第72話 龍装朱雀討伐──前編
『ドラゴンを、装備? あのドラゴンは朱雀の配下の魔物ではないのか?』
聞いたこともない朱雀の行動について、俺は麒麟に詳しく話してもらうことにした。
『そうじゃ。朱雀はな……あのドラゴンの頭を無理やりコックピットに改造し、そこに乗り込んだのじゃ』
ということは……俺はとどめを神通力で刺すことだけ念頭に置いておいて、あのドラゴンの討伐に集中すればいいのか。
話がシンプルになったな。
俺はそう思ったが……麒麟は、どういうわけか怒りと恐怖が混じったような表情をしていた。
そして麒麟は、こう続けた。
『しかも、今の奴の神経接続の共鳴率は、400%を超えておる……。なんて無茶な……』
神経接続に共鳴率……なんか、次々と聞いたこともない単語が出てくるな。
分かるように説明してほしいものだ。
『その……神経接続の共鳴率が高いとどうなるんだ?』
『奴は、神経接続の共鳴率を用いて、自らの強さを調整できるのじゃ。共鳴率が高ければ高いほど、奴の強さも増す。もちろん、共鳴率を上げれば上げるほど、代償もでかくなるのじゃが……今の奴の強さは、通常の朱雀の配下の比ではないぞ』
……なるほど。それは割と厄介だな。
『じゃあ……その代償ってのは?』
『共鳴率400%となると……まず、奴の今世の寿命は72時間も無い。その上、次の転生までの周期が10倍に伸びる。ザクエルを消されたからじゃろうか、奴は相当な覚悟を持ってお主を倒しに来ておるぞ』
……そういうことか。
そこまで聞いて、俺はようやく話の全容を掴むことができた。
まず……今の朱雀には、非常に簡単な倒し方がある。
それは、「72時間見つからないよう隠れておく」という、非常に単純なものだ。
それだけで、朱雀が払った代償は、全て水の泡となる。
だが……その選択肢は、無きに等しい。
朱雀は時間の限り暴れまわって、俺を引き出そうとしてくるだろうからな。
通常の朱雀の配下の比ではないということは……最悪、72時間もあれば大陸全土を更地にされてしまうってレベルだろう。
それを指を咥えて見ていては、これからの人生、罪悪感でまともに楽しめなくなってしまう。
結局は、最初の「人的被害が出る前に、朱雀を消滅させる」という路線に戻るってわけだ。
『ベルゼブブ』
俺は収納魔法からメンキブフラワーの種を取り出しながら、ベルゼブブに呼びかけた。
『現場に着くまで、まだまだ時間がある。これで、エリクサー作っといてくれないか?』
『あいよー』
使わないで済めばいいんだがな、などと考えつつ、俺は筋斗雲を進めていった。
◇
朱雀が移動を開始すれば、それを追うように進路を変えたりもしつつ……明け方になった頃、俺たちはようやくドラゴンを目視できるところまでやってきた。
「……やれやれ、帰りも護衛依頼を受けようと思ってたんだけどな……」
ドラゴンが向かっている先の街並みを見つつ……俺はため息をついた。
結局、俺たちは朱雀を追っていたら、メルケルスの街まで帰ってきてしまった。
俺がこの街を拠点にしてたのを知ってのことか……はたまた、たまたま近くの街から襲おうとしただけのことなのか。
それは分からないが……できれば、メルケルスの街の被害は0に抑えつつ、朱雀を消滅させてしまいたいものだな。
「……って、思った側から!」
だが……俺の思いとは裏腹に、ドラゴンは口を大きく開け……ブレスを放つ準備を始めた。
あの角度だと……おそらく、着弾するのは街の中心部。
あいつ……まさか、初撃で街を消し飛ばすつもりなのか。
『コーカサス、あれ、跳ね返せるか?』
『任せろ』
そんな会話をしつつ、俺はコーカサスとベルゼブブを連れてブレスの射線上に空間転移した。
そして、そこにコーカサスが結界を展開した直後……そこに高速のエネルギーの塊がぶつかり、辺り一面が昼間のように明るくなった。
何とか結界は持ち堪えたようで、結界はエネルギーの塊を上空に弾き飛ばされていった。
だが、その数秒後……エネルギー弾は炸裂し、見渡す限り全ての雲を吹き飛ばす勢いで爆発した。
……あれが街に着弾してたら、この街は完全に更地になってただろうな。
たかだか挑発にしては、やり過ぎだろう。
「何なんだ今のは!」
「新手の目覚ましか?」
そんな声がちらほらと聞こえてきたので、周囲を見渡すと……異常事態に目を覚ました住民たちが、外の様子を伺いに来ているのが目に入った。
「おい、あっち!」
そして、そのうちの何人かがドラゴンの存在に気づき、その方向を指差した。
今の一撃は、なんとか逸らすことができたが……挑発なんてしなくても、もう既に目当ての奴は来てるってことを教えた方が良さそうだな。
俺は収納魔法からルナメタル製を取り出し……ドラゴンの目の前に向けて空間転移を発動した。
 




