第50話 お人好し?
ちょっとずづ読者様が増えてる……と思う。
botじゃないよね? 違うと信じて今日も更新します!
クリス達の体力も回復したところで、俺たちは森を抜けるべく街道を進んでいた。
クリス達も王都を目指すと言う事で同行している。
クレメンの棄教宣言には驚かされたが、クリス達は俺たち以上の衝撃だったそうだ。
そもそも王都に聖光教会の信徒は少ないらしい。
敬虔な信徒はその殆どが聖光教会の総本山である聖都で暮らしているらしく、王都に住む信徒は王国騎士団に所属するクレメンのように特別理由のある者か、そこまで熱心な信徒でないかのどちらからしい。
そんな中でも普段から祈りを欠かさず、休みには足繁く教会に通う信徒の鑑だったらしい。
騎士団でも特に熱心な信徒のクレメンが棄教するなど考えもしなかったのだろう。
まぁ俺としてはリサを受け入れてくれただけでいい。
獣人というだけで差別する人間は思っているほど多くはないのかもしれない。
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周囲を警戒しつつ森を進んでいたが、ステラやボガード、クレメンの疲労が強くなってきた様子だったので休憩も兼ねて昼食を取る事にした。
「この後まだまだ歩く事になるし、昼は軽いものにするか」
「わたしシチューがいい!!」
「人の話を聞いてたか? 却下だ却下」
「むぅ……」
リサは不満そうに頬を膨らませる。
ここまではっきりと感情を見せるあたりクリス達に対する緊張と警戒はかなり解消されたようだ。
「クリス達は飯どうするんだ?」
どうせなら一緒にと思ったのだが、クリス達は一様に浮かない顔を見せる。
「そのだな……我々は食料を持ち合わせていないのだ……」
「は?」
どういう事だ?
王都からここまではかなりの距離がある筈だ。
食料を用意していない訳はない。
だとすればなんらかの理由で無くなったという事になるが――
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「そういう事だったのか」
事情を聞いて俺は盛大なため息を吐いた。
「すまない、だが決してミナト殿を頼ろうと思ったわけではないのだが……」
クリス達は王都から4人でこの森に来た訳ではなかった。
中隊でこの森の調査にやってきていた。
中隊と言っても人数は20名程でクリス達第2師団と第1師団の混成部隊だった。
クリス達は主に第1師団のサポート役で、野営に必要な装備や食料を運ぶ、平たく言えば荷物運び兼雑用係なのだそうだ。
王都からここまで第1師団にこき使われながらも順調に進んで来たが、本格的な森の調査に取り掛かったところでトラブルが発生した。
街道を外れ、森の奥に入ったところで大量の犬っころに襲われる事になる。
部隊は連携して迎え撃つが犬っころの物量にあっという間に劣勢に追い込まれ、街道まで後退する事になる。
そこで、クリス達は半ば強引に殿を引き受けさせられた。
その上、クリス達が運んでいた装備一式は取り上げられ、第1師団は逃げ出してしまった。
20人の騎士達でどうにもならなかった以上、クリス達4人でどうにかなる筈もなくすぐさま追い込まれる。
なんとか第1師団が逃げた方向とは逆に犬っころの群の大部分を引きつける事には成功したが、クリス達は絶体絶命の状況に追い込まれた。
もはや万事休すと思われたところに俺たちがやってきたという事だ。
「ミナトくんが来なかったら今頃僕達全員アイツらの餌になってましたよ」
ボガードはアハハと呑気に笑っているが無事だったから冗談に出来る話だ。
俺たちが居合わせなければマジでそうなってただろう。
「事情は分かった、とりあえず何か食べるぞ」
俺はアイテムボックスからサンドイッチを取り出し全員に手渡していく。
クリス達は遠慮していたが、アイテムボックスにはまだ食べきれない程の食料がある事を伝え、それでも気にするなら王都に着いてから対価を払ってくれればいいと言うとようやく納得してくれた。
サンドイッチだけでは喉が渇くので飲み物も配る。
