崩壊のはじまり
*
本当に、どうしてだろうか。
「ねぇ、そうだ私が排除してあげる」
「な、何言ってんだよ…。やめてくれ」
相変わらずにこにこしながら、白崎は俺に語るかのように喋る。
その様子は、傍から見ると他愛のない、立ち話をしているように見えただろう。
しかし―
違う。これは、そんないいもんじゃないだろう。
「どうして?…早戸クンに手を出すなんて、許せない…。クソアマが…」
「なんなんだよ…。お前、怖いよ。ホント、なんなんだ?!」
俺はようやくそこで、疑問を口にした。
「……君が好きなの。前よりもっと。あなたを殺しちゃいたいな…なんてね」
にこっと、白崎がほほ笑む様子は、年相応のものだった。
桜色の頬を染めながら、恥じらうさまは本当に可愛いのだが、それ以上に――
―――危険
その二文字が、俺の頭をよぎる。
きらり、と光る鋭いものがちらり。
「お、おい…冗談はよせよ」
ヤバい…。
こいつは…本気だ…!
「冗談?…ふふ。面白いこと言うのね。流石、早戸クン」
そこで、白崎の表情は初めて曇った。
「もう、耐えられないの」
「あなたが――」
「誰かと話すなんて」
「誰かといるなんて」
「誰かと同じ空気を吸うなんて」
「同じ空を見るなんて」
そこで、白崎はもう一度微笑んだ。
「そうだ…。殺しちゃえばいいんだ」
「そしたら、あなたは私だけのもの」
「もう二度と、お互いに苦しまなくて済む…」
白崎の言葉は、恐ろしいほどすんなりと、俺の耳に届く。
「嫌…だ。俺はまだ、死にたくない…!」
そう思うと、次から次へと涙が溢れてくる。
頬が、熱く濡れる。
俺は、床に崩れ落ちた。
「ねぇ、俺生きたいよ…」
「………」
「…私が護ってあげる」
ぎゅっと、俺は抱きしめられる。
白崎からは、石鹸のいい香りがする。
何でだろう。
安心する。
そして俺は、その日から白崎の彼氏になってしまった。