第48話 犬っころ
本日2話目!
ウェインと別れた後、俺たちは予定通りのペースで街道を進む事が出来た。
移動2日目の夕方には無事森の入り口にたどりつく事が出来た。
暗くなるまで多少時間はあったが、森に入ってすぐ夜になる。
少し早いが俺たちは森の手前で野営し、3日目の朝から森を抜ける事にした。
街道には魔物や魔獣が寄りずらい魔導具が仕込まれているお陰で夜も比較的安全に過ごせる。
それでも普通は魔物や魔獣、それに野盗に備えて交代で見張りを立てるのが常識なのだが――
「儂らに任せて良いぞ? 儂は睡眠を必要とせんからのぉ、なにちょっぴり晩酌の用意さえしてくれればお主らはゆっくり眠れるぞ」
「仕方がないからな、我とタナトスに任せておけ」
旅立つ前にそう聞かされていたので俺のアイテムボックスには酒とつまみが大量にストックされているのだ。
酔っ払いに見張りを任せるのは少々不安だったが、特に問題は起きなかった。
お陰で旅における難題を簡単に解決する事が出来た。
そんな訳で俺たちは2日目の野営もゆっくり休む事が出来た――
「と、言う訳でここからは森を抜ける。 迷子になったらヤバいから固まって動くぞ」
「はい!」
「……わかりました」
ステラはいいが、リサの声に元気がない。
まぁ原因はわかっている。
「リサちゃん大丈夫ですか?」
「ダイジョウブ……わたしはまだ動けます」
朝、俺が日課として始めた鍛錬に付き合うと言うので付き合わせた結果、既に体力を使い果たしてしまったようだ。
「ミナトがあんな無茶苦茶な事をさせるからだ。 もう少し考えて鍛えてやれ」
「なに言ってんだ、あれはリサ用の鍛錬でかなり軽いメニューだぞ?」
「正気か?」
「え? 冗談ですよね?」
「…………」
え? なに? 朝だしそんなにキツい事させたつもりは無いんだけど?
リサが遠い目をして小刻みに震えてるのは何故?
「リサ、悪い事は言わん、此奴に師事するのは考え直した方がいいと思うぞ」
おいコラ、人の弟子になに吹き込んでんだ。
ステラも若干遠慮がちに小さく頷くのやめて、ホントに俺がおかしいみたいじゃん!
「だ、だい……じょ……うぶ…………かな?」
なんで疑問系?
あとリサの目にうっすら涙が浮かんでるのは気のせいですかね?
「と、とりあえず出発するぞ! 出来れば予定通り2日で森を抜けたいんだ、遅れて数日こんな森で野営なんて避けたいからな」
とりあえず鍛錬メニューは少し見直す事にしよう。
♦︎
森の中は鬱蒼と生い茂る木々が陽の光を遮り薄暗いものの、歩くのに困るほどではない。
街道としある程度整備されているので足元も悪くない。
これなら思ったより苦労しなくてすむ――
「と、思ったんだけどなぁ」
「ウゥゥ……」
目の前で唸り声を上げるのは3匹の犬らしき生き物――
「犬好きとしては出来れば穏便に済ませたいんだけどな」
「た、多分狼じゃないですか?」
犬も狼も大して変わらないだろ。
まぁいい、とりあえず追い払ってみるか。
「ガァ!」
3匹の内1匹が飛びかかってくる。
犬らしい瞬発力で一気に俺の喉元に噛みつこうとしてくるが、所詮は犬だ。
真っ直ぐに飛びかかってくるだけの攻撃など受け流すのは容易い。
円で受け流し、そのまま地面に叩き伏せる。
「キャウンッ!」
可哀想な鳴き声を上げつつもフラフラと起き上がる。
だが、その目に抵抗の色は無くそのまま一目散に逃げ出した。
残りの2匹も仲間が逃げ出すとすぐに森の中へと消えていった。
やっぱり魔獣なんて言われても動物は動物だな。
敵わないと知ればすぐに引いてくれた。
無駄な殺生は避けられるなら避けたいからよかった。
「か、簡単に追い払っちゃいました」
「さすがミナトさんです」
褒められて悪い気はしないが、所詮犬っころだ。
噛みつかれさえしなければ脅威にはならない。