ステラとリサは果汁を水で割った果実水を、残りは興味があると言うのでコーヒーを渡した。
クリスとエドアルドはそのままブラックを気に入ったが、ボガードとクレメンは苦味が強すぎたらしく、砂糖を足して飲んでいた。
ちなみに砂糖はそこそこ高級品らしく俺が当たり前のようにコーヒーに入れたのを見て驚いていた。
「とりあえず落ち着いたところで聞いていいか?」
全員が食事を終え落ち着いたタイミングで俺はいくつかの疑問を聞いてみる事にした。
「まず、食料も装備も無い状態で何故王都に引き返す? 状況的にまずは近場のスクルドを目指すのが普通だと思うんだが? まぁ俺たちがいれば問題ないけどそれは本意じゃないんだろ?」
順調に進んだとしても王都まで2週間弱かかる筈だ。
俺たちに頼る気がないなら2、3日でたどり着けるスクルドで補充を済ませ、改めて王都に帰還する方が遥かに確実だし安全だ。
むしろ食料も装備も無い状態で王都を目指すなど自殺行為にしか見えない。
「確かにその通りだ、だが我々も考えた上での決断なのだ」
「だよな? という事はそうせざるを得ない理由があるって事だ」
「その通りだ、このままでは仮に無事王都に帰還出来たとしても恐らく隊律違反で処罰される事になるだろう」
「え? なんでですか?!」
クリスの言葉にステラが驚きの声を上げる。
それには俺も同感だ。
なんでそんな事になるんだ?
クリス達は事実上捨て駒にされたようなものだ。
その上、隊律違反に問われるなんて理解出来ない。
「今回隊を率いていたのがラピーナという男で、この男は伯爵の爵位を持つ狡猾な男なんですが、私はこの男と個人的な確執があり、私を邪魔だと思っている筈です。 万が一我々が生きて王都に帰還しても『仲間を見捨てて逃げ出した』などと騎士団に報告するでしょう」
それはまたなんつぅクソ野郎だ……
そう思ったのは俺だけじゃないようで、ステラとリサも憤慨している。
「それを防ぐにはあの男率いる本隊が王都に帰還する前に合流する必要がある。 しかし、補給の為にスクルドに向かえばまず追いつけなくなる」
「なるほど、だから無茶を承知で本隊を追う為に来た道を引き返した訳か。 でもその本隊は調査の為にある程度この森に留まる可能性もあるんじゃないか?」
だとすれば合流するのはそれほど難しくはないはずだ。
「それは無いと思いますよ、襲ってきたフォレストウルフの群れの規模から考えて今回の部隊じゃ対処は難しいですから一旦王都に戻ると思います」
ボガードの言う通りだとするとあんまりのんびりはしていられないな。
向こうはある程度人数がいるから移動速度は多少落ちるだろうが、楽観は出来ない。
「なら急いで追った方がいいな、上手く行けばさっきみたいな魔獣に足止めされて早々に合流出来るかもしれない」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! ミナト殿達は無理をする必要など無い、むしろミナト殿の実力を考えれば我々など足手まといだろう」
「何言ってんだ、ここまで聞かされて『じゃあ頑張れよ』なんていう訳ないだろ? むしろ乗り掛かった船だ最後まで付き合うよ」
「そうですね、目的地は一緒ですし、むしろ土地勘があるクリスさん達がいてくれた方が私達も助かります」
「しかしだな――」
戸惑うクリスにリサが首を横に振る。
「なにを言ってもミナトさんはついて行くと思う。 ひとがいいから」
「おい、ひとがいいってなんだよ? もうちょっと言い方があるだろ?」
まったく、悪気は無いのだろうがリサには言葉も教えなきゃならんようだ。
リサは可愛らしく首を傾げて不思議そうな顔でこちらを見ると――
「お人好し?」
「よーしよく分かった、夜の鍛錬は特別メニューに変更だな」
「ノーノー……謝るからそれは許して」
俺とリサのやりとりにステラが小さく吹き出すと、伝染したかの様にクリス達の表情もほころんだ。
リサには場の空気を良くしてくれたご褒美に夜の鍛錬に力を入れてやろう。
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