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第56話 Aランクパーティー

「しかし……私はなぜ生きている?」


「アンデッドになっていたところを、蘇生させたんですよ。……深くは聞かないでください」


青年がうわ言のように呟いた発言に対し、俺はそう返答した。


毎回思うんだが、神通力で何かを成し遂げた時って、詳しいことを聞かれても返事のしようがないんだよな。


ルナメタル製の剣なら「特殊な剣術」、空間転移なら「特殊な縮地法」とか言っとけばまだ誤魔化しが利くんだが……死者蘇生となると、いよいよそれっぽい方便も用意できないし。


仕方がないので、「深くは聞かないでください」と単刀直入に言うことにしたのだ。

余計な詮索をしないのは冒険者の暗黙のルールなので、こう言っとけばもうその話題にはならないからな。



ともあれ、この青年はまだ動揺しきっている。

「Aランク冒険者か?」みたいな単純な質問に答えるだけならまだしも、とてもゾンビ化までの成り行きを詳しく語れるような心境では無いだろう。


しばらく、この青年が落ち着くまで待つか。

そして、答えてもらえる範囲で青年の話を聞くとしよう。


そう考えた俺は、とりあえずコーカサスとベルゼブブに『適当に狩りを楽しんで来ていいよ』とだけ指示し……青年に温かい飲み物を出すことにした。


近くに生えていた草に薬師の魔法「鎮静作用付与」をかけて、温かい飲み物に入れる。


青年がこれを飲み干すまで、待っているとしようか。






10分くらいして、青年の様子が目に見えてマシになってきたので、俺は話し合いを始めることにした。


「俺はヴァリウスと言います。あなたは?」


「私はプレックス。先ほども言ったが、Aランク冒険者だ。……もしや、君は精鋭学院の出身か?」


「いえ、現役生です」


自己紹介ついでに青年プレックスからそう聞かれたので、俺はそう答えた。

自主全休してるけど。一応現役生だぞ。


「な……学生のうちから、この島に? その上でその余裕……君は一体何者なんだ」


プレックスは、信じられないことを聞いたかのような表情をした。


「まあ、いろいろとありましてね……」


俺はそう言って、お茶を濁した。



まあ学生とは言っても、俺は転生者だしな。

何より、8歳の時点で覚醒進化素材を持っていたというのが相当デカい。


というのも、覚醒進化素材は駆け出しのテイマーが手に入れられる代物ではないので、前世のテイマーは成人のタイミングで先輩テイマーから1匹分の覚醒進化素材を譲り受けるしきたりになっていた。

つまり、本格的にテイマーとしての経験を積めるのは、成人してからだったのだ。


だが俺は、転生した8歳の時点で既に覚醒進化素材を持っていたし、その後すぐコーカサスをテイムし覚醒進化させた。

つまり今の俺は、前世で言えば成人してから4年目に該当するのだ。


だから、自決島で普通に活動できるのは何ら不思議なことではないのだが……これも、説明のしようがないんだよな。


というわけで、次の話題に進もう。


「ところで……プレックスさんは、ゾンビ化してた時って意識はあったんですか?」


俺は手始めに、興味本位の質問を投げかけた。


ただの死体の蘇生なら、生前までの記憶しかなくて当然だが……プレックスは、元アンデッドだからな。

たとえアンデッド化していても「死=意識なし」なのか、それともゾンビとしての意識があったのか。

これ、結構興味深いテーマだと思うんだよな。


そう思ったのだが。


「ゾンビ……私はアンデッド化していたのか?」


返ってきたのは、意外にもそんな答えだった。

これは……生前の記憶しかないってので確定だな。

まあゾンビとしての記憶なんてあったとしてもロクでもないものだろうから、この方がありがたいんだが。


「そうですよ。自決島を探索していたらゾンビが出てきたので……試しに蘇生してみたらプレックスさんだったんです」


「な、なるほど……?」


プレックスは、まるで宇宙人と話すかのような表情でそう相槌を打った。


「もしよろしければ、ゾンビ化する前……つまり、自決島に来てから俺と出会うまでに何がどうなったのか、教えていただけませんか?」


挨拶がわりの他愛もない話が済んだところで、俺は核心に迫ることにした。


すると……プレックスは苦い表情をしながらも、ポツリポツリと語り出してくれた。


「私はAランクパーティー『クヌースの矢印希望』のメンバーとして、この島を探索しに来た……」


ゆっくり、しかししっかりと話すプレックス。

彼は、こう続けた。


「始めは順調だったんだ。強敵ばかりだったが、パーティーでなら何とか討伐できていたんだ。だが……なまじ敵を倒せたばっかりに少しでも奥へ進んでしまったのが、今思えば間違いだった」


そういうプレックスの表情は、ますます険しくなった。

「辛かったら無理に話さなくていいんですよ」と言おうかとも思ったが……俺が口を開くより先に、彼は続きを話し出した。


「次の日……いきなり、全く次元の違う強さの魔物が現れたのだ。本能が死を感じ取るようなレベルの恐怖に、私たちは方向も考えず逃げるより他無かった。そうして……気づいたら私たちは、帰路が分からないくらいに奥まで来てしまっていたんだ」


……なるほど。

ここは自決島の割と奥の方なので、プレックスたちのパーティーは自決島でそれなりに通用する実力があったのかと思っていたが……そうでは無かったか。


「そうして何をしていいか分からないまま月日だけが経ち……ある日私たちは、強力な魔物から逃げ切るのに失敗した。私が覚えているのはそこまでだ」


言い終えるとプレックスは、何かを成し遂げたかのような安堵の表情を見せた。



……なるほどな。

つまり簡単に言えば……「クヌースの矢印希望」は、自決島から生還できなかったAランクパーティーの一つってことか。


プレックスの言い方からするに、「クヌースの矢印希望」のメンバーは、その強力な魔物にまとめて殺されてしまったんだろうな。


……ん、待てよ。

ってことは……もしかしたら、案外簡単にプレックスの仲間も蘇生できたりするんじゃないか?


アンデッドは基本的に、滅多なことでは生息域を変えない魔物だ。

つまり、もしかしたら「クヌースの矢印希望」のメンバーは、まだこの近くをうろついている可能性があるのだ。


となれば、探し出すのは簡単だ。

アンデッドのみをここに集めるのは、魔法一つでできるからな。


「……ちょっと待っててください。一つ、試してみたいことがあります」


とはいえ、これはあくまで仮説に過ぎない。

過度な期待は抱かせないよう、俺は具体的なことは伏せてそう言うことにした。


……んじゃちょっくら、蘇生作戦といくか。


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