第23話 神通力の試し撃ち
「レッサーエキドナか、当たりだな」
26層に降りた途端、俺たちの目の前に姿を表した魔物を如意棒で仕留めつつ……俺はそう呟いた。
俺がそんな感想を抱いたのには理由がある。
この階層でレッサーエキドナが出現したということは、あまりたくさん階層を降りずとも、強い魔物に遭遇できるということを意味するのだ。
というのも、ダンジョンの構成には、「階層ごとの魔物の強さは、等差数列的に変化する」という法則がある。
そして、レッサーエキドナは20台の階層で出現する魔物としては最強クラスだ。
ここから言えるのは、「このダンジョンでは、1層降りるごとの敵の強さの変化が比較的大きい」ということなのだ。
おそらく、このダンジョンなら……40層辺りまで降りれば、まあまあ敵として不足の無い魔物が出現するだろう。
俺はその事実にワクワクしつつ……コーカサスとベルゼブブに、こう促した。
『コーカサス、ベルゼブブ、先に行けるところまで進んどいてくれないか? 俺はちょっと、この階層でやりたいことがあるんだ』
レッサーエキドナの討伐なんて、コーカサスたちからしたらなんの面白味も無いだろうからな。
どんどん階層を降りて、戦闘を楽しんでおいてもらおうってわけだ。
その方が、俺の神通力も効率よく鍛えられるしな。
『分かった。勝手に階層降りとくぞ』
『敵はテキトーに蹴散らしとくぜ~』
2匹はそう返事をして、先へと進み始めた。
一方で、俺だが……俺はちょっと、敵があまり強くならないうちにやっておきたいことがある。
それは、神通力を使う練習だ。
何だかんだで俺、今に至るまで、アルテミスとの通信でしか神通力使ってないからな。
剣が完成するまでに、もっと多彩な神通力の行使に慣れておきたいのだ。
神通力量はコーカサスたちの協力で増えるとしても、神通力を使った技を行使する感覚までは、勝手に鍛えられたりはしないようだしな。
そして、コーカサスたちに先に行かせて、俺がここに留まる理由。
それは、あまり神通力での攻撃に慣れないうちから奥の階層に行ってしまうと、いろんな力の使い方を試す余裕がなくなってしまうかもしれないという理由だ。
どうせ、念話とテイマー用の魔法である「五感連動」を使えば、合流は一瞬でできるのだ。
俺のことは気にせず、2匹にはどんどん進んでもらうとしよう。
26階層に入って2匹目のレッサーエキドナを見かけたところで、俺は収納魔法からルナメタル鉱石を1個取り出した。
特に最優先で身につけるべきなのは、「ルナメタルに神通力を通す感覚」だからな。
まずは、神通力を通したルナメタル鉱石を投擲して、レッサーエキドナを討伐するところから始めようってなわけだ。
ルナメタル鉱石に神通力を通す感覚は、割と一瞬で掴めた。
右手にルナメタル鉱石を持ったまま右手に神通力を集めると、ルナメタル鉱石が若干輝いたのだ。
おそらく、成功しているのだろう。
ルナメタル鉱石に神通力が通っているのを確認できたところで、俺はそれを全力で投擲した。
……但し、魔法での腕力等の強化は行わずにだ。
「ウギャア!」
ルナメタル鉱石がレッサーエキドナに当たると、レッサーエキドナは叫び声をあげた。
一定のダメージは入っているみたいだが……即死とはいかないか。
それが分かったところで、俺はある実験を行ってみようと思い立った。
それは、神通力の威力を計測するための対照実験だ。
まず、神通力を通したルナメタル鉱石を魔法での身体強化を併用して投擲し、レッサーエキドナ即死に必要最低限な身体強化量を計測する。
次に神通力を一切使わずルナメタル鉱石を投擲し、その際に必要最低限な身体強化量を計測する。
こうすることで、必要な魔力量の差が、俺の現在の神通力の威力の差だと結論付けられるのだ。
迷宮内を歩き回りつつ、レッサーエキドナを倒して回る。
その結果……神通力を使った場合、神通力なしの場合より必要最低限の身体強化量を約2割削減できると結論づけられた。
コーカサスたちの頑張りにより、俺の神通力は現在進行形で鍛えられているので、多少の誤差はあるだろうが……まあまあ参考になる値は取れただろう。
これで、鍛錬を終えて戻ってくる時にもう一度同じ実験を行えば、どれくらい自分が強くなったかを数値化することもできるようになったというわけだ。
26階層が用済みになったので、俺は下の階層に降りようと思ったのだが……俺はここであることを思いついたので、アルテミスと通信をしてみることにした。
『アルテミス。今の俺が、コーカサスとベルゼブブと一緒に神通力で空間転移するとしたら……何mくらいが限界だと思う?』
『そうだな。ヴァリウスが現時点でどれほど成長したのか正確には分からんが……私が神通力を授けてまだ日が浅いしな。ヴァリウスの熟練度が、私が神通力を授けた日とさほど変わらないと仮定すると……4mくらいじゃないか?』
『そうか、ありがとう』
俺はその返答を聞いて、思わず笑みをこぼした。
迷宮の地面の厚みは、階層ごとに程度の差はあれど、だいたいが2.5~3mの範囲内だ。
転移を繰り返せば、各階層を踏破せずとも、速やかに下層まで降りられるな。




