくれ」


「そういう事だ。 貴様らは下がっていろ、こんな獣如き我とミナトで充分――」

「クロお前もだ」

「なんだと?!」


 この世界に来て何度かの戦いを経験した。

 だが、まともに戦えた訳じゃない。


 オークの時は混乱冷めやらぬ状況だった。


 アンデットはキモいだけで手応えはまるで無く、タナトスの爺さんはそもそも武術が意味をなさなかった。


 ウェインとの戦いはこの世界で初めての対人戦だったが、手応えは無かった


 そもそも身体強化やら魔法やら、知らん力に振り回されてイメージ通りに動く事すら困難だった。


 だが、どんな言い訳を並べようと実戦において実力を十全に発揮出来なかったのは俺が未熟だったからだ。


 だが正直悔しかった。


 だからここでその悔しさを晴らす。


 今の自分がこの異世界でどこまで通用するのか――


 八つ当たりみたいで申し訳ないが、試させてもらうぞ。


「グアァァァァ!!」


 熊が雄叫びを上げ、鋭い爪を振り下ろす。


 今回あの手甲が使わないつもりだ。

 そうなるとあの爪を受けるの遠慮したい。


 一歩踏み出し、左腕で爪の無い太い腕の部分を受ける。


 単純な攻撃だが巨体から繰り出されれば破壊力は半端なものではない。

 丁寧に衝撃を受け流し、力を逃す。


 逃した衝撃で足元の地面が砕ける。


 だが、完璧に衝撃を受け流した結果であり、俺にダメージない。


「お返しだ!」


 強く踏み込み、ガラ空きの胴体を突く。

 だが硬い体毛と分厚い筋肉に阻まれ、大したダメージは期待出来ない。


 浸透勁を使えばダメージを与える事は可能だが、熊にとっては致命傷だ。

 どうしよもないなら仕方ないが、出来れば殺したくはない。


「ウウウウ……」


 思った通りダメージは受けていない様子だが、反撃された事に驚いたのか熊が一歩下がり距離をとった。

 多少興奮は落ち着いたようだが、まだヤル気満々だ。


「ガッ!!」


 今度は後ろ足で立ち上がり、全身を広げて飛びかかってくる。

 のしかかりで動きを封じ、鋭い牙が並ぶその口でトドメを刺そうと思っているのだろうが、そうはいかない。


 爪と噛みつきを躱しつつ、飛びかかりの勢いを利用してその巨体を投げ、半回転させる。

 結果、熊は前方宙返りに失敗して背中から着地する格好になる。


 300キロを超えるであろう巨体が地面に叩きつけられ、地響きが足に伝わってくる。


「グ、グルゥゥ……」


 熊がヨロヨロと起き上がる。

 あの巨体で地面に叩きつけられたのだ、小さくないダメージを受けたはずだ。

 それを裏付けるように先程までの獰猛な殺気が鳴りを潜め、代わりに戸惑いと迷いを見せた。


 もう一押しだな。

 僅かばかりのダメージを受ければ逃げ出すだろう。


 二度の思わぬ反撃を受け、警戒する熊に今度はこちらから仕掛ける。


【紫電】でもって間合を詰め、動物の弱点である鼻っ面に拳を叩き込んだ。


「ギャウン!」


 悲鳴と共に熊が大きくのけ反った。

 思った以上に効果的だったようだ。


「グゥ……」


 今の一撃で完全に戦意を失ったのか、熊の気配が弱々しいものになる。


 追撃はせず様子を見る。

 下手に追い込み過ぎて逆に死に物狂いになられても困るからな。


 後は熊が逃げ出してくれれば良いのだが――


「グルゥ……グゥ……」


 どういう訳か熊はその場に(うずくま)ってしまった。


 ひょっとして思ってた以上にダメージを与えすぎたのか?


 想定外の行動にどうするか考えていると離れた所で様子を見ていたリサが近づいてきた。


「ミナトさん、この子もう抵抗する気ないよ」


「分かるのか? って! 近づいたら危ないぞ!」


 リサはまるで警戒する事なく蹲る熊に近づいていく。


「大丈夫、もう誰も意地悪しないから」


 意地悪って……いやまぁ、腕試しに痛めつけたと考えれば意地悪か……


 そんな俺の思いをよそに、なんとリサは熊に治癒魔法をかけ始めた。

 リサはまるで警戒していないが、回復したらまた襲ってくる可能性もある。

 いつでも動けるよう構えていたが、どうやらその心配は無用だったようだ。


「お利口だね」


 傷が癒えた熊は逃げ出す事も無くその場に座り、大人しくしている。


「ミナトさん、この子お腹が空いてるみたい。 なにか食べ物あげてもいい?」


「んん? リサこの熊と会話出来るのか?」


 リサは首を横に振った。


「会話は出来ない、けどこの子は賢いから簡単な意思疎通は出来た。 さっきみたいに興奮してたら無理だけど今は落ち着いてるから」


 それが獣人特有の能力なのかリサの力なのかは分からないが、ちょっと羨ましい。


 にして空腹だったのか。

 それであんなに殺気立ってた訳だ。


 なにを食べるか分からんが、なんとなく買って置いた生肉の塊をアイテムボックスから取り出した。


「ほら、これでいいか?」


「ぐぅ……」


 生肉を熊に差し出したのだが、反応が芳しくない。

 というより、明らかに嫌がっている。


「なんだ? 肉じゃ嫌なのか?」

「そうじゃないよ」


 そう言ってリサが俺から生肉を取り上げると、熊の前に置いた。

 すると何故か熊は嬉しそうにその肉を食べ始める。


「ミナトさんが怖くて仕方ないみたい」


 ……ああ、そう言う事か。


 俺はがっくりと肩を落とした。

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