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第16話 筋斗雲には限界があった……筋斗雲には、ね

「アルテミス、もう一度弓に戻ってくれないか?」


伸ばしっぱなしにしていた如意棒を元に戻して収納しつつ、俺はそう頼んだ。


「弓に……構わないが、なぜだ?」


「君を……月に連れ戻せるか、試してみたいんだ」


「そ……そんな事が可能なのか?」


アルテミスは、俺の提案に食いついてきた。


「いや……上手くいくかどうかは、やってみなくちゃ分からない。まあ……あんまり期待し過ぎずに、付いてきてくれると助かる」


「わ……分かった」


俺が可能だと断言しなかったことで若干テンションを落としつつも、アルテミスは弓の姿に戻ってくれた。


俺は弓となったアルテミスを装備して、コーカサスたちと一緒に筋斗雲に乗った。


アルテミスに弓の姿に戻ってもらったのは、一緒に筋斗雲で行動するためだ。

アルテミスは前世での俺の孫悟空討伐に何ら関与していないので、筋斗雲に乗ろうとしてもすり抜けてしまう。

だが、俺が筋斗雲に乗ったからと言って全裸になったりはしないのと同じで、俺の装備品や持ち物なら、一緒に筋斗雲で行動できるのだ。


筋斗雲に乗ると、俺は上昇を開始させた。


向かう先は、もちろん月だ。


対流圏より上空は人間が生きていられる環境ではないので、当然筋斗雲のシールドも発動している。


これで月まで届いてしまえば、話は早いんだがな。

そう思いつつ、俺はひたすら筋斗雲の高度を上げていった。







『ヴァリウス……もうこれ以上は、昇れないんじゃないのか?』


筋斗雲での上昇を開始して、約20分が経ったころ。

最も高い位置にあった雲を超えたくらいの所で、コーカサスがそう言ってきた。


確かに、筋斗雲はこれ以上上昇しそうにないな。

最初は風を切ってぐんぐんと高度を上げていた筋斗雲だったが、今では秒間2~3センチしか速度が出ていない。


完全に静止してしまうのも、時間の問題だろう。


とりあえず、俺は今自分たちがいる高さを調べてみようと思った。

何か良い指標は無いかと思って、辺りを見渡し……俺は近くにあった雲のそばまで、筋斗雲で移動した。


そして試しに、酸・アルカリ判定(リトマス)という魔法を付与した紙を、雲の中に突っ込んでみた。

すると……紙は、一気に赤色に変色した。


……真珠母雲(しんじゅぼぐも)か。

この雲と同じくらいの高さってことは、今いる場所は成層圏(高度20~30km)。

そのくらいの高さが、筋斗雲の限界ということになるようだな。


もちろん、こんな高度では月には程遠い。

なんせ、地表から月までの距離は380000kmはあるのだから。


『コーカサス……もしかしてさ、お前ならこの10000倍くらいの高さまで飛ぶことができたり……しない?』


『できるわけなかろう』


ダメ元で聞いてみたが、一蹴されてしまった。


……うーん、万策尽きたか。

いつまでも成層圏にとどまっていてもしょうがないので、一旦地上に戻ることにした。


まあどうせ帰るのにもまた20分くらいかかるのだし、もうちょっと策を練ってみよう。





『ヴァリウス、ダメだったのか?』


俺が頭を悩ませていると、念話から女性の声がした。

コーカサスもベルゼブブも、性別はオスだったはずなんだが……となると、アルテミスか?


『アルテミス、念話使えたのか』


『ああ。なんなら、さっきお前がそこの甲虫に無茶な頼みをしていたのだって、聞いていたぞ』


……まさかの傍受までされていた。


まあ俺は余程のことがない限り、念話の傍受対策なんてしないからな。

聞かれたこと自体は、なんの問題も無い。


むしろ、みんなで作戦会議ができると思うと、これはありがたい発見だと言えるだろう。


『アルテミス……もし良かったら、知恵を貸してくれないか?』


『すまないな……。私のために、ここまでしてもらって』


こうして、4人(1人と2匹と1丁?)による、作戦会議が始まった。




『ヴァリウスが持っていた棒って、どれくらい伸びるんだ?』


アルテミスが、そう尋ねてきた。


『さあな。一説によると、あれは忉利天(とうりてん)まで届くって(たと)えられてるし……単純計算で、960000kmくらいは伸びると考えていいんじゃないか?』


『それなら……月までは、軽々と届くじゃないか』


アルテミスは、如意棒で月まで登っていけないかと考えたようだった。


如意棒の最大の長さは960000km、月までの距離は380000km。

確かに、計算上は届かない距離ではないな。


だが……あれで登るのは無理があるだろう。


猪八戒と対峙した時は、棒高跳び的な感じで上空に避難したが……月までとなると、ああはいかない。

どこかで、バランスを崩してしまうのがオチだろうからな。


『距離的には問題ないが、棒を固定する方法が無いと厳しいな……』


『……そうか』


アルテミスは、再び顎に手を当てて考え出した。


そこに新たな提案を出してきたのは、コーカサスだった。


『近くに湖があっただろう? 固定って意味なら……あそこに如意棒を突き刺せば良いのではないか? 後は我が湖を氷結させよう』


……その手があったか。

俺はコーカサスの提案を、名案だと思った。


確かに、今のコーカサスなら、あの湖くらいなら氷結させられるな。


土台の問題も、それくらいしっかり固定できれば、何とかなるだろう。


となると……懸念点は、あと1つか。


『1つ問題があるとすれば、湖の中の生物が……』


……言いかけて、やめた。

最後の懸念点というのは、この湖の生態系破壊のことなんだが……そんなのは、はっきり言って愚問だ。


俺は、アルテミスを月に送り返すため努力を尽くすと決めたんだ。

それを最優先にしなくて、どうするというのだ。


そう、決心した瞬間。

アルテミスが、意外な助け舟を出してくれた。


『湖の中の生物なら、私が生命力を強化してやれば、氷結程度には耐えられるぞ』


……そうか、なら問題は全部解決だな。

俺はそう確信し、筋斗雲が地表にたどり着くのを待つことにした。


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