文化祭 〈後編〉
*
「私ね…、ずぅーっと我慢してきたんだよ?」
「…は?」
「ホントなら…、あなたのことあの時殺すはずだったじゃない…?」
いつでも冷静な、白崎は今もあくまで冷静だ。
「ねぇ…、やっぱり心中しちゃおっか…?」
悲しそうに顔を歪めて、白崎はそっと俺の頬に触れる。
「このままじゃ…刺突しちゃうよ…?」
そうか…。最近白崎が頻繁に言ってたのはこのことだったんだ。
「私ね…、知ってるんだ…。早戸クンって優しいから…優しすぎるから…」
「みんなが傷つくのは、嫌なんでしょう…?」
「けどね、それって……。残酷すぎるよ…?」
「君には…早戸クンには、私を一番想ってほしいし…他の人なんていなければ…」
語尾がだんだん小さくなっていく。
「――そうだよ。…君が悪いんだよ。全部…」
「私、あなたが苦しむ姿なんて見たくなかった…けど――」
白崎の頬に水が伝う。
――それが、白崎が見せた初めての涙だった。
「けど――、それって…やっぱり…。無理なの……」
「だから――」
「――…一緒に、死んで?」
冷淡に、拒否すべきなのか?
俺は…、どうすればいいんだろう。
実は、俺がこいつを苦しめていたのか…?
いままで、そんなこと考えたこともなかった。
俺は……本当に、馬鹿だ。
そう思うと、なんだか無性に白崎が愛しく思えた。
「白崎……、俺さ、お前が好きだ…多分」
「早戸クン…?」
俯いていた白崎が、顔をあげる。
「だから…だからこそ、生きたいんだ。お前と…」
「…一緒に、生きる…?」
白崎は、不安げに俺に聞き返す。
「けど、つらいよ…」
「それでも…、それでもお前と一緒なら、乗り越えられる気がする」
「それで、さ…」
俺は、照れながら…まだ不安げな白崎に言った。
「いつか…結婚しよう?」
「! えと、……はい…喜んで…」
驚きを隠せずにいる白崎と女装中の俺は、その後も…ずっと、そこに座りっぱなしていた。
なかなか会話は弾まなかったけど…それでも…よかった。
*
そして、その後…。
俺は、先生と杏の二人に…こっ酷く叱られた…。
「酷いです!早戸ちゃん…っ、せっかくの文化祭なのに先生と回わらないなんて!」
「早戸っ!あんたのせいでねぇ…!ずぅーっと私が先生の御守してたのよ!?」
そして――
これは借りよ!借りたら10倍返しが筋よね!?とか言って、今度奢らされることになった。
「…!さくらーっ――ぐえっ」
なんか、悲惨な音がしたような気が、しないでもないが、まぁ問題ないだろう。
俺の文化祭は…とても濃いものとなったのだった。
補足しておくと、前田はあの後…しばらく、絡んでこなかった。
(…あの蹴りが、効いたのかなー)
やばい!
このままじゃ、ハッピーエンドになってしまうっ!!!