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異世界転移したら自称魔王に取り憑かれていたんですけど  作者: にゃる
第3章 魔獣の森と騎士団、そして神獣登場
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第44話 魔獣の森

 異世界に来て5日目、遂に本格的な冒険が始まる――


 はずだったのだが……


「貸し出せない?」


 街を出る前から思いっきりつまづいた。


 昨夜のささやかなパーティーから一夜明け、朝食の場で俺はみんなに今日街を出る事を伝えた。

 本当はもう少し滞在するつもりだったのだが、勇者一行がいつこの街に来るか分からない。

 万が一にでも鉢合わせたら間違いなく面倒な事に気しかしない。


 ならばマーリンの依頼もあるのでさっさと街を出てしまった方が間違いがない。


 特に反対意見もなく、全員の了承を得る事が出来た。


 世話になった女将に礼を告げ、武具屋のガーブやキースに挨拶を済ませる。


 マーリンにも一言伝えるつもりだったのだが、不在だったのでギルド職員に伝言を頼んだ。


 一通りの挨拶を済ませ、最後に立ち寄ったのが今いるココ――


 馬ギルドだ。


 国内の主要な街に支部を置き、レンタル料と保証金を支払えば馬と馬車を借りる事が出来る。


 と、キースに聞いて来たのだが――


「申し訳ありません……街から出る冒険者はいるものの、戻ってくる馬がさっぱりで全て出払ってるんですよ」


 馬ギルドの男性職員が申し訳なさそうに頭を下げる。

 どうやら最悪のタイミングにぶつかってしまったようだ。


 普段は馬の数が減ると王都にある本部から馬ギルドの職員が補充に来るが、街道のトラブルが原因で補充が絶たれてしまったそうだ。


 それに馬が返却されたとしても、しばらくの休養が必要らしくどうあってもしばらくは貸し出せる状況にないと言われてしまった。


「どうしましょうか?」

「歩く?」


 徒歩か……

 まぁ悪い案ではない。

 今後の事も考えれば体力はあって困らない。

 体力をつける為にも徒歩で行くのもありっちゃありだが……


「ちなみにここから王都まで徒歩で行くとしたらどのくらい掛かる? ちなみに森の街道ルートで」


 俺の言葉に馬ギルドの職員は驚きの表情を浮かべた。


「あの森を抜けるんですか?! やめた方がいいですよ! それならせめて山岳の街道が通れるようになるのを待った方が――」

「色々と事情があってな、急いでるんだ」


 嘘は言ってない、色々と事情(勇者に会いたくない)があるのだ。


「うーん……街道を進んで2日で森の入り口に、順調進めば更に2日で森を抜けて、後は1週間も歩けば王都には着くと思いますが、途中に街や集落はありませんし、何より今森はかなり危険な状況だと聞いています。 本当にやめた方がいいと思いますけど……」


 なるほど余裕を見て大体2週間くらいの道程か、俺は問題無いが、2人は大丈夫だろうか?


「私なら平気ですよ」

「私も大丈夫」


 こっちの心配をよそに2週間という長距離移動の話を聞いても顔色一つ変えなかった。


「なら決まりだな」


 俺たちの会話を聞いて馬ギルドの男性職員は慌てた様子で再び思いとどまるように口にするが、俺が頑なに考えを変えない事に最終的には深いため息をついて説得を諦めたようだった。


「悪いな、気を使わせて」


「いえ、お客さんにも事情があるんですよね? むしろ出過ぎた真似をして申し訳ありませんでした。 お詫びと言ってはなんですが――」


 そう言って一枚の紙を差し出した。


「古い物ですが良かったら使って下さい」


「これはもしかして地図か?」


 渡された紙は一目で地図と分かる物だった。

 土地の高低差など詳しい情報は載っていないものの、街道や森の位置、大きさなど必要になりそうな情報は一通り揃っている。


「いいのか? こっちとしてはすごい助かるが……」


 実は旅支度の中で絶対に欲しかったが、唯一手に入らなかった物が地図だった。

 この世界で地図は王家の専売であり、王都でしか入手が出来ないらしい。

 正規品を転写したものもあるらしいが、販売は違法であり厳しく罰せれる事もあり、闇市などでしか手に入らず、高額で粗悪なハズレも少なくないそうだ。

 幸い王都までは街道沿いに進めば迷う事はないと言われたので諦めていたのだが、思わぬところで手に入ってしまった。


「はい、ご覧の通り既にボロボロになっていますし今は新しい地図を使っているので問題ありませんよ」


「でも王家以外が地図を売ったら捕まるんじゃなかったか?」


 こちらは助かるが、それでこの人が捕まって罰せれるなんて事になっては申し訳ない。


「ええ、販売すれば捕まります。 が、譲り渡す事についてはある程度黙認されているんです。 ベテラン冒険者が新米冒険者に古い地図を譲ったりする慣習もありますから。 せめてものお詫びという事で役立てて貰えれば嬉しいです。 でも他のお客さんには内緒ですよ?」


