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第108話 農業の体制が完成した。そしてついに……

大変長らくお待たせ致しました。

諸事情あって更新がストップしてしまっていたのですが、ようやく更新の目処が立ったので、更新再開いたします。

今後ともよろしくお願いします。

 それから4日後。

 ついに、ケサランパサランが畑全域に行き渡る日がやってきた。


 朝早く起きて畑で待っていると、領主様が数十人の領民を連れてやってきた。

 早速、俺は芋の栽培方法の説明から入ることにした。


「皆さんにはこれから、この土地でこの芋を育てて頂きたいと思っております」


 収納魔法で麒麟芋を一個取り出して見せつつ、俺はそう言って説明をはじめる。

 するとすぐさま、領民のうち一人から質問が上がった。


「あの……本当に、ここの土地で芋を栽培することができるのでしょうか? 確かに領主様は、『特殊な芋を特殊な土壌整備の上で栽培するらしいから大丈夫だ』と仰っていたのですが……」


 どうやら質問した領民は、ここで農業を行うということに未だ半信半疑のようだ。

 口頭で「大丈夫です」と説明してもいいのだが……そうだな。

 ここは一つ、証拠を見せる感じでいくか。

 そう思いつつ、俺は集まってくれた領民をざっと見渡した。

 そして、その髪色からうち一人に目星をつけると……。


「そうですね。そこの錬金術師の職業適性をお持ちの方……一旦、食塩抽出魔法を土壌にかけてみてもらえませんか?」


 俺はその人に、そうお願いをした。


「……俺ですか? いいですけど……」


 すると彼はそう言って、食塩抽出魔法を発動する。


「……おかしいですね。効きません」


 しかしその魔法は、発動こそしたものの、食塩が実際に抽出されることはなかった。

 もちろん、こうなることは想定済みだ。

 この状況を踏まえた上で、俺は最初の領民の質問に答えた。


「このように、今この土地の塩分は、完全に除去されています。先ほどの芋が育つのに必要な栄養素を発生させるために、土壌の塩分を変換させたからです」


「な、なるほど……」


 すると、先ほど質問をした領民は納得の表情を浮かべた。

 栽培が上手くいくかの不安は、土壌の塩分に対する懸念から来てるはずだからな。

 あえて錬金術を失敗させることで、その懸念材料をなくそうと思い、今のデモンストレーションを行ったのだ。

 流石に聖窒素を目に見える形で見せるのは難しいが、塩分が無いことくらいなら、こうして簡単に見せられるし。


 懸念も払拭できたところで、俺は説明の続きを言っていくことにした。


「育てるといっても、最初にやることは簡単です。ただ単に、種芋を地中に埋めるだけですから。このように、一つのピースに必ず一個芽が含まれるよう乱切りをした芋を、手首くらいの深さまで埋め込んだら……それで完了です」


 無詠唱の切断魔法で手に持った芋を乱切りにし、それを地面に埋めつつ、俺はそう言った。


「これさえ畑全面にしておけば……後は収穫を待つだけです」


 そう。麒麟芋、一旦植えさえすれば、あとは収穫までほとんど手を加える必要が無いのだ。

 特にここの土壌の場合、元々の豊富な塩分のお陰で聖窒素濃度が通常の3倍くらいあるので、収穫までにしなければならないことは皆無に等しい。


「では次に、こちらに来てください」


 そして俺はそう続け、領民たちに別の区画へと移ってもらった。

 この区画には、俺が実家近くの畑から1メートル四方ほど持ってきた、収穫可能な麒麟芋が生えている。

 麒麟芋の収穫について説明するために、わざわざ移植したのだ。


「では次に、収穫の説明に入ります。収穫方法は……採るところまでは、普通の芋と同じです」


 そう言って俺は、みんなに見えるように、地下茎を引っ張り出して芋を切り取った。


「ただ、この芋は地下茎が地中にある限り、何度でも新たな芋を生み出してくれます。なので、芋を取り終わったら、茎はすぐさま土に埋めなおしてください」


 そして俺はそう続けつつ、茎を丁寧に地中に戻す様子をみんなに見せた。


「この芋は、少し生態が特殊でして……おそらく二週間に一回くらいは、収穫時期が来ます。ですので、皆さんのこれからの主な仕事は芋の収穫ということになります。先ほどの作業工程だけは、しっかり覚えて帰ってください」


