第51話 俺もそう思った
サクサク行きたいけど、文章力が低いので進行が遅いのです。
昼飯を済ませ、俺たちは早々に動き出した。
クリス達の本隊に追いつかなければならないからだ。
どれほど距離が離れているか分からないが、急げば追いつくのは難しくないはずだ。
だが、もし万が一追いつけなかった時の事も考えない訳にはいかないだろう。
先頭を歩くクリスにその事を尋ねる。
「その時はこの森の異変の原因を突き止め、解決する気でいました」
そのラピーナとやらがどう騎士団に報告するか明確には分からないが、森の異変を解決し、それを報告すればある程度言い訳が出来ると考えていた。
「なるほど、見捨てて逃げたのではなく『運悪くはぐれてしまったが、任務は完遂した』と弁解するわけか」
「ええ、そうすれば処罰はかなりの減免が望めます」
ふむ……なるほど、だがそれなら――
「ならば初めからそうすればよかろう。 その上で逃げ出したのは第1師団の方だと言い返してやれ」
「俺もそう思った」
クロの言う通り、本隊を追いかけて合流するよりいっそ森の異変を解決してしまった方が間違いがない。
話に聞く限り、合流したからと言って必ずしも因縁をつけられないとは限らない。
なら初めから対抗手段を講じた方が確実なんじゃないか?
「確かにクロ殿の言う通りだが、本隊に合流する方が危険は少ない。 先程襲ってきたフォレストウルフの数を見ても今この森に起こっている異変は危険過ぎる」
「だが、そんな危険な代替案を考えていたって事はこのままだとヤバいって事だろ?」
図星だったのだろう、クリスは言い返す事もなく顔を顰めた。
やはり下手をすれば死刑、もしくはそれに準ずる罰が待っている可能性が高いからこそのリスキーな代替案なのだろう。
なら、迷う必要はない。
俺は足を止め、後ろについていたステラとリサ、そしてクリス隊に俺とクロの考えを伝えた。
「そうですね、私に出来る事は殆ど無いと思いますが賛成です」
「わたしも賛成、回復くらいなら出来る」
ステラとリサは迷う事なく賛成してくれた。
わざわざ危険に首を突っ込む事は申し訳ないと思う。
2人の事は絶対に守るが、ただ危険から遠ざけるだけでは本人達の成長に繋がらない。
2人を守りつつ、成長を助けるのがベストだろう。
「ありがたい話ですけど、ミナトさん達にそこまでするメリットはないんじゃないですか?」
「ボガードの言う通りだ。 既に君達の善意に甘え同道を許してもらい、食料を分けてもらった。 その上、危険な調査に巻き込むなど考えられない」
「さっきも言ったけどミナトさんはひとが――すごく親切だから放っておけない。 だから諦めた方がいい」
「そうですね、ミナトさんは困ってる人を放っておけない人ですから」
「そういう事だ。 クリス達が迷惑だって言うなら話は別だがな」
はっきり口にはしないが、あの程度の犬っころに苦戦しているようではまず間違いなく無事では済まない。
クリス達だけで異変調査をするとなればほぼ成功は見込めず、それどころか最悪の結果になる可能性が高い。
そもそも食料すらない状態で調査など無謀でしかない。
クリスもそれは理解しているのだろう。
手を借りられるならば借りたいが、俺たちを巻き込んで良いものか悩んでいると言ったところだろう。
「……助力の申し出、感謝する。 力を貸してくれ」
エドアルドはクリスの決断を待たず、深々と頭を下げた。
「エドアルド?!」
クリスが驚きの声を上げる。
「隊長も分かってるはずだ……本隊に合流出来たとしても、ほぼ望む結果は得られない。 ならば今は恥を忍んでミナトに力を借りるべきだ」
「私もエドアルドに同意です。 我々の力不足は明白です。 ならばここは好意に甘えましょう」
「僕も賛成です。 僕たちだけで無謀な可能性に賭けるより賢い選択ですよ」
「お前たち……」
クリス隊の面々の気持ちは固まっている。
それを知り、いよいよクリスも決心したようだ。
「そうだな……そもそも同道させてもらっている時点で頼りきり――すまんミナト殿その力、借りても良いか?」
「もちろんだ、訳のわからん異変なんかさっさと解決しちまおうぜ」
最初に助けた時と同じように右手を差し出す――
「ああ!」
がっしりと握り返される手に力を込める。
さぁて、これで失敗しましたって訳には行かないな。
まぁなんとかなるだろ!!
♦︎
「ふむ、西側はやたらと多いのぉ……対して東側はちらほらといった感じじゃな」
「うーん……縄張りが西側って事か?」
現状、この森で起きている異変はさっきの犬っころが異常に増えているという事だ。
とりあえず思い当たる可能性としては生態系が崩れたってパターンだ。
その考えを伝えたところ、クリス達も同じ考えだったらしい。
「可能性として高いのはフォレストウルフの中で強力な変異種が生まれ、その変異種が群を率いている可能性だな。 あとは極端な環境の変化なども可能性としてあるが、今のところそんな様子は見られない」
なるほど、ならその変異種とやらを見つけて倒せばいい訳だ。
「爺さん、その変異種ってのが居ると仮定して見つける事は出来そうか?」
「今の儂では無理じゃの、一つだけ方法が無いわけではないが――まぁ、丁度いい機会とも言えるかの」
なにを言いたいのかさっぱり分からんが、どうやらなにか方法があるっぽい。
「ちとステラと相談するでのぉ、ちょっと待っておれ」
「え? わ、私ですか?」
まさか自分の名前が出てくるとは思っていなかったのだろう、ステラは驚き戸惑っている。
なにをさせるのか分からんが、ステラが困るような事をさせるつもりはない。
「安心せぇ、決めるのはステラ自身じゃ」
「ふむ、そういう事か。 しかし貴様本気か? 随分と我らに肩入れするではないか」
どうやら爺さんがなにをする気なのかクロは理解出来たらしい。
なんかこんな感じのやり取り多くない?
毎度毎度勿体つけられるのはあまりいい気分ではない。
「不満そうだな? だが今回に関しては貴様がどうこう言う話ではない、ステラ自身が決める事だ。 それにどうせすぐ分かる事だ」
「そうじゃぞ、それにお主にはやってもらう事があるしのぉ」
爺さんが街道の先を指さす。
「あー……アレってこっちに向かってる感じか」
「気がついておったか、まだそこそこ離れておるのに流石じゃの」
爺さんが指差す先から感じるのは剥き出しの殺気だ。
流石に気がつく。
「……なにかこっちに来てる?」
リサも何か感じるのか耳を立て警戒している。
「なにかいるのか?」
「うーん……なにも見えませんよ?」
クリスとボガードはこの気配が分からないようだ。
他の2人も同じだろう。
この程度の気配すら気が付かないのか……
もう少し頑張った方がいいな。
「こっちはちと時間が掛かるかも知れんからの、相手は任せたぞ」
「ああ、分かった」
爺さんの話は気になるが、今はあっちの方を気にした方が良さそうだ。
なにしろ話している間にもこちらに真っ直ぐ向かってきている。
もうそろそろ見えても良さそうだが――
「た、隊長! まずいですよ!」
街道の先に黒い物体が見えたところでボガードが声を上げた。
「あれはまさか!」
「間違いないですよ! フォレストグリズリーです!」
グリズリーって事は、クマか。