第42話 杖術
PVが1でもつくなら投稿を続ける!
botだったら泣けるけどなっ!!
「こんなもんでいいだろ」
リサの新しい武器を試す為に裏庭にやってきた。
一応強度の確認と実際に問題なく使えるかを確かめる為だ。
その為にガーブに頼んで裏庭に処分予定の鎧を的がわりに設置してもらったところだ。
「ああ、充分だ。 一応確認だけどソレ壊れても問題無いんだよな?」
「ああ、問題ねぇよ、つってもいくらミスリス製とは言えそんなモンで壊れるほどヤワな鎧じゃねぇけどな」
いや多分ぶっ壊れると思う。
「おいミナトいい加減説明しろ、なぜ魔術師であるリサに武器を持たせる必要があるのだ? むしろ魔術師は自らに合った杖を持たねば魔術の効果が半減するぞ?」
「らしいな」
その話なら既に昨日ガーブから聞いていた。
だからこそガーブに頼んでコレを作って貰ったのだ。
「だからコレは武器であると同時に杖でもあるんだよ、そうだよな?」
「ああ、先日渡した杖を加工して作ったもんだからな、魔力と親和性の高いミスリスで杖をコーティング、更に陽系統の効果を高めるヒヒイロカネも使ってるぞ」
陽系統?
また聴き慣れない単語が出てきたな……まぁいいや、後で爺さんにでも聞いてみるとしよう。
「ヒヒイロカネってこの赤い紋様の部分か?」
銀色に輝く棒の両側に揺らめく焔の様な紋様が真っ赤な金属で表現されている。
「ああ、かなり希少な鉱石なんだ感謝しろよ?」
確かにこんな色の金属は見たことがない。
つか希少な鉱石って、まだ代金払って無いけど大丈夫だよな?
一応予算は金貨10枚程度って伝えてあったはずだが――
「安心しろ、代金は予算通りにしか請求しねぇよ」
また顔に出ていたのか……
それにしてもガーブの言い方だと実際に買ったら予算オーバー確実っぽいな。
「まぁ足りねぇ分はそいつを実際使ってる所を見せてもらうっつう事で問題ねぇ、そんなモンが実用的な武器になるなら今後の武器作りの参考にはなるからな」
「あー……そいつはどうかな、あんまり実用的な武器では無いぞ」
はっきり言ってしまえばコレを使えるのは今のところリサだけだ。
同じ魔術師のステラに同じ事をさせても多分無理だ。
「おいおいオメェそりゃどういう事だ? 実用的じゃねぇなら何でそんなモン作らせた?」
ガーブだけでなく、クロもステラもいよいよ訳が分からなくなっている様だ。
まぁ当然だな。
「口で説明するより見せた方が早いだろ、リサもよく見てろよ?」
俺は銀色の棒を右手に持ち、鎧に向かって構える。
一度息を吐き切り、吸い込むと同時に踏み込み、鎧を突く――
「ふっ!!」
真っ直ぐに突き出した棒は正確に鳩尾の部分を捉え、甲高い金属音を上げ、鋭い突きの衝撃で大きくヘコむ――
その勢いを殺さず、素早く先端を引き、今度は喉元を同じく突き上げる――
更に今度は横薙ぎの一閃を兜の横――右側頭部を激しく打ち、流れるように身体を回転させ兜割を繰り出す。
この時点で既に兜は大きくひしゃげているが、俺は手を緩めない。
連撃が10を超えた辺りで遂に鎧は形を保てずその場に崩れ落ちた――
「なるほど杖術か」
クロは今の一連の動きで俺の考えを理解した様だ。
「杖術?! 今のが杖術だと? 世の魔導師が聞いたらひっくり返るぜ?」
杖術自体はこの世界にもあるが、魔導師の護身術程度らしい。
戦闘で使う事など滅多にない。
そもそもが戦闘の為の技術ではないのだから仕方ないか。
だが、そうなるとますます面白いことになりそうだ。
「さぁて、やるか」
一流の杖術使いを育成してやるぜ。
♦︎
最初は興味を持ってもらい、体捌きなんかを少し学べればいいかくらいの感覚だった。
長い目で鍛えれば話は変わるが、そもそもが一朝一夕で強くなるような武術は存在しない。
