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異世界転移したら自称魔王に取り憑かれていたんですけど  作者: にゃる
第2章 狐人族との出会い、そして強敵の出現
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第39話 じゃあやってみるか?

自己満足で書いているので、内容は保証致しかねます。

 ガーブのおかげで絶好の鍛錬場所を確保する事が出来た。

 これなら今日明日中にある程度の調整は出来そうだ。


「よし、やるか」


 よく考えると鍛錬を2日もサボったのは親父達が死んだ時以来かも知れない。

 当時はなにも考えられず、心身ともにガタガタだった。


 こうして立ち直れたのはあの2人のおかげだ。


(ユキとタク心配してっかな……)


 まぁ、考えても仕方ない。

 今はこの世界で生き抜く事、そして元の世界に戻る手段を探す他ないからな。


(あれ? そういやクロは何処いった?)


いつのまにか姿が見えず、声も聞こえない。


短い時間とは言え突然姿が見えなくなれば当然心配に――


なるはずもない。

むしろ静かになって丁度いい。

その内勝手に戻ってくるだろう。


クロの事より今はこっちの方が気になるしな。


「悪いな付き合わせて、退屈だろ?」


 俺は裏庭の隅に体育座りで小さくなっているリサに声をかけた。


「そんな事ない、ぶじゅつ? 少し興味があったから……」


 その言葉に思わず反応してしまう。

 大抵が社交辞令だと分かっていても、ついつい食いついてしまう。


「そっか! じゃ、じゃあちょっとやってみるか?!」


 こういうと殆どが「機会があったら」とか「考えてみる」などと言って逃げられてしまう。

 まぁ、仕方ない事ではあるんだが――


「え? いいの?」


 リサの反応は予想とは真逆だった。


 遠慮がちに聞いてはくるが、目を輝かせて期待の眼差しを向けてくる。


 そんな様子に思わず嬉しくなってしまう。


「いいぞ! じゃあまずは簡単なところからやってみるか!」


 この言葉が予想外過ぎる結果を生むとはこの時思いもしなかった――


 ♦︎


「はぁ……」


 仕方ない事だと思っていました。

 ミナトさんは元の世界に戻る方法を探すと言っていたんですから、いずれはお別れしなくちゃいけなかったんです。

 私は戦ったり出来ませんから一緒にいたら迷惑にしかなりません。


 それでも、いざお別れを告げられたらとても悲しくて寂しくなってしまいました。


 あんな顔を見せて、きっとミナトさんを困らせてしまいました。


「はぁ…………」


 さっきからため息が止まりません。

 早く気持ちを切り替えなくてはいけないのに……


「おや? ステラさんじゃないですか」


 突然声をかけられ、慌てて顔を上げるとそこにいたのは商人のキースさんでした。


「こ、こんにちわ!」


 慌てて笑顔を浮かべましたが、上手く笑えているか分かりません。


「どうかしましたか? あまりお元気がないようですが……それに、ミナトさんとあの少女はご一緒ではないのですか?」


「え、えっと……そ、そうです! 実はミナトさんからお仕事の事を聞いてご挨拶に伺おうかと」


 ご挨拶に伺おうと思っていたのは本当ですが、つい誤魔化すような言い方になってしまいました。


「そうでしたか、丁度トラブルがあって私も街を出発出来ずにいたところです。 人を待っていますのでここを動けませんが、よろしければ少しお話でもしませんか?」


 キースさんはそう言って穏やかな笑顔を向けてくれます。

 その笑顔を見た瞬間、私の視界が一気にぼやけてしまいました。


「お、おやおや! どうしました?!」

「ご、ごめんなさい、大丈夫です」


 口ではそう言ったものの溢れる涙は止まりません。

 変です、今まではどんなに辛くても人前で泣いた事なんてなかったのに――


「強がりなんて言わなくてよろしいのですよ、さぁさぁここに座って、これで涙をお拭きなさい」


 キースさんはそれ以上なにも言わず、ただ黙って私が泣き止むのを待ってくれました。


 私がようやく落ち着いたところでキースさんが訪ねてきます。


「落ち着いたようですね、それでどうしたのですか? と聞くまでもありませんか、ミナトさんの事なのでしょう?」


「はい……」


 私は先程の事を素直に話しました。

 話したら少しは気持ちに整理がつく気がしたからです。


「ふーむ……ステラさん、それはそんなに考える必要など無いのではないですか?」


 キースさんは困ったような笑みを浮かべます。

 当然です、素人の私が旅をするなんて無理な事ですから――


