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第9話 コーカサスと人助けをした

『ヴァリウス、こんな悪天候の中、よくなんの迷いもなく進めるもんだな』


『簡単だよ。……ほら、3年くらい前にさ、お前と一緒にこれを作っただろう? この針が指している方向から、進むべき方向を割り出せるんだよ』


大雨をものともしない、快適な気温・湿度の筋斗雲シールド内。

俺は左手に持っているコンパスを指しながら、コーカサスの質問に答えた。


懐かしいな。

確か当時の俺は錬金魔法を使うには魔力が足りなかったので、コーカサスとベルゼブブに魔力を譲渡してもらいながら針とコイルを作ったのだ。


針を磁化させるため、コイルの中に針を入れた状態でコイルに高電圧をかけたのだが……その時も魔法を工夫した。


除細動魔法を敢えて無詠唱でやって、過剰な魔力を用いて長時間高電圧をかけたのだ。


今なら勇者が使う雷魔法とかで簡単に成せることだが……生活魔法で工夫を凝らしたのは、いい思い出だ。


そんなことを考えている間にも、筋斗雲は高速で空中を進んでいく。

何事もなければ、3時間ほどで着くのだが……この時間、何もしないのは退屈だな。


俺は収納魔法から、自作の人生ゲームとサイコロを取り出した。


『コーカサス、ベルゼブブ……一緒に人生ゲームしないか?』


『お、アレやんの? イェーイ!』

『仕方ないな。どうせ暇だし……ヴァリウスの遊びに付き合うとしよう』


ノリのいい従魔たちのお陰で、退屈はしなくて済みそうである。







『ワイバーンの肉を食って食あたり、振り出しに戻る……うぁーっもう! これクソゲーじゃん! マジクソゲー!』


ベルゼブブが発狂しだした。


……ごめんて。

なんせ製品版じゃなくて自作だからな。

ところどころゲームバランスが変なところはあるが……それもご愛嬌ってことにしてほしい。


そうして、和気藹々とゲームに熱中していたのだが……俺はふと、眼下の街道にいる1台の馬車が気になった。


なんとなく、筋斗雲のスピードを緩めて馬車を観察してみる。


『ヴァリウス、何を見ているのだ?』


『ああ……あの馬車なんだが、見たところ脱輪してないか?』


そう。

深めの水たまりにでもハマったのか、馬車は後輪が半分地中に埋まり、動けない状態になってしまっているのだ。


『……あの人間の乗り物のことか?』


『そうだ。ほら、水たまりから抜け出せなくなってしまってるだろう?』


『確かに。……おいベルゼブブ、なに俺たちが見ていない間にしれっと駒を動かそうとしている?』


『……げっ、バレちまったか』


ベルゼブブは呑気なもので、俺とコーカサスが馬車を見ている間にイカサマをしようとしていたようだ。

そしてコーカサスに見つかり、窘められていた。


……それはこの際置いておくとして、あの馬車を助けにいくか。


『コーカサス、あの馬車、持ち上げることはできるよな?』


『当たり前だ。あの程度、この角にかかれば楽勝で持ち上げられる』


『……頼もしいな』


俺たちは一旦高度を下げ、馬車を救出しにいくことにした。




「よっ」


俺は筋斗雲に流す魔力を増やして天候シールドの半径を広げ、馬車や御者が雨に濡れないようにした。


そして、コーカサスが馬車を角で挟もうとするのだが……


「お前たち! 何者だ!」


御者が剣を抜き、俺たちに近づいてきた。


まあ、そうなるか。

御者側からすれば、「魔物が天から近づいてきて、馬車を掴みにかかっている」って状況だ。

警戒されるのも無理はないな。


「あ、大丈夫ですよ。そいつは俺の従魔なんで。なんか馬車が落輪してるみたいだったので、助けにきてみました」


「従魔? お前どう見ても賢者だろうが。それに、コーカサスオオクワガタをテイムできるテイマーなんて聞いたことがないぞ?」