素人相手に多少有利になる程度の技術ならまだしも本当の意味で強くなるには血の滲むような研鑽を積み上げる必要がある。
そう、普通なら、だ――
「――ッ! 出来た?」
「――ああ……うん、まぁ、出来てるって言ってもいいかな?」
極々稀だが、そんな常識をぶっちぎる者が存在する。
いわゆる『天才』というやつである。
リサはその天才だった。
それも日常的に使われる安っぽ天才なんかじゃない。
凡人の心を一撃で砕きそうな、神様に恨み言を呟きたくなるような正真正銘の天才――
リサはまさにそれだった。
極めて恵まれた動体視力と深視力――
小さな身体で成人男性顔負けの膂力――
驚異的な勘の良さから来る飲み込みの早さ――
もちろんアラを探せばいくつでも見つかるが、このまま一緒に鍛錬すればいずれはそれらも良くなる。
今やっているのは基本的な型なのだが、一度見せただけで一通りの動きは覚えてしまった。
もちろん単なる見様見真似なので直すべき部分は多い、だが明らかに筋の良さが異常だ。
(うーん……魔導師にしておくのはもったいない)
初めて親父の気持ちが分かった気がする。
才能の持つ者を見たら育てずにはいられない。
自分で言うのも変な話だが、血は争えないようだ。
しかし、育てるにしてもこのまま俺と同じ体術って訳にはいかない。
小柄で体重も軽いリサでは体術は不利な面が大きい。
だが、剣術などの武器を使わせるのは気が引ける。
武器を用いる武術は突き詰めれば人を殺す為の技術である事が殆どだ。
だが、そういった技術こそこの世界で生きる為に必要な力かもしれない。
今は一緒にいるが、いつか別れる日が来るかもしれない。
その時にひとりで生き抜く力こそ今から養うべきだとも思う。
だが、出来れば命を奪う為に武術を学んでほしくはない。
あまりにも身勝手なのは分かっているが、それは正直な思いだ。
俺が教えた型を楽しそうに繰り返すリサの姿に俺は頭を悩ませた。
そしてたどりついたのが『杖術』だった。
実戦に耐えうる強さと不殺の理念――
まさに俺のエゴを満たしてくれそうな理想的な答えだった。
♦︎
「まったく、最初は何を言い出すのかと思ったが――」
鍛錬を終え、宿に戻る道すがらクロが嘆息した。
「本気で鍛えるつもりなのだな」
「ん? ああそのつもりだぞ」
何度もリサの意思を確認した上で決めた事だ。
「しかし、アレではどこまで持つかわかったものではない気がするがな……」
「心配してんのか?」
「馬鹿を言うな、大切なヒーラーが逃げ出しては堪らんと言うだけの話だ」
口ではそう言っているが、ただの照れ隠しだろう。
それが分かっているのは俺だけじゃない。
ステラも口元を隠して笑っている。
「でも少し心配です。 ミナトさんも少しは加減してあげて下さい」
そう2人に心配される当人はと言えば、俺の背中でスヤスヤと寝息を立てている。
鍛錬を終えるとすぐに力尽きていた。
「ま、相当過酷なのは俺も分かってるよ、でもリサなら大丈夫さ」
それに2人はこう言っているが、これでも相当遠慮している。
まだ始めたばかりだし、クロの言う通りあんまり無茶をして挫折されては元も子もない。
でもリサはきっとこんな事じゃめげたりしない。
それは才能があるからじゃない。
才能があっても努力出来なければ決して芽は出ない。
何度もリサには言った。
『武術の鍛錬は無茶苦茶キツいぞ? 中途半端に学ぶくらいなら今ある魔法を伸ばした方がいいんじゃないか?』
それでもリサは首を横に振らなかった。
まだ10歳の女の子が決意の炎を目に宿していた。
あの目を俺は知っている。
負けず嫌いで、自分の決めた事から逃げ出す事を良しとしない頑固者の目だ。
(まったく、どうしてこう俺の周りには頑固者で強情っぱりばっかり集まるんだかね)
俺は誰にも気が付かれないように小さくため息をついた。