「しかし、森の中だと襲ってくるやつもいるな」
スクルドからここまで魔物や魔獣に襲われる事はなかった。
森の中だと魔物避けの魔導具も絶対ではないらしい。
「とりあえず周囲の警戒は怠らないようにしつつ、先に進もう」
キースの情報では狼の魔獣が森に出ているという話だった。
さっきのがそうなら森を抜ける事は出来るだろう。
だが、油断は出来ない。
俺なら例え不意打ちでも対処出来るが、ステラやリサに襲いかかったら怪我じゃ済まないかも知れないからな。
『…………!!』
「ん?」
そんな事を考えていると進行方向から人の声が聞こえた気がした。
「ミナトさん! この先で誰か襲われてる!」
「ッ! 2人とも行くぞ! 絶対に離れるなよ!」
リサはかなり耳がいい。
そのリサが言うのだから俺の聞いた声も偶然ではないだろう。
状況は分からないが、放っておく訳にはいかない。
俺たちは一斉に駆け出した――
♦︎
「隊長! 逃げて下さい!」
「馬鹿を言うな! 俺だけ逃げるなんて出来る訳ないだろ!」
周囲を取り囲むフォレストウルフは数十匹だろうか。
一瞬でも油断すればすぐさま死角から襲いかかってくる。
既に部下2人が深傷を負い、逃げる事も出来ない。
このままでは全滅するまでそう時間はかからないだろう。
あの男が逃げ出さなければなんとかなった筈だ。
嘆いた所でどうにもならない事など分かっている。
それでも王都に残してきた彼女を思うと恨み言の一つも叫びたい気持ちでいっぱいになる。
「隊長!!」
部下の叫び声に咄嗟に振り返るが、遅かった。
背後から飛びかかりをギリギリ剣で防いだものの体勢を大きく崩し、そのまま地面に倒されてしまう。
「グルァ! ウウウウゥ!!」
完全にマウントを取られた、すぐに他の狼達も襲いかかってくるだろう。
(すまない、君を残して――)
「オラァ!!」
「ギャイン!!」
思わず目を閉じ、心の中で彼女に謝りかけた瞬間、ふと身体から重さが消えた。
「爺さん! マジで大丈夫なんだな!!」
「任せい、ステラ達には指一本触れさせんわい」
「リサは怪我人の治療だ!」
「分かった!」
目を開くとそこにはひとりの少年が私を庇う様に立っていた。
♦︎
状況はかなりヤバそうだ。
さっきの犬っころが辺りに数十匹、四方を囲みこちらの隙を伺っている。
この男が地面に倒された時には肝が冷えたが、なんとか間に合った。
とは言え、周りを完全に囲まれている以上油断は出来ない。
「おいアンタ大丈夫か!」
「あ、ああ、君は一体――」
「悠長に自己紹介してる暇はなさそうだ、ぞっ!!」
飛びかかってくる犬っころを蹴り飛ばす。
嫌な手応えが足に伝わってくるが、加減する余裕などない。
「悪いな、お前らに恨みはないがかかってくるなら容赦出来ないぞ」
「犬相手に言ったところで通じる訳なかろう」
確かにその通りなんだけどさ……
「ガァ!」
「ッ! はッ!」
数は多いが、基本的に飛びかかってくるだけなので対応するのは難しくはない。
次々と襲いかかってくる犬っころを片っ端から投げ飛ばすか蹴り飛ばす。
同時に襲いかかってくる場合もあったが、直線的な動きばかりなので躱す事も難しくない。
「ほッ! せい!!」
10匹目を地面に叩きつけたところで、遂に敵わないと思ったのか犬っころ共が逃げ出してくれた。
「ふぅ……なんとかなったか」
周囲には動かなくなった犬っころが数匹横たわっている。
仕方なかったとは言え、少し心が痛んだ。
「大丈夫か?」
改めて助けた男に声をかける。
全身に鎧を身につけ、一見すると騎士に見える。
多分話に聞いていた王国の騎士だろう。
「たすかった……のか?」
「ああ、ギリギリだったけどな」
座り込んだまま呆然としている男に手を差し出した。
応援よろしくお願いします!m(_ _)m