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第93話 試合が終わって

場外にて。

俺は身体を起こそうとしているアヴニールさんに近づき、一本の瓶を渡した。


「……これは?」


「エリクサーです」


「……そんなものまで用意してもらう事になるとは。お疲れ様」


アヴニールさんは瓶を受け取ると、爽やかな表情でそれをグイっと飲み干した。

すると……数秒も経たないうちに、アヴニールさんからは試合中の傷だけでなく古傷までも消え去り、アヴニールさんは完全に元気を取り戻した。


「あ、アヴニールさん、それを飲んだら……ってあれ? 平気で飲み干した……?」


ふいに、近くからそんな声が聞こえてきたのでそちらを振り向くと、第一試合の対戦相手のチヴァが困惑した表情で立っていた。


「お前は……O2騎士団のチヴァか? この薬がどうかしたか?」


「あの、エリクサーってめちゃくちゃ味エグいはずなんすけど……大丈夫だったんですか?」


「……何の話だ?」


……ああ、そのことか。

アヴニールさんに渡したエリクサーは、味付け変えてないからな……話がすれ違うのも無理はない。


「エリクサー片手に『こんなの水じゃん!』はちょっとどうかと思ったので、味付け変えたんですよ。もちろん薬効は変わりないので安心ください」


「なん……だと……」


チヴァはそう言うと、完全に項垂れてしまった。

かと思うと、今度は俺の方をビシッと指さし、こんなことを言い出した。


「だいたいさ、こっちはこんな化け物と戦わされたのに、それで負けて『オーガ殺しイッキ飲み』とかただの理不尽じゃん!」


それを聞いて、俺とアヴニールさんは顔を見合わせた。

……いやそれ、後半は完全にO2騎士団側の事情だろ?

アヴニールさんの表情からも、「出場したのは自分の責任なのにこの男は何を言っているのか」という感情がアリアリと読み取れた。



ふと精鋭学院側の控え室の方向を見ると……俺以外の出場選手2人が、試合場に登壇しにきているところだった。

そういえば……大会の表彰、試合が終わってすぐあるんだったな。


俺はエリクサーを渡すために一旦降りていた筋斗雲に再び乗り、試合場の中央を目指した。






そして……表彰式が、始まった。


優勝した精鋭学院には、トロフィーが送られ……俺たち出場選手は、そこに魔法で自分の名前を刻んだ。

その後トロフィーは、学院に持ち帰られるために一旦校長先生の手に渡った。


しばらくは歓声が鳴りやまなかったが、国王が試合場に上がってきて拡声魔法の魔道具を手に話しだすと、会場は静まり返って皆がその話に耳を傾けた。


国王の話はまず試合の総評から入り……そして約束通り、俺が朱雀(国王は「謎の強力なドラゴン」と称していたが)を倒したことと、その褒賞として俺が史上初のSランクに認定された事を公表したのだった。

その話の流れで、俺は特別製のSランクのギルドカードもここで受け取った。


ちなみにもう一つの報酬である「治外法権」については、国王は全く話題に上げなかった。

まあ、俺がそんなのを持ってるってことが知れ渡ると、色々と大変なことになりそうだからな。

これに関しては、言わなくて正解だったと思う。


話が終盤になってくると……国王は横で待機している四人に目配せをし、試合場に上がらせた。

そして、こう言って話を締めくくったのだった。


「余は最初に、ヴァリウスは二つの功績からSランクに認定されることとなったと言ったが……その二つ目の理由を、最後に話すとしよう。彼のもう一つの功績、それは『クヌースの矢印希望』の自決島からの救出だ。かの伝説の冒険者パーティーは、このヴァリウスの手で蘇ったのだ!」


国王の言葉が終わると共に、「クヌースの矢印希望」のメンバーたちは会場全体に手を振った。

すると……静まり返っていた会場は、再びドッと沸きあがった。


「私……対抗意識を燃やす相手を思いっきり間違えてたかもしれない……」


隣ではケイディが、そんなことをポツンと呟いていた。

これは……学内でいちいち絡まれるのを警戒しなくて良くなるヤツか?

だとしたらいいのだが……。


「流石はバニシングリンクルの開発者……いつまでもお綺麗ですわ……!」


そして歓声の中からは、そんな発言が混じって聞こえてきた。

その声がした方を見てみると……あの時の期末試験に試験官が、クヌースの矢印希望のリーダーに憧れの眼差しを向けていた。


そういえば……俺、試験の時そういう設定にしたんだったな。

なんか懐かしいな。



などと辺りに意識を向けている中、国王は持っていた拡声魔法の魔道具をティリオンに手渡した。

そしてティリオンが喋りだすと……今度はその言葉に耳を傾けるため、会場がまた静まった。


「国王の言う通り、俺たち『クヌースの矢印希望』はヴァリウスに救われ、こうして自決島から生きて戻ってこられた。だから……俺たちはせめてもの感謝として、今後の人生、彼のために出来ることを協力していきたいと思っている」


ティリオンの声はゆったりとしていて、それでいてどことなく威厳のある響きだった。

その声に、会場中の人間がより熱心に聞き入った。

ティリオンは、こう続けた。


「私は自決島から帰る道中、ヴァリウスから強さの秘訣を聞いた。彼が言うには、正しい従魔の扱い方さえ覚えれば、テイマーなら誰でも彼のように強くなれるとのことだった。今日彼が見せたような戦闘能力を、テイマーなら誰しも身に着けられるのだ。そして彼は、その方法を広めるのを手伝って欲しいと私に頼んだ」


そこでティリオンは、一呼吸置いた。

そして……ここから先彼が話す内容は、俺もまだ聞いていない話だった。


「様々な協議の末、来年から精鋭学院にはテイマー用の学部ができることになった。そして……私はそのクラスを担当する。今日のヴァリウスのように強くなりたい者は、是非受験しにきてくれ!」


……すげえ、そんなところまで話進んでたのか。

これは……なんだか一気に進展があったって感じだな。


俺はここへきて、今日一番に衝撃を受けたのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かった
[一言] 治外法権関係は書類もらわなくて大丈夫なのか… 権利書は重要だぞ☆
[一言] ・・・さす兄 か・・・(笑)
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