第47話 賭けるか?
ブクマ貰った。
テンションテンションめっちゃ上がる!
この男の境遇には同情を禁じ得ない。
他人を傷つける行為に及んだ事は許されないが、ギリギリ一線を越えなかったのだ、立ち直るチャンスくらいあってもバチは当たらないだろ。
「聞こえなかったのか? 俺がアンタに仕事を頼むって言ったんだよ、まぁキツい仕事だろうけど受けてくれるならさっきの事は忘れる事にする。 どうする?」
「おい、ミナトいくらなんでも甘すぎるぞ! 大体この男の話を鵜呑みにする気か?」
クロの言う通り、ひょっとしたらさっきの話はデタラメで実は既に一線を越えている可能性もある。
だが、多分本当の話だ。
根拠も一応ある。
「こいつ、さっきの戦いで一度も殺しに来なかった。 最初の攻撃も、その後の攻撃も全部急所以外を狙ってたんだよ」
世の中には他人をなんとも思わない奴もいる。
自分以外などどうなろうと、それこそ死のうがお構いなしで自分の欲望を満たそうとする。
最初から殺しにくるか、ステラ達を狙っていたら俺も容赦などしなかった。
この男はまだそこまで堕ちていない。
「なんで? なんでそんな……そっちの小さいのが言う通りだ! なんでそんな甘い事が言えるんだ!」
「ならここで俺がお前を殺せば満足か? それこそごめんだね、俺は出来れば殺しなんてしたくないんだ。 まぁそうだな……どうしても理由が欲しいなら――」
俺はニヤリと悪い笑みを浮かべ言ってやる。
「俺は聖光教会って奴が大っ嫌いなんだよ」
「はぁ??」
ウェインはまるで何を言っているのか分からないといった様子で口を開けたまま固まっている。
「少なくとも今のところ聖光教会の連中でまともな奴は見た事がない、アンタに集った連中もそうだしな」
「あ、アンタ自分が何言ってるか分かってんのか?! この世界で連中にそんな事言ったらどんな目にあうか――」
「あ、もう既に3人くらいぶん殴ってるから今更だな」
「はああああ??!!」
♦︎
「ま、マジっすか? 迷い人? 初めて見ました」
ようやく落ち着いたウェインと食後のコーヒー片手に俺達の事を簡単に話した。
「嘘くさいだろ? でも本当の話なんだよな」
「いや、信じますよ、この世界の人間で獣人を助ける為に聖光騎士にケンカ売る人なんて聞いたこと無いっすから……あ! お、おお俺は獣人差別とかしないっす! だから拳を握るのは勘弁してください!」
「まったく、本人を目の前にそういう事言うなよ、それとリサって名前があるんだ」
ちょっと過剰なのは自分でも分かってるが、表に出さないだけで本当はまだ辛いかも知れないんだ。
「リサさんすみませんでした!」
「大丈夫、気にしてない。 あとリサでいい」
「わ、分かりました! 自分もウェインでいいっす」
「分かった」
どっちが年上か分からなくなる会話だな。
口調もさっきまでとは全然違うし、こっちが素なのか?
まぁどっちでもいいけどな。
「ついでと言ったらなんだが、とりあえず自己紹介は済ませておくか」
そう言って俺はステラに視線を送る。
「え? あ、ああ! わ、私はステラといいますよろしくお願いしますウェインさん」
「我はクロ、まぁミナトの精霊という事になっている」
おおぅ! クロが初めてまともな自己紹介を!
「儂はタナトス、アンデットじゃミナト達を観察する目的で同道しておる」
デフォルメ爺さんもさりげに自己紹介に混じっとる。
つかさっきまで姿消してたよね? ウェインが混乱してるじゃん!
