第65話 銀河鉄道
次の日。
今学期の成績が出て、無事夏休みに入れた俺は、また覚醒進化素材集めに専念することにした。
今回の行き先は、王都の近くにあるダンジョン。
自決島ではなくダンジョンを行き先にするのには、2つの理由がある。
まず1つ目の理由は、王都の近くのダンジョンの迷宮主が【機構】の覚醒進化素材になる魔物だと分かっていることだ。
これは自決島でクヌースの矢印希望の面々と過ごしている中で、プレックスが教えてくれた。
勿論、プレックス自身は迷宮主の階層まで攻略したわけではないが……彼が言っていた階層ごとの魔物の出現パターンから推察すると、その可能性は極めて高いだろう。
前回自決島に行った時は、金角銀角そしてリグナムバイダゴーレムと、立て続けに覚醒進化素材となる魔物に出会えたが……いくら自決島とはいえ、あの頻度で出会えたのはかなりの豪運だ。
その上、ここから先遭遇する進化素材級の魔物からは、進化素材の「被り」が発生しだすことも考えると……自決島での進化素材収集の効率は、この先ガタリと落ちてくることになる。
そんな状況で、まだ持ってない覚醒進化素材になるダンジョンを知ることができたとしたら。
そちらに行く方が、圧倒的に効率がいいのである。
そして2つ目の理由は、アザトースの死体が【動力】の覚醒進化素材になるというものだ。
前世のとある出来事から、このアザトースには思い入れがあるので、できれば素材として消費したくはないのだが……それでも、コイツも素材になり得るというのは事実だ。
そしてそれを考慮すれば、今回の【機構】の覚醒進化素材ゲットにより、実質6種全ての覚醒進化素材が揃うということになる。
こうなると、かなり心強い。
それもあって、俺は自決島ではなく、ダンジョンの攻略を選ぶのである。
まあ、それはそれとして、だ。
俺は今回、ダンジョン目指して王都に行く道中で「あること」をしてみようと思っている。
その下準備のため、俺はまず、精鋭学院から王都に向かう途中地点にあるメルケルス冒険者ギルドに寄ることにした。
「ヴァリウスさんじゃないですか!」
俺がギルドに入ると……昼前だからか閑散としている中、「クヌースの矢印希望」を見て卒倒してしまったあの受付嬢が、俺に向かって手を振った。
「もう、いきなり『クヌースの矢印希望』なんて連れてくるから……私、ぶっ倒れちゃったじゃないですか!」
「いや、あそこまですごいパーティーだったとは思いも寄らなかったので……」
「……え、もしかしてヴァリウスさん、あれ見たことなかったんですか……?」
受付嬢が指し示した方を向くと……ギルドの壁に、一つの肖像画がかかっているのが分かった。
そしてその肖像画には、リーダー、プレックス、ラグハム、ティリオンの姿がかなり本物に近く描かれてあった。
そういえば、壁紙なんて全く気にしてなかったな。
伝説のパーティーともなれば、あんなものが作られるのか。
俺も近いうちに国王に謁見するらしいし……もしかしたら、肖像画作りの話が来るかもしれないな。
などと考えつつ……俺は、本題に入ることにした。
「何か今、王都行きの護衛依頼って有りますでしょうか?」
護衛依頼は、基本的に掲示板には貼り出されない。
貼り出された依頼を冒険者になりすました盗賊が見に来て、貴族や商人の移動スケジュールがバレるのを防ぐためだ。
だから、護衛依頼があるかどうかは、受付で直接聞く必要がある。
「そうですね……あ、これなんてどうでしょう?」
受付嬢は書類の束の中から1枚の紙を取り出すと、俺に見せてきた。
その依頼は、商人の護衛依頼だった。
出発は今日の午後、依頼人数はCランク10人またはBランク3人あるいはAランク1人。
俺はAランク冒険者なので、自分一人で依頼を受けられるというわけだ。
「そうですね、これにします」
条件も良さそうだったので、俺はその依頼を受けつつ、王都に向かうことにした。
国にとっては一大事らしい功績を挙げはしたが……そういうのだけでなく、小さな実績をコツコツと積み上げてもいって、信頼を高めていきたいからな。
こういう依頼を受けるのもいいものだ。
そんなことを考えながら、俺は依頼主の出発時間を待つことにした。
◇
「私が今回の依頼人、ラウスだ。よろしく」
「Aランク冒険者のヴァリウスです。こちらこそ、よろしくお願いします」
午後、商人ラウスの出発時間。
自己紹介をサクッと済ませた後、俺は本題に入ることにした。
「荷車、収納致しましょうか?」
「ああ。そうしてくれると有難い」
俺はまず、目立つ上に移動の邪魔になる商人の荷車を収納魔法にしまうことにした。
もし収納魔法を悪用して荷物をネコババなどしようものなら、ギルドの厳しい罰則が待っている。
逆に商人が護衛を貶めようと虚偽報告をしようもんなら、商人は商業ギルドを追放されることになる。
そんなお互い不正ができない状況だからこそ、こうして荷物を託してもらえるのである。
それが終わると……俺は新しい試みについて、商人に提案することにした。
「あと、今回馬は借りなくていいです。馬車は、私が牽引しますので」
まず俺は、新しい試みを行うにつけて邪魔になる馬車の馬を、御者ごと馬車貸出業者に返品することにした。
馬車や馬の借り主は商人ラウスだし、馬を使わないとなると貸出料が若干割り引かれる。
ラウスにとって損は無いので、ラウスはすぐに承諾してくれた。
「しかし……キミが牽引するとは、一体どういう意味かね?」
御者を帰らせた後、ラウスはそう不思議そうに聞いてきた。
「こうするんですよ」
俺はそう言って……馬車の馬を繋ぐ部分に、収納魔法から取り出したロープを結びつけた。
そしてそのロープのもう片方の先を、俺の筋斗雲に結びつけた。
自決島帰りの船牽引の時もそうだったが、俺の所有物であるロープはこうして筋斗雲に結びつけることが可能だ。
筋斗雲の最高速度は馬より遥かに速いので、こうすることで旅を高速化できるのである。
だが……ただこうしただけで高速牽引するのは、正直言ってかなり危険だ。
筋斗雲の移動速度となると、馬車の車輪に石が引っかかったくらいでも横転する恐れがあるからだ。
それを防ぐには、平らな道を走るしか無い。
『コーカサス』
『どうした?』
『地面に対して水平な対物理結界を、空中に張ってもらえないか? その上を馬車を通らせて、王都まで向かいたいんだが』
『簡単なことだ』
……そう。
地上を走るのが危険なら、空中を走ればいいのである。
 