 でも、続く言葉は私の思っているのとは真逆の言葉でした。


「ミナトさんについていけばいいじゃないですか、悩む必要なんてありませんよ! 彼ならきっと快く受け入れてくれます、彼にはそれだけの器がある」


「そんな! 迷惑になってしまいます……」


「でも、ステラさんはついて行きたいのでしょう?」


「それは――」


 即答出来ませんでした。


 そうです。

 最初から自分で分かっていたんです。


 私はミナトさんとお別れしたくありません。


 無茶でも一緒に行きたいと思ってしまっているんです。


 でもそれはこれからもミナトさんとリサちゃんに迷惑をかけるという事です。


 そんなの許されない我が儘です。


 それでも――


「ついて……行きたいです……」


 遂に口にしてしまいました。

 必死に蓋をして、溢さないようにしていた我が儘が口を突いてしまいました。


「やれやれ、ならばそうミナトの奴にハッキリ言ってやれば良かろう」


「まったくじゃ、ミナトも変に格好などつけず誘ってやれば良いのにのぉ」


「え?! クロさんとタナトスさん?!」


 突然聞こえてきた声に驚きのあまり飛び上がりそうになります。


 相変わらずタナトスさんの姿は見えませんが、いつの間にかクロさんは私の肩に乗っています。


「見ていて歯痒い事この上なかったぞ? そうと決まったのであればさっさとミナトの奴に言ってしまえ」


「安心して良いぞ? 儂がお主を立派な魔術師にしてやるわい」


「え? え?」


 突然過ぎる出来事に理解が追いつきません。


「面倒をかけたなキース、我から言ってやるつもりであったが、貴様が言ってくれて助かったぞ」


「いえいえとんでもない、私は思った事を言ったまでですよ」


「ふむ、しかし貴様本当に商人なのか? これほど気立の良い娘を雇うチャンスを自ら捨てるなど、利益を追求する商人とは思えんな」


「ははは、まったくもって仰る通りです。 しかし、商人としては失格かも知れませんが、人として間違っているとは思いませんので」


 クロさんとキースさんの話を眺める私にはタナトスさんが小声で話かけてきます。


「ここだけの話じゃが、クロはお主の事が心配でこっそり後をつけてきたんじゃよ、ミナトの奴も内心では悩んでおったからのぉ」


 その言葉で私は決心しました。

 もう悩むのはやめましょう。

 今は自分に素直に、正直な気持ちをミナトさんに伝えに行きます。


 でもその前にまずは――


「皆さん、ありがとうございます」


 こんな私を励ましてくれた3人に私は深々と頭を下げるのでした。


 ♦︎


 日が暮れる前に鍛錬を切り上げ、宿に戻る事にした。


 正直に言えば、鍛錬中もステラの事が気になっていまいち集中し切れなかった。


 ステラを街に残す決断は間違ってはいない。

 だが、あの悲しそうな顔が頭をチラついて離れなかった。


 そういえば気がついたらクロがいなくなっていたが、アイツどこに行ったんだ?


 居たら居たでアレだが、姿が見えないとそれもそれで落ち着かない。


 間違っても寂しいとかではない。

 なにかやらかしそうで不安という意味だ。


「ミナトさん!!」


 もうすぐ宿に着くというところで後ろから声をかけられた。

 それが誰なのか声を聞けば分かる。

 振り返り、努めて自然に返事をしようとしたところで思わず固まってしまった。


 その顔は真剣そのものでなにか決意めいたものを感じる。

 何故かはわからない、だが、それだけでステラがなにを言おうとしているのか理解できてしまった。


「あ、あの! ミナトさん言ってくれましたよね! これからは自由に生きて良いって!」


「……そうだな」


「大変な事もあるけど楽しまなきゃ損だって言ってくれました」


 ああ、そうだ、俺がステラに言った言葉だ。


「少しくらいワガママを言っていいって言ってくれました」


 往来でステラが顔を真っ赤に染める。

 行き交う人達が何事かとこちらに目を向けている。


「だから――ワガママを言ってもいいですか?」


 その言葉の続きが分からないほど俺は馬鹿じゃない。

 それはリサも同じなのだろう、既に嬉しそうに顔を綻ばせている。


 あの遠慮がちなステラにここまで言わせたんだ。

 元々俺に拒否する理由なんてない。


 なら俺はステラの決心を喜んで受け入れよう。


「私も一緒に連れて行って下さい!!」


 ホント、格好つかない話だが俺の顔はきっと嬉しくて頬が緩んでいたに違いない。

とりあえず2章は終了です。

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