第13話 変な依頼があった
冒険者ギルドは役所みたいな建物で、受付のカウンターは『受注/達成報告・素材買取』と『諸手続き(新規冒険者登録・パーティー登録等)』の2つに分かれていた。
受注/達成報告・素材買取じゃない方は、随分と雑なまとめ方のようだが……まあ利用頻度を考えれば、この分け方で妥当か。
そんなことを考えつつ、俺は冒険者の新規登録のため『諸手続き』のカウンターに近づいていった。
だが……。
「なあ……あれって、賢者だよな?」
「すげえ……初めて見た」
髪色のせいで、いきなり目立ってしまった。
……うーん、やっぱりこうなるか。
賢者、(テイマーの価値が不当に低いこの世界だと)選ばれし上級職の1つだからな。
存在自体も珍しいので、自然と注目を集めてしまったのだろう。
黒髪に戻しておけば、こうはならなかったはずだが……俺は敢えて、その選択肢はとらなかった。
なぜなら、精鋭学院の生徒であることを明かしつつ冒険者登録をするには、賢者の方が都合がいいからである。
まず、冒険者登録の時精鋭学院生であることを明かす理由。
これは精鋭生の場合、生徒手帳を見せることで通常最下級のFランクではなく、中堅のCランクからスタートにできるからという理由だ。
これを利用しない手は無い。
そして賢者を意味する金髪のままにしておくのは、黒髪に戻した上で精鋭学院の生徒として行動すると、いろいろトラブルになりかねないからである。
テイマーの精鋭生がいるとなればまず間違いなく話題になるし、その噂が精鋭学院側に伝わったら色々と混乱が生じるだろう。
それどころか、最悪の場合は生徒手帳の偽造さえも、疑われないとは限らないのだ。
まあ冤罪は証明できるだろうが……それにしても、たとえ一時期でも犯罪者扱いになるリスクは負いたくないしな。
だからちょっと目立つのは我慢してでも、賢者として過ごす事に決めたのだ。
俺は自分に視線を向ける冒険者たちをよそに、『諸手続き』のカウンターの受付嬢に声をかけた。
「あの、冒険者登録をお願いしたいのですが」
「賢者……あ、すいません! 冒険者登録ですね、かしこまりました」
受付嬢は俺の髪をみて一瞬固まったが、すぐに気を取り直して話を進めてくれた。
「こちらの書類に記入をお願いします」
そう言って差し出された書類に、俺は名前や年齢……そして在学校名を書き込んでいった。
そして書き終わると、俺はその書類を受付嬢に返した。
「できました」
「かしこまりました。……って、ええ!? せ、精鋭学院生なんですか? 珍しく賢者さんがいらっしゃったと思ったら、更にあの学院だなんて……」
目を白黒させる受付嬢。
その状態が、長く続くかのように思われたが……数秒ののち受付嬢はハッとして、こう尋ねてきた。
「何か、身分を証明できるものをお持ちですか?」
俺は受付嬢に生徒手帳を見せた。
「これです」
「確かに……精鋭学院の生徒手帳ですね。ありがとうございます!」
受付嬢は一旦奥に戻ると、何やら作業をして……1枚のカードを持って、カウンターに戻ってきた。
「本来ならこれから登録試験を行うところですが……精鋭学院生はそれが免除され、更にはCランク冒険者として始めていただくことが可能になります。こちらがギルドカードとなりますので、なくさないようお持ちください」
「分かりました。ありがとうございます」
受付嬢から手渡されたカードを、俺は収納魔法にしまった。
これで登録終了、か。
じゃあ次は、依頼掲示板から良さげな依頼を探すとしよう。
◇
依頼は最下級のFランクのものから、上から2番目のAランクのものまで多岐に渡っていた。
最上級のSランクの依頼は、この街には無いみたいだった。
一応今の俺は、ソロでもCランクの依頼までは受注可能だが……初めてギルドに来たんだし、FからCまでの依頼全部に目を通してみるとするか。
「どれどれ……」
ざっと目を通すと、だいたいの傾向が掴めた。
それは、「下位ランクほど採取系の依頼が多く、上位ランクになるにつれ、討伐や護衛の依頼が増えていく」というものだった。
まあ、妥当だな。
F~Dランクに目立って面白そうな依頼があったわけでもなかったので、俺は自分と同じCランクの依頼を、注意深く見ていくことにした。
ここまで来ると、採取系の依頼は1つも無いな。
そう、思いかけたのだが……俺は隅っこの方に1つ、例外を発見してしまった。
それは、こんな依頼だった。
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ルナメタルの採取
ランク:C
依頼内容:山の麓に落ちている『ルナメタル鉱石』を拾ってくる。1グラム200ゾルで買取を行う
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俺は一瞬、悪い冗談かと思った。
採取系の依頼なのにCランクというのも疑問ではあるが、百歩譲ってそこは納得できる。
採取可能な地域が、初心者の手に負えない魔物が出現する危険地帯だってケースも考えられるからだ。
そうでなくても、「地形や環境が極端で、対応力のある中級者以上でないと採取場所に辿り着けない」ということも考えられるだろう。
だが……問題は、そんなところではない。
ルナメタルなどという鉱石、前世を含めても聞いたことが無いのだ。
いたずらを疑いたくなるような依頼だが……その依頼にもちゃんと、ギルドの印が押してある。
である以上、真っ当な依頼ではあるのだろう。
……この依頼、受けてみるか。
そう思い、俺はルナメタルの採取依頼の用紙を手に取った。
理由は1つ。
この依頼、俺にうってつけなのである。
周囲に強力な魔物が出現するなら、そいつらはコーカサスやベルゼブブに任せ、俺は採取に集中すればいい。
地形や環境の問題だとしても、筋斗雲で直行すれば楽にこなせるのだ。
安めの料理店が一食だいたい1000ゾルなのを考慮すると、発見頻度次第とはいえ1グラム200ゾルは割のいい部類に入りそうだしな。
こんな、まるで俺のためにあるかのような依頼を、受けないわけにはいかないだろう。
俺は依頼用紙を手に受付のカウンターに並び……自分の番が来ると、受付嬢に受注の旨を告げた。
すると、それを見た受付嬢は、目を丸くした。
そして……こう言ってきた。
「本当に『ルナメタルの採取』を受注なさるんですか? この依頼……過去何人もの冒険者が大怪我して帰ってきてるんですよ? ルナメタル鉱石を拾おうとする際、どこからともなく飛んでくる矢によって」




