第41話 またやられた
3章もこまめに更新していきます!
「んじゃその街道のトラブルが原因で王都に向かえないでいるって訳か」
食事を終え、キースから重大な情報を得た。
というのも、このスクルドから王都へ向かう道は大きく二つあるらしいのだが、それぞれの街道で問題が起きているそうだ。
一つは王都まで遠まりで時間が掛かるが、安全かつ休息場所が確保されたルートで山脈を越える道程らしいのだが、その途中にある山村が突如アンデットの大群に襲われたというのだ。
そのルートではその山村を迂回する術がなく、アンデットに襲われ、村人もアンデットと化した危険地帯を抜けるしかない。
結果事実上の通行不可となってしまった。
そしてもう一つのルートはその山脈を迂回する最短ルートなのだが、途中深い森がある。
街道として整備されているので通り抜けるのは問題無いのだが、そちらの森も普段は現れない狼の魔獣が現れ旅人や商人が襲われていると言うのだ。
「やられたなミナトよ」
「なるほどなぁ……マーリンの奴、知ってて俺に王都に手紙を送る仕事振ってきやがったな」
いかに情報通の商人といえど、キースが仕入れられた情報をギルドが掴んでいないはずがない。
またやられたという訳だ。
「そうだったのですが、その問題もまもなく解決しそうなんです」
キースはそう言って何杯目かのカフェオレに口をつける。
どうやら甘みとまろやかさが加わったカフェオレがえらく気に入ったようだ。
まぁそんな事より街道の問題が解決する?
それは是が非にでも理由が知りたいところだ。
何故かって?
そんな都合のいい話は世の中そうそうない。
無性に嫌な予感がするのだ。
「宿場町のアンデット討伐に聖都から勇者様が向かわれたそうなんですよ」
ほらね、絶対ロクな事じゃないと思ったよ。
嬉しそうなキースには申し訳ないが、聖光教会とは出来るだけ関わり合いになりたくない。
ましてや勇者一行など絶対に対面したい相手ではない。
仕方ない、その勇者様一行がアンデット問題を解決してくれるまでスクルドに滞在するしかないか――
「しかもアンデットの討伐を終えたらこの街に来られるそうなんですよ!」
滞在すら許されなかった!
冗談じゃねぇぞ、王都に向かうには勇者と対面するルートか危険な森を抜けるしかなく、かと言ってトラブル解決まで待てば勇者の方からこの街にやってくる。
なにそれ、なんの嫌がらせだよ。
まぁ、考え方を変えれば事前にその情報を得る事が出来ただけありがたい話だ。
「森の街道の方も王都の騎士団が解決に向かったそうですが、そちらの方は少々時間がかかりそうだと聞いております」
ため息が止まらない……
しかしそうなるといよいよ困った。
聞けば王都に向かう街道は他になく、街道を外れて行くのは危険すぎるとの事。
仕方ない、多少危険でも森の街道から王都へ向かう事を考えるしかない。
勇者一行をスルーするにはそれしか方法がない。
山の街道を行く選択肢は無い。
宿でこっそり過ごすのも多分無理。
ここまで嫌な事が重なっているのだ。
何事もなくすれ違うなんて都合の良い事は絶対にない。
間違いなくトラブルに巻き込まれる。
ホント、なんでこう厄介ごとが続くかな……
♦︎
食休を終え、店を出る事にした。
勘定を頼むとカフェオレのレシピを提供したお礼にタダでいいと言われちょっとだけ得した気分になるも、今後の事を考えるといまいち喜べなかった。
「キースさん」
店を出た所で背後からキースに声が掛かった。
「おおヴァイスさん、すみませんお待たせしてしまいましたかな?」
ヴァイスと呼ばれた男を見て俺はこの世界に来て初めて感心する事になる。
(へぇ、強いなこの人)
腰に長剣を下げ、綺麗に磨かれた鎧を纏っている。
そこだけならこの街でも沢山見かけた。
だが、このヴァイスと呼ばれた男は明らかに見掛け倒しの冒険者や教会の騎士とは一線を画している。
場数を踏んでいる人間だけが持つ空気をまとっている。
「ああ、すみませんミナトさんとリサさんは初めてでしたな、こちら冒険者のヴァイスさんです。 普段から行商の際に護衛をお願いしているんですよ」
「はじめまして、冒険者のヴァイスだ。 気軽にヴァイスと呼んでくれ、君が噂のステラの王子様だな?」
「な! ヴァイスさん! からかわないで下さい!」
え? なにそれどういう話になってんの?
