第38話 コレでいいんだ
しばらくは毎日更新します。
100話くらい書き溜めた!
ギルドでの用事を終えた後、ゆっくり話が出来そうな店に入る事にした。
店員に4人分の飲み物を頼み、それから2人に改めて向きなおった。
「それで話ってなんですか?」
「ああ、今後の事を話しておこうと思ってな」
といってもマーリンの依頼があるので俺が王都へ向かうのは決定事項だ。
「俺は明日か明後日にはここを立つつもりだ。 で、まずステラだが――」
正直、俺が言う事じゃないんだろう。
でもステラは言ってしまえば危なっかしいところがある。
余計なお世話かもしれないが、ステラには出来れば平穏に暮らしてほしい。
「ステラさえ良ければ先日行ったキースさんの店で雇ってもらうといい。 一応話はしてあるから、多分大丈夫だ」
「え!?」
「で、リサ」
「は、はい」
リサに関しては俺も少し悩んでいる。
このままこの街に残すべきか、一緒に連れて行くべきか――
街に残すと言っても多分、街の中では暮らせない。
出会った時の事を思い出してもそうだが、俺は街の中でリサ以外の獣人を見かけた事がない。
多分、獣人は人の街では居場所がないのだろう。
この街が特別そうなのか、どこも同じなのかは分からない。
どちらにしてもここに残していくというのは、森でひとり暮らして行くことと同じだ。
そして、一緒に連れて行く選択肢も難しいところだ。
この世界の事を俺はまだまるで分かっていない。
どれだけの危険が待っているか分からない旅に連れて行っていいものか――
両親の事も解決していないし、なによりリサの気持ちもある。
だから俺から言い出すか悩むところだが、やはりこのまま放っておくのはちょっと違う気がするので、難しい問いだが本人に聞いてしまおうと思ったのだ。
そんな事を俺は正直にリサに告げた。
「まぁ、ゆっくり考えて答えを出しても――」
「一緒に行く!」
リサは迷う事なくそう即答した。
これには俺も驚かされたが、リサの目に迷いはない。
なら、俺の答えは決まっている。
「分かった! なら改めてよろしくな!」
「うん!」
俺が差し出した手をリサは嬉しそうに握り返した。
「そう、ですか……やっぱりお二人はこの街から去ってしまうんですね……」
硬い握手を交わす俺とリサを見てステラがそんな言葉をこぼす。
その顔はとても淋しそうだ。
「……ステラ」
なんと声をかけたらいいか分からない。
だが、その表情を見てなにか言わなければならないと思うのだが、どうにも言葉が出ない。
いっその事「ステラも一緒に行くか?」と言ってしまいたかった。
だが、ステラはリサと違ってこの街で居場所を作れる。
普通に働いて普通の幸せを探せるはずだ。
どんな危険が待っているか分からない旅においそれと誘うような真似はしちゃいけない。
「また、この街には顔を出すよ、約束する」
結局、俺が捻り出した言葉は当たり障りのない、定型文のような言葉だった。
「はい……そうですね、楽しみにしています」
そう言ってステラは笑顔を浮かべるが、その笑顔はひどく寂しげだった。
その後、4人は無言で運ばれてきた飲み物に口をつける。
運んできたウェイトレスの人もあまりにも重苦しい雰囲気に作り笑顔を保てず、そそくさと下がってしまう。
結局それ以上会話も起こらず、味も分からないまま手元の果実水を飲み干し、無言で店を出る。
店を出るとステラはキースの店に挨拶をしたいからという理由で俺達とは別行動を取る事になった。
特に用事も無いのでついて行く事も出来たが、それはやめておいた。
日が暮れる前に宿で合流する約束だけして別れる。
「おい」
ステラが見えなくなったところでクロが口を開いた。
「このヘタレが! 何故ステラを突き放すような事を言う! 居た堪れんかったぞ」
「仕方ないだろ……元々、ステラはこの街で生活する気だったんだ、自然な流れだろ……」
ステラがあんなに落ち込むとは思わなかったから胸は痛んだ。
何よりクロがこんな事を言うとは予想してなかった。
「貴様の気持ちも分からんではない、だが重要なのはあの娘の気持ちなのではないか?」
「…………」
「まぁまだ時間はある、もう一度考えてみればよい」
「……そうだな」
そう口にはしたが、ステラの事を考えればコレでいいんだ。
危険な旅に巻き込む事は出来ない。
♦︎
「このクソガキが! オメェやっぱり俺の話なんにも聞いてなかったんじゃねぇか!」
店内にガーブの怒声が響き渡る。
怒られているのはなにを隠そう俺だ。
「悪かったって、だからこうしてもう一度真面目に説明を聞こうと思って来たんだよ」
「全然悪かったって態度じゃねぇな……仕方ねぇ、もう一度だけ説明してやる」
「サンキュー! あ、でも手短に頼む」
あ、青筋浮かんでる。
これはいかんという事で真面目な表情を作り背筋を伸ばす。
「はぁ……なんでこう……まぁいい、いいか? 出来るだけ簡単に説明してやる」
ガーブは本当に端的に説明してくれた。
無手の神玉とは、素手での戦闘を補助してくれるアイテム。
手足の保護と強化を半分勝手に行なってくれる上に、身体強化の効果もあり、攻撃力はもちろん防御力も上がる。
更に、使用者が込める魔力の属性を反映させ、物理と魔術両方の性質を得ることができる。
極めつけは魔力を集中する事で魔力が物質化するのだそうだ。
「――てな具合だ。 分かったか」
「ああ、今度は理解した」
俺は昨夜の様に魔力を拳に集中する。
すると同じ様に黒い手甲が現れた。
「ほぉ、もうそこまで出来るようになったのか、しかし黒か……オメェ光属性だろ?」
「ん? ああ、面倒な事にそうらしい」
「だとしたらおかしいな、黒は闇属性だった筈だ、光属性は白や銀、虹色に物質化する筈なんだがな」
なるほど、どうやらこの手甲は闇属性の魔力が物質化したって事か。
しかしそうなると色々説明が面倒だな。
「まぁ色々と事情があるんだ、その辺は詮索しないでくれると助かる」
とりあえず適当に誤魔化してみたところ、ガーブはそれ以上なにも聞いてこなかった。
「で? 今日は他になんか用事はあるのか?」
「ん? あ、そうだ、実はちょっと身体が鈍っててな、街の中に鍛錬出来る場所とかあるか?」
昨夜の戦闘ではなんとか誤魔化せたが、このまま戦い続けるのは無茶が過ぎる。
異世界補正で高まった身体能力をきちんと使えるようにしなくてはいけない。
「ん? 街中だったらギルドの訓練所が冒険者に解放されてんじゃねぇか?」
「ギルドか……」
出来るだけ目立ちたくないのでギルドはちょっと都合が悪い。
このガントレットを使った鍛錬もしたい。
そうなると闇属性のガントレットは具合が悪い気がする。
ガーブもそれに気が付いているのか、腕を組んで唸り声を上げていた。
「仕方ねぇ――ついてこい」
ガーブはそう言って店の奥を示す。
言われるがままついて行くと――
「ここは、裏庭か?」
周囲は石の塀で囲まれており、外からこちら側を伺う事は出来そうもない。
裏庭の隅には鉄屑を始め、折れた剣や穴の空いた鎧など様々な武具が積み上がっている。
「ここを使え、ここなら弟子共以外入ってくる事はねぇし、弟子共には口止めもしておく。 心置きなく鍛錬出来るだろうよ」
思ってもみない申し出だった。