御者は、警戒を解く様子はなさそうだった。


あ、そうか。俺髪染めてたんだった。

これは、鮮やかに墓穴を掘ってしまったか。


……そう、思ったのだが。


「まあ良いじゃないか。得体の知れない者が来たのは確かだが、助けてくれると言っているんだ。このままでは埒が明かなかったのだし……彼を信じてみないか?」


馬車から出てきた男が、御者を諌めてくれた。

そしてその男は、俺や従魔たちを見てこう言った。


「ふむ……コーカサスオオクワガタにベルゼブブ、か。結構強力な魔物がいるにも拘わらずその落ち着きよう、本当に君の従魔ってことなんだな」


「ははは、メタい分析ですね」


「あまりにもイレギュラーな状況すぎて、こんな結論しか出せんのだよ。君が乗っている得体の知れない雲といい、ね」


男は苦笑いをした。


「これは筋斗雲と言って、空を飛べる乗り物ですよ」


「空を……いや、いいや。俺は理解を諦めるよ」


……っと。こんなとりとめもない話をしてる場合じゃないな。

馬車を引き上げにきたのだから。


「あ、これからウチのコーカサスが馬車を動かしますんで、ちょっと離れていてください」


「……ああ、すまん。ここにいては邪魔だったか」


男が安全な場所に移動したのを確認して、俺はコーカサスに合図を出した。


直後……コーカサスはその自慢の3本角でがっちりと馬車を掴み、難なく持ち上げた。

そしてコーカサスが数メートル離れた位置に馬車を下ろすと……今度は、馬車の前輪も後輪も、地面に埋まりはしなかった。


救出成功だな。


「これで、また馬車を走らせられるようになったと思います」


「……感謝するよ。こんなお礼で精一杯なのが心苦しいが、これを受け取ってくれ」


そう言って男は、馬車の中から金貨を1枚取り出した。

そこまでのことをした感じはしないのだが……恩を売られっぱなしだと気持ち悪いって考えるタイプかも知れないので、もらっておくか。


そんなやりとりの間に、コーカサスは筋斗雲の上に戻ってくる。


「では、俺たちはこれにて」


「そうか。また、どこかで縁があるといいな」


別れの言葉を交わし、俺は筋斗雲の高度を上げた。

こんな雨だし、暇な時だったら男の目的地まで一緒に行っても良かったんだが……試験は明日だしな。


背に腹はかえられないってことで、再出発だ。


「本当に空を……よし、やっぱり思考を放棄しよう」


男は何か呟いていたみたいだが、それはよく聞こえなかった。






その後は特に何もなく、俺たちは精鋭学院がある都市に着いた。

その頃には、雨のほうもあまり気にならない程度には小雨になっていた。


お腹が空いてきたので一旦筋斗雲を降り、店に入って遅めの昼食をとる。


そのあとはまた筋斗雲に乗って、精鋭学院の敷地上空までやってきた。

試験と言えば、会場の下見は重要事項だからな。


建物の形状や、試験会場となりそうな教室・グラウンドの位置を、頭に叩き込んでいく。

1時間ほどで大体のことが把握できたので、そのあとは初めての都市を散策することにした。


まあ、武器屋や宝石店とかにフラッと立ち寄るだけで、特に何も買いはしなかったのだが……目新しい物をたくさん見れる、充実した時間ではあったな。


そして再び飲食店に立ち寄り、今度は夕食を食べた。

適当に腹を膨らませて外を見ると、もうすっかり夜になってしまっていた。




……ちょっと早いけど、寝るか。

俺は従魔たちと共に、筋斗雲の上で横になった。


これがまた、寝心地がいいんだよな。

適度に低反発で、身体の力を完全に抜いた姿勢にフィットしてくれるのだ。


色々あって疲れたのか、俺は横になってすぐ、意識を手放すこととなった。


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