 男が人差し指を口元に当てる。

 その仕草に思わず笑みが溢れる。


「なら、ありがたく使わせてもらうよ」


「はい、お気をつけて! でも最後にこれだけは言わせて下さい、危険だと思ったら無理はせず、引き返して下さい。 どんな事情にしろ命には変えられませんから」


 本当に心底こちらを心配してくれているのが伝わり、俺は深々と頭を下げた。


「ああ、約束するよ」


「はい!」


 この世界に来て色々な人を見てきた。

 時には嫌な思いもしたが、やっぱり優しい人もいるんだと改めて思わせてくれた彼に俺たちはもう一度感謝の気持ちを込めて頭を下げたのだった。


 ♦︎


「ふむふむ、ここがスクルドの街でココが王都か。 ここは?」

「聖都ヴァルキュリアですね、聖光教会の総本山です」

「うぇ……できれば行きたくないな……」


 思わず変な声が漏れてしまった。


 俺たちはスクルドの街を後にし、今は目的地である王都に向かい始めていた。

 今は馬ギルドで貰った地図を眺めながら少しでも地理を把握

 しようとしているところだ。


「こっちが沿岸都市ニョルズ、ここが鍛治師の街トールですね」


 地図には主要な街と都市が記されているのだが、当然読めないので相変わらずステラに読んでもらっている訳だが――


「辺境の街スクルド、ねぇ……」


 ちなみに王都はまんまセレニアだそうだ。


 王都は例外として、ここまで揃ってくるといよいよ俺だって気がついてしまう。


(うーむ……なんだって異世界で北欧神話に関連する名称が街や都市の名前になってんだ?)


 スクルドの街だけなら偶然で片付くのだが、これだけ主要都市が北欧神話関連だと偶然で片付けるのは無理がある。


 とは言え、考えたって答えなど出るはずもない。

 今は頭の片隅に留めておくくらいしか出来ないか――


「ミナトさん? どうしたんですか難しい顔してますけど……」


 ひとりで頭を捻っていたからかステラが心配そうな顔でこちらを伺っている。


「ああ悪い、いい加減この世界の文字も覚えないとなぁって」


 とりあえず適当に誤魔化してしまった。

 どうせだったら街の名前に由来がないか聞いてみれば良かったか?

 まぁいいか、そのうち聞いてみよう。


「とりあえず今聞いたのがセレニア王国の主要都市ってわけだ」


 とりあえずステラと地図のおかげでセレニア大陸を大まかに理解する事が出来た。

 広さはおおよそだが北海道程度だろう。

 スクルドの街と王都の距離から大雑把に割り出したがまぁそこまで差は無いと思う。

 大陸と言うよりむしろ島と言った方がしっくりくる広さな気がするが、まぁ言っても仕方ない事か。


 大陸自体は綺麗な卵型で、スクルドの街は大陸の真北にある。

 王都は大陸の中央、聖都が北西、沿岸都市が南西で鍛治師の街が東にある。


「なるほど、スクルドと王都の間にあるこの山脈を迂回するルートが今俺たちが進む街道ってわけか」


 スクルドから伸びる街道は2つ――


 スクルドから伸びる街道は最初こそ一本道なのだが、かなり早い段階で南西に向かう街道と南南東に向かう街道の2本に分かれる。


 南西に向かうルートはスクルドと王都を隔てる山脈を越えるルートで俺たちが今進む予定のルートより距離的にも山脈を越えるという意味で遠回りなのだが、途中にいくつも街や集落、宿場などがあるようだ。

 特に目立つのが聖都ヴァルキュリアを経由しているところだろう。

 一方、俺たちが進むルートは山脈を迂回し、真っ直ぐ王都に向かうルートなのだが、馬ギルドの男性が言っていたように途中に集落や宿場などが存在しないようだ。


 なにより目を引くのが――


「魔獣の森、ねぇ」


 なんとも物騒な名前の広大な森が地図に記されていた。


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