「え、えぇと、ウェインっす。色々ご迷惑おかけしてすみませんでした」
混乱してはいるもののとりあえず頭を下げておく辺り、なかなか適応力は高いな。
「ま、自己紹介はこんなもんでいいだろ。 で、話を戻すぞ? ウェインの職業は盗賊なんだよな?」
件のパーティーでは斥候として偵察や情報収集が主な役目だったと聞いていた。
「はい、戦闘も出来ますけどメインはそっちッスね」
「よし、ならそのメインの仕事を頼む、俺たちはこのまま森の街道を抜けて王都を目指す、ウェインには山脈を抜ける街道に進んで勇者一行の動向とか情報を集めてくれ」
このまま問題なく森を抜けれられれば勇者一行と鉢合わせる心配はないはずだが、万が一森の街道を抜けられないとなった場合に備えなければならない。
その為の情報は是非欲しいところだ。
「勇者一行のっスか? それは構わないッスけどなんでまたそんな事を?」
「あー……まぁ色々とな」
ウェインには俺が光属性である事は伏せているので疑問を抱いても不思議はないだろう。
「さっき言ったであろう? こやつはスクルドで聖光騎士と揉めたのだ、貴様とて勇者と対面したくはあるまい?」
ナイス言い訳だクロ!
「うっ! た、確かにそうっすね……分かりました! その依頼確かに承ったッス!」
「ああよろしくな、じゃこれ依頼料ね」
そう言って俺は金貨を一枚放って渡す。
「ちょ! コレ金貨じゃないっすか! こんなに受け取れないっすよ!」
そうなのか?
相場が分からないからとりあえず適当に渡したのだが、どうやら多かったらしい。
まぁ別に構わない。
「いいから受け取れ、んで早く行け、俺たちはゆっくり行くつもりだが、早くしないと追いつけなくなるぞ?」
「いやでも――」
「ごちゃごちゃ言ってないで早く行け!」
「は、はいぃ!!」
強めに威圧するとウェインは慌てて回れ右する。
「あ、それと何があっても俺たちの事は話すなよ? それだけは約束してくれ」
首だけ回してこちらを見たウェインはキョトンとしている。
「は、はぁ……了解ッス、約束するッスよ」
「よし、じゃあ頼んだぞ」
「うっす!」
そう返事を残してウェインは街道を戻っていく。
「よし、じゃあ俺たちもそろそろ行くか」
「そうですね」
「お、お腹いっぱいでちょっと苦しい」
そりゃその小さい身体であれだけ食えば当然だ。
結局何杯食ったんだ?
少なくとも5回はおかわりの声を聞いた気がするぞ?
「あれだけ食べたら当然です!」
ステラがお説教とは珍しい、が、当然っちゃ当然だな。
「おいミナト」
「ん?」
クロがため息混じりに耳元で声をかけてきた。
まぁなんとなく何を言われるか分かってるけどね。
「貴様この先もあんな風に情けをかけていたらその内足元を掬われるぞ? 昨晩も言ったがステラ達を守ると言うなら甘い考えはほどほどにしておけ」
やっぱそういう話しか、まぁここはとぼけておくとしよう。
「なんだよ、別にいいだろ? お陰で勇者一行の情報が手に入りそうなんだから」
俺の言葉にクロはあからさまに大きく嘆息する。
「シラを切っても無駄だぞ、貴様とてあの男が戻るとは思っておるまい?」
ま、クロの言うことももっともだ。
ウェインに言った通り俺は実際に聖光教会の騎士をぶっ飛ばしている。
そしてそれを理由にウェインに勇者の情報収集を頼んだが、それはウェインも同じだ。
ウェインも聖光教会の象徴である勇者一行になど会いたくないだろう。
ましてや俺はウェインに前払いで金貨を渡した。
このまま逃げる可能性は大いにある。
だが――
「いや、俺はアイツが戻って来るって信じるよ」
「ほぉ? ならば賭けるか? 奴が戻らねば一晩好きなだけ酒を飲ませて貰うぞ?」
「なら俺が勝ったら3日間酒抜きな」
クロは自信満々だが、それは俺も同じだ。
根拠など無いが、アイツは戻って来る、絶対な。
――――――――――
おまけ
ミナト「そういやお前さっきと全然口調が違くないか?」
ウェイン「そうッスね」
ミナト「なんで?」
ウェイン「その方が迫力あると思ったッス」
クロ「馬鹿だな」
ミナト「アホくさ……」
ウェイン「酷いッス!!」