つかステラは面識があるんだな。
「ソーン村では周囲の警戒で主に動いているので会えずじまいだったが、話は聞いているよ、あのオークを素手で倒す程の実力者だとか」
そう言って左手を差し出してくる。
ふーん……左手ねぇ……
この世界でどういう意味を持つかは知らんが――
俺は差し出された手をしっかりと握り返す。
どういう意図かは知らんが乗ってやろうじゃないか。
「…………」
「…………」
お互い握手をしたまま無言で探り合う。
側から見たら不思議な光景に映りそうだ。
そのまま数秒の後にどちらからともなく手を離した。
「なるほど……是非一度お手合わせ願いたいものだな」
「ま、機会があったらな」
口ではそう言ったが、あまり気は乗らない。
そんな機会が訪れない事を願うばかりだな。
「じゃ、キースさん有用な情報ありがとな」
「いえいえ、王都でまたお会い出来る事を楽しみにしていますよ」
2人に軽く頭を下げ、別れを告げその場を立ち去った。
♦︎
私は立ち去る彼らの後ろ姿を眺めつつ大きく息を吐き出した。
まさか自分より一回りは若いであろう青年に戦慄を覚えるとは思ってもみなかった。
どうしたらあの若さであの境地に至れるのか疑問でならない。
自分で言うのもなんだが、これでも腕にはそこそこの覚えがある。
幾度もの死線をくぐり抜け、経験と実力を磨いてきた。
それでも恐らく、いや、間違いなく私は彼の足元にも及ばないだろう。
手を握っただけだが、それを痛感させられた。
悪い冗談だと思いたいが、手を握っただけで私は完全に動きを封じられたのだ。
気圧された訳ではない、文字通りの意味だ。
指一本動かせなかった――
動こうとすれば次の瞬間には組み伏せられるビジョンを強引に見せられた。
「ヴァイスさんどうされました?」
「いえ私も負けてられないな、と」
もっと精進しなければならないと改めて思うのだった。
おそらく遠からず再び会うことになるだろうからな。
♦︎
「おーいオッサンいるかー?」
キースと別れ、一通り用事を済ませた俺たちはガーブの店を訪れていた。
「おう来たな、出来てるぞ」
どうやら頼んでいたモノは出来上がってるようだ。
「たく、あんなモン初めて頼まれたからな苦労したぞ?」
「無茶言って悪かったな、でもホントに一晩で良かったのか?」
良いモノに仕上がるなら時間を掛けてもらって良かったんだがな。
「馬鹿にすんじゃねぇ、言ったからには一切妥協無しの仕上がりだ、ほらよ」
銀色に輝く筒状の棒を受け取った。
長さは140センチ程で重すぎず軽すぎず、握り易い。
「いいな、少し長いけどほぼ理想通りだ」
「しっかしホントにそれを武器として使うのか?」
そう、これは武器だ。
確かに剣のように刃もなければ槍のように穂も無い。
言ってしまえばただの棒でしかない。
だが、それでいいんだ。
「なんだ貴様それを武器にするのか?」
「いや、何度も言うが基本的に俺は獲物は使わない主義なんでな、これは俺が使う訳じゃないよ」
そう言って俺はその棒を持ち主に差し出す。
「なに?」
「え?」
その棒を武器として使うのが誰かと言えば――
「リサちゃんが使うんですか?」
俺は驚く2人にニヤリと笑みを浮かべるのだった。