第118話 ギリギリで決めた一撃
『ヴァリウス、奴が王都に行ったぞ!』
空間転移を繰り返すこと数十回。
アルテミスからそんな声が聞こえてきたのは、やっと肉眼で王都が見えるくらいの時だった。
つまり……遠目には、俺からも青龍が見えた。
一瞬で脳内で立ち回りを決めると、すぐさま俺はそれを全員に伝えた。
『ベヒーモス、レールガンブラストを頼む。照準はあの竜、威力はさっきの十分の一で。コーカサスとベルゼブブはダンジョンに先回りして、玄武の方を取り押さえてくれ』
現在青龍は王都のダンジョンの方を向いているので、俺たちは青龍の死角にいることになる。
なのでここからなら、青龍に不意打ちをしかけることができる。
青龍に気づかれないということは、青龍に「俺を殺すならこいつらを……」とフィーナたちを交渉材料にされないことを意味する。
なのでこの状況では、特に不意打ちが絶好の機会なのだ。
そして青龍が相手なら、単発のレールガンブラストすら完全にオーバーキル。
故にコーカサスとベルゼブブには、青龍ではなく玄武の対処を頼むことにしたのである。
ちなみに威力を十分の一に落とすのは、王都に大きな被害を出さないためだ。
青龍は上空にいるので、たとえ減速に失敗しても、青龍を斬った後王都に突っ込むなんてことは起こらないが……それでも高速で王都上空を通り過ぎれば、衝撃波で家屋に損壊が出たりするのは免れられないだろう。
ならば、どうせオーバーキルなのだから、威力の方を必要最小限に留めようというわけだ。
融合した力を必要十分な量全員に渡すと、俺はベヒーモスの触角の上に飛び乗った。
『行くぞ』
「おう」
ベヒーモスの両方の触角から稲妻が迸り始めると、俺はそれに合わせ、身体を磁化させる。
次の瞬間には……俺は青龍と目と鼻の先にいた。
「これで……終わりだ!」
ルナメタル製の剣を大きく振りかぶり、青龍を一刀両断する。
青龍を通り過ぎると、俺は高速で飛ぶ自身の減速に徹した。
何とか静止でき、振り返ってみると、青龍は真っ二つになって自由落下しているところだった。
「……街の人が危ない」
そのまま死体が地上に落下するとまずいので、俺は死体直下に空間転移し、死体を収納魔法でしまった。
それから俺は、空間転移でフィーナの元へ。
「ヴァリウスー!」
「すまないな、ギリギリになって。それと……よく頑張ってくれた」
泣きながら抱きついてくるフィーナを見て、俺は少し申し訳ない気分になった。
……最終的にダンジョンから出てきた魔物の種類を見る限り、フィーナがいなければ王都は壊滅していたはずなので、こうするのが正解だったことには変わりなさそうだが。
「てか……ティリオンさんもついて来てたんですね」
「フィーナがこの戦いに参加することを、アイリアが反対してな。……フィーナを出発させる条件が、俺がついていくことだったんだ」
「なるほど」
などと話していると、コーカサスとベルゼブブが、玄武を捕まえて戻ってきた。
『はーい犯人確保〜』
『逃げようとしても無駄だぞ』
『ここは……どこ……? おれは……だれ?』
ベルゼブブの毒撃によるものか、玄武は意識が朦朧としているようだ。
俺は玄武にトドメを刺すべく、ルナメタル製の剣に融合した力を流して玄武に近づいた。
「戦技大会以来だな、ヴァリウス。ところで……その亀は?」
その時、後ろから声をかけられたので、振り返ってみると……そこにいたのは、アヴニールさんだった。
騒ぎを聞きつけて、直属騎士団も応援に駆け付けたってところだろうか。
「ダンジョンからの魔物の氾濫を発生させた張本人ですよ。特殊な殺し方をしないと何度でも転生されてしまいますので、処理は任せてください」
などと答えつつ、俺は玄武の首を切り落とした。
「ところで……先ほど上空に、力量が全く量れない底知れない竜が現れては、何者かに真っ二つにされて消え去ったのだが……あれももちろん、ヴァリウスがやってくれたのだろう?」
「ええ、まあ」
ルナメタル製の剣を収納していると、アヴニールさんが話題を変えてきたので、俺はそう相槌を打った。
「その死体……見せてはもらえないか?」
かと思うと、アヴニールさんからはそんな要求が。
ここダンジョン入り口前は若干開けた場所になっているので、青龍の死体を出す程度の場所はあるが……死体を出すことに、何の意味があるのだろう。
「まあ、いいですが……」
疑問に思いつつも、俺は死体を取り出し、地面に横たわらせた。
「なるほど、これが……。すまないがこれ、一旦預からせてはもらえないだろうか? 此度のヴァリウスの功績を国王様に報告する際、根拠として提示したいのでな」
……理由は国王への報告のためだったか。
まあパッと使い道を思い付くわけでもないし、預かるだけで返してもらえるのなら、駄目という理由はないか。
「いいですが……それでしたら、王宮まで運びましょうか? デカいですし……」
「いや、いいんだ。この竜は……おそらく、王都民の多くが目にしただろうからな。あえて収納せず、民衆に見える形で死体を運んだ方が、安心してもらえるというものだろう」
「なるほど……」
民衆を安心させるため、か。
何というか、騎士らしい考え方って感じがするな。
というわけで、青龍と玄武の死体の方は、一旦アヴニールさんにお預けすることになった。
残るは俺とコーカサスたち三匹、フィーナとヘルクレス、そしてティリオンさんのみ。
「……祝勝会でもしますか?」
「うん!」
「だな!」
俺たちは打ち上げを兼ね、「ヘアサロン オリハルコン」にでも戻ることに決めた。
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