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異世界転移したら自称魔王に取り憑かれていたんですけど  作者: にゃる
第2章 狐人族との出会い、そして強敵の出現
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第28話 死んでも恨むなよ?

久しぶりの更新です

「ヒュウガさん! 逃げて下さい!」

「ん……逃げて!」


 二人はタナトスの魔法に拘束されたまま未だ動く事が出来ない。

 そんな二人を残したまま逃げる訳にはいかない。


 真っ直ぐに飛んでくる氷柱をスレスレで躱すと同時に強く地面を蹴り、一気にタナトスとの間合いを詰める!


「!! 馬鹿者! 避け——」


 クロの警告が耳に届くより早く、目の前が歪んだかと思うと同時に激しく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「がっ! がはッ! ゲホ……ッ!」


 衝撃のあまり、肺の中の空気を吐き出し、同時に込み上げるものを地面にぶち撒ける。

 口の中に鉄の味が広がり、鼻には生臭い嫌な匂いが充満する。


 続けて身体中に激痛が襲いかかってくる。


 視界が白く明滅し、再び吐き気が込み上げる。


 クロやステラ、リサが何か叫んでいるようだが、酷い耳鳴りで聞き取れない。


 飛びそうになる意識を必死に繋ぎ止める。


 ここで意識を失えばもう二度と目覚める事はない。

 ステラとリサを守る気なら寝てる場合じゃない。

 痛みに歯を食いしばり、震える膝に気合いを入れなんとか立ち上がる。


「ほぉ……アレを食ろうて立ち上がるか、見上げた根性じゃのぉ」


「……はッ、全然効いてねぇっての」


 吐いた言葉が強がりなのは明白だ。

 だが、たとえ強がりでも心が負けを認めなければまだ戦える。


「もういいです! 逃げて下さい!」


 振り返ればそこには涙でクシャクシャになったステラと青ざめ、言葉を失ったリサ——


 なんつう顔してんだ、可愛い顔が台無しだ。


 まぁ泣かせたのは俺か……


 俺はゆっくり、大きく息を吸い込みつつ、今も全身を襲う痛みに意識を集中する。


(……っく、こりゃ肋骨は何本か折れてんな、血吐いたっつう事は下手すりゃ内臓も傷ついてるか……けど、手足のダメージはほぼない)


 なら平気だ。

 俺はそのまま痛みを受け入れる。


 痛いだけなら耐えられる。


 俺は再び小さく構える。


 こうなったら()()を使うしかない。


 今の状態では使いこなせる自信がなかったから使うつもりはなかった。


 だが、そんな事言っていられない。


 なにもしないで死ぬよりマシだ!


 覚悟を決めた事がクロにも伝わったのか、焦ったように俺を止めに入る。


『待て! 玉砕覚悟ならば、一か八か二人を抱えて逃げる方がまだ可能性は高い!』


『馬鹿言うな、アイツが全然本気出してないのはお前だって分かってるだろ? 逃げ切れる訳ねぇ』


 多分アイツは俺を観察しているのだろう。

 だから手を抜き、こっちの対応を見ている。


『やれやれ……とんだ貧乏くじを引いたものだ、もうよい、好きにするがいい』


『悪いな……死んでも恨むなよ?』


 まぁ生きてんだか死んでんだか分からん存在だが、俺が死んだらクロも多分無事じゃ済まないんだろうから先に謝っておく。


「さて、次はどうする? それとももう終わりかのぉ?」


「終わりな訳ねぇだろ」


 

 伊達にガキの頃からイカれた鍛え方してねぇんだよ!

 

俺は意を決して一歩を踏み出す。

 先程の様に一足飛びに間合いを詰める気は無い。

 攻撃を交わしつつ、意表をつかなければならない。


 再び多数の巨大な氷柱(つらら)が襲いかかってくる。


 だが——


「む? なんじゃ?」


 タナトスが困惑気味の声を上げる。


 俺は先程の様にスピードでヤツの攻撃を交わしている訳ではない。

 それこそ誰の目にも俺の動きははっきりと見えているはずだ。

 ただ左右に移動しながらフラフラと歩いているようにしか見えないその動きは、一見すれば酔っ払いの千鳥足だ。


「小賢しい!」


 歩法『落葉(らくよう)


 舞い落ちる木の葉の動きを読むのが簡単では無い様に、左右に緩急自在のその動きを捉えるのは簡単ではない。


「なんじゃ! 何故当たらぬ!」


 別に避けている訳じゃない。

 そもそもこの歩法は相手の攻撃を避ける事など考えない。

『躱す』という思考を捨てる事でその動きを読ませない。


「ならば数を増やすまでじゃ!」


 その言葉と同時に氷柱の数が増す。


 躱す動作を捨てている以上、時には相手の攻撃がこちらを捉える事もある。


 当然だ、こちらは躱す気で動いてなどいないのだから。


 だが、当然素直に当たってやるつもりなど無い!


