第79話 預ける武器は変わったものばかり
それから2日後。
俺は侍従の案内に従い、謁見の間の前まで歩いていった。
「ヴァリウス様をお連れしました」
案内を終えた侍従は謁見の間の護衛をしている人にそう告げて、この場を去っていった。
「あなたがヴァリウス様ですね」
「はい」
今度はその護衛の人に質問されたので、俺は本人確認を兼ねて生徒手帳を見せながらそう答えた。
「ありがとうございます。それではあの……失礼ですが、謁見の間はこちらで武器を預からせていただくことになっているのですが、よろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん」
……やはり、国王に会うともなると、そういう話になってくるんだな。
果たして、どこまで武器として提出すればいいだろうか。
戦闘能力を持たない者が相手なら、例えばアザトースの死体をぶん投げるだけでも十分凶器となり得るのだが……流石にそんなものまで出されても困るだろうし。
少し考えた末、俺は所持品の中でもまだ武器と言えそうな如意棒とルナメタル製の剣を出し、預けることにした。
「……棒に、ルナメタル製の剣? 失礼ですが、本当に武器はこれだけなのでしょうか……?」
護衛の人は如意棒とルナメタル製の剣を俺から受け取ると、怪訝そうな表情でそう聞いてきた。
……やっぱり、こうかるか。
ルナメタル製の剣は世間じゃ「ただの飾り」という認識だし、如意棒に至ってはその存在すら知られていないんだもんな。
こんなものばかり提出していては、「ここではダミーの武器を提出して、中に隠し武器を持ち込もうとしている」と疑われたとしても、仕方がないかもしれないな。
とは言っても……俺、本当にこんな武器しか持ち歩いていないんだよな。
『主戦力』ならコーカサスとベルゼブブなので、確かにこの武器以外にあると言えるが……2匹とも今は筋斗雲に乗って上空で待機してもらっているので、この場では関係ないし。
こうなったら、どうにかして、俺がこれらを武器として使っていることを信じてもらうしかないだろう。
「はい、これ本当に武器として使ってますよ」
俺はそう言いつつ、如意棒を一旦返却してもらった。
武器としての使用頻度なら、ルナメタル製の剣の方が圧倒的に高いのだが……その性能を示すには、切れ味を試すために何かを斬る必要が出てくる。
その反面、如意棒なら伸縮させるだけである程度その威力を証明できる。
分かりやすさという意味では、こちらで実演した方が良いだろう。
「こんな風に」
如意棒の先端を空中に向けると……俺は如意棒に亜音速くらいで伸びるよう念じ、
5mくらいの長さに伸ばした。
流石に王宮の備品が衝撃波で壊れたりしてはまずいので、音速以上の伸縮はさせなかったが……これで十分、武器として使えるということは伝わっただろう。
「いかがでしょうか?」
そう言って、護衛の人の方を振り返ると……護衛の人は、口をあんぐりと開けて固まってしまっていた。
「な……あ……え……?」
開いた口が塞がらないといった表情で、俺と如意棒を交互に見つめる護衛。
「あの……これで、俺がこれをちゃんと武器として使っていると判断していただけるでしょうか?」
「……あ、は、はい。なんか……ここに呼ばれるような冒険者が、普通の戦い方をしないということに思い至らなかった私が浅はかでした……」
しばらくの間、護衛の人は無反応だったが……ハッと我に返った護衛はそう言いつつ、深々と頭を下げてきた。
そんなに畏まらなくても、と思いつつ、再度如意棒を護衛の人に預ける。
すると、
「それではお入りください。中で王様がお待ちです」
護衛の人はそう言って、扉を開けてくれた。
「よく来てくれたな」
玉座に座っていたのは……20代後半から30代前半あたりと思われる、若々しい男の人だった。
……この方が国王か。
などと考えていると、国王が次の言葉を発した。
「ヴァリウスよ。そなたに関する報告が上がってきたときには……余もかなり混乱してしまったぞ。ブルーフェニックスの素材持ち込みに自決島での『クヌースの矢印希望』の救出、更にどこからともなく現れたドラゴンの討伐……そなた、一体どうしてそんな芸当が可能なのだ?」
心なしか、俺にはそう聞いてくる国王が目を輝かせているように感じられた。
……これは、今が話すチャンスか?
「お聞きくださりありがとうございます。そのことなのですが……俺、実は賢者ではなくテイマーなのです」
ここでこのことが国王公認となれば、色々話が早くなるだろう。
だからこそ、国王の反応が気になるところだな……
そう思っていると、少しして国王が口を開いた。
「……そう言われてみると……確かにそなたは、金髪の下から黒髪が生えてきているような髪をしているな。こんなのは、かつて見たことが無いな」
……そう言えば、もう前回染めてから結構経つな。
それで今、俺の髪は黒と金が入り混じるメッシュのようになっているということか。
そして、逆にそのおかげで俺の話の信ぴょう性が増したと。
まさに怪我の功名って感じか。
「しかし、そなたがテイマーであることと、そなたの実績があまり結びつくようには思えないのだが……一度、そなたの従魔を見せてもらうことはできぬか? 可能なら今ここで、まあそれが難しいなら日を改めてで全く問題は無いが……」
髪を染め直していなくてラッキーだったと思っていたところ、国王はそう続けた。
確かに、実際にコーカサスやベルゼブブを見てもらえば、国王も確証を得てくれることだろう。
それにコーカサスたちにはこの真上で待機してもらっているので、ここに連れてくるのも空間転移で一発だ。
もっとも……武器すら持って入っちゃダメな場所に従魔を連れて入るのはアリなのかよ、とツッコみたくはあるのだが。
 