 氷柱が当たる瞬間に身体を回転させつつ後ろへと受け流す。


 あらゆる攻撃を円運動で受け流す『(まどか)


「!!」


 目の前の空気が歪み、直感が危険を知らせる。

 先程吹き飛ばされ、痛打を貰った謎の攻撃がくる——

 攻撃の正体が分からない以上『円』で受け流す事は考えない。


 それならば避ければいい!

 同時に一気にヤツの懐まで潜り込む!


 俺はその場から一気に加速し、タナトスの背後に周りこむ。


 歩法『紫電(しでん)


 肉体の限界を超える超高速移動を可能にする技だ。

 初見でこの速度を捉える事は多分不可能。


 だが——


(ぐっ! やっぱりか!!)


 予想通りと言うべきか、全身が『紫電』の反動に悲鳴を上げる。


 俺が技を使うのを躊躇った理由——


 それは、急激な身体能力の向上が原因だ。


落葉(らくよう)』『(まどか)』はまだいい。

 だがこの『紫電』はただでさえ反動が大きい。


 訳の分からない力で身体能力が急激に向上したせいで、自分のイメージと実際の動きにズレが生じていた。


 そんな状態のまま全力に近い技を使いこなすのは不可能だ。


 限界を超えた超高速移動は全身に凄まじい負荷が掛かる。

 本来ならその負荷を分散し全身で受けるのだが、今の状態でそんな繊細な事が出来る筈もなく、反動がモロに来たのだ。


(でもお陰で捉えたぞ!!)


 怪我と反動で痛む全身を意思の力でねじ伏せ、浮遊するタナトスの背後で跳躍する。

 そのままちょうど後頭部辺りに右手を突き出し——


「クロ!!」

「任せろ!」


 その声にタナトスが振り返るがもう遅い!


 一瞬にしてタナトスを黒炎が飲み込む。


 同時に激しい脱力感が全身を襲う。

 これで倒されてくれればいいが、恐らくそうはいかないだろう。


 着地と同時にバックステップで距離を取る。


「ぐおおおお!」


 タナトスが苦しそうに声を上げ、悶える。


「へ……どうだこの野郎……」


「なんというヤツだ、まさか本当に奴に一撃くれてやるとは」


 やってやったのは良いが、やはりダメージと反動がキツすぎた。


 俺は耐えきれずその場で片膝をつく。


「ミナト!」


「……大丈夫だ、まだやれる……」


「嘘をつくでない、もはや限界であろう!」


 ズバリその通りだ。


 受けたダメージと『紫電』の反動、更には限界一杯で放った黒炎で満身創痍もいいところだ。


 強がってみてもご覧の通り立ち上がる事すら難しい。


「体力魔力共に尽きた今、この一撃で倒せなければ打つ手なしだな」


「おい、やめろよ……そんな事言ったら——」


 もはやフラグだろそれ。


「ぐうう……カ、カッカッカッ! 見事なものじゃ! 儂がダメージを受けるなど何百年ぶりじゃ!」


 徐々に弱くなる黒炎の中から姿を表したタナトスは見た限り殆どダメージを受けている様子は無い。

 ほら見たことか……やっぱりピンピンしてんじゃねぇか。


「だが、その代償は高かったようじゃな? これ以上苦しまん様に一思いに刈り取ってやるとしようかのぉ」


 手にした大鎌がギラリと嫌な光を放つ。


「っく! 万事休すか!」


「っ! まだだ!」


 俺はアイテムボックスから()()を取り出し口に放り込む。


「もう遅いわい!」


 その言葉と同時に大鎌が振り上げられる。


「させない……!!」


 その言葉と同時に突然何かに抱えられ、その場から一気に離れた。


「ヒュウガさん!」

「今回復します」


 一瞬なにが起きたか理解出来なかった。


 ……なんで俺リサにお姫様抱っこされてんの?

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