 最後に、俺はそう説明を締めくくった。

 ちなみに「収穫期が二週間に一回ほど来る」というのは、あくまでここの土地に限った話だ。

 麒麟芋の収穫の周期は聖窒素の濃度に反比例するので、ここの麒麟芋は通常では考えられないペースで収穫期が訪れるからだ。

 実家近くの畑では、どんなに高頻度で収穫しようと思っても、一度採ったら一か月半は待たないといけない。

 説明を終えると、今度は領民たちからの質問タイムとなった。


「分かりやした。では……これからの主な仕事は収穫ということで、今日のところは芽の植え付けだけすればよろしいんですね?」


「はい。種芋ならこれだけありますので、さっき説明した通りに切って埋めていってください」


「収穫以外には、何かすることはあるのでしょうか?」


「そうですね……一応この畑は、結界でビニールハウスの役目をしています。結界も魔道具ですので、時間が経つといずれ魔力切れになってしまいます。結果の魔道具に使った魔石は魔力補充が可能なタイプですので、魔石の魔力が底をつきそうになったら補充してあげてください。以上です」


「収穫可能な芋とまだ未熟な芋は、どうやって見分ければいいですか?」


「農家の職業適性をお持ちの方は、栽培探知魔法をお使いください。それ以外の方は、効果範囲が半径1メートルしかない代わりに生活魔法扱いとなる簡易式の詠唱型栽培探知魔法がありますので、そちらをお使いください。詠唱文句はこれです」


「生活魔法の詠唱型栽培探知魔法……そんなものがあるんですね。初めて聞きました」


 そんな感じで質問に答えていくと、疑問点がなくなった領民から順に、種芋を持って植え付け作業に入っていってくれた。

 そんな中……俺たちの様子をただ見守っていた領主様が近づいてきて、俺に話しかけてきた。


「ヴァリウス殿、本当に心から感謝する。彼ら失業者たちのことはかなり気がかりに思っておったのだが……あんなに生き生きとしている姿を見るのは久しぶりでな。きっと、仕事にありつけて生きがいを取り戻せたのだと思う。雇用創出をしてもらえて、私も肩の荷が降りた気分だ」


 領主様はそう言うと、俺に頭を下げた。


「いえいえ、お互い様ですよ。顔を上げてください」


「お互い様……私からは、畏れ多くてとてもそんなことは言えないがな。何せヴァリウス殿にはこれだけでなく、夥しい量のエリクサーで経済と娘も救っていただいておるのだから」


「あれだって前金に過ぎませんよ」


「ハハハ、そう言ってくれるとは本当に心の広いお方だ。また何かあったら、いつでも何でも頼んでくれ」


 そんな会話をしばらく交わすと、領主様は政務に戻ると言ったので、俺は空間転移で領主様を屋敷に戻してあげた。

 再び畑に戻ってくると、俺は領民たちの作業の様子を眺めつつ、暇つぶしに計算液晶のデータを今までとは別の観点から解析してみたりすることにした。


 ◇


 予期せぬ収穫は、思わぬタイミングでやってきた。


「まさか、これは……」


 なんと。

 覚醒進化による強化の効果が最大となる魔物の推定に成功してしまったのである。


 実は前世では、学者たちの研究により「魔物の遺伝情報のビッグデータさえあれば覚醒進化の効果が最大となる魔物を導出できるアルゴリズム」が開発されていた。

 だがこのアルゴリズムには、致命的な欠点が二つ存在した。

 一つ目は、前世では、せっかくアルゴリズムがあっても肝心の魔物の遺伝情報のビッグデータが存在しなかったこと。

 このため前世では、このアルゴリズムは半分お蔵入りとなっていた。


 もっともこれは、情報抽出系魔法を編み出した今の俺には、欠点たり得ない。

 しかし問題は、もう一つの欠点の方だった。


 それは、このアルゴリズムで解を出すには、とてつもなく膨大な魔物のデータが必要であったこと。

 データ数が少ないと、計算が完了しない確率が非常に高くなってしまうのだ。


 前世の論文によると……魔物のデータ数が1000以下の場合、アルゴリズムが解を吐き出す確率は1万分の1だったか。

 あまりにも低確率なので、今までこのアルゴリズムの存在自体は知りつつも、実際に計算してみたことはなかったのだ。


 それが……たった今遊び半分でやってみたら、この結果だ。

 どうやら俺は、その1万分の1を引いてしまったみたいだ。

 これは……レーダーに解を通して、当該魔物会いに行くより他ないな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 雰囲気がすき! 現代(前世)知識チート系だけど、前世を超えていくスタイルとSF系とも違うぶっ飛んだ前世技術がすきです。あと超絶能力を持っているけど偉ぶらずに周りに迷惑かけずにやりたいこと…
[良い点] 更新きてた、楽しみにしてました!
[一言] 本当に久しぶりに待ってましたよ。 コロナとかで自粛しているのではと心配してました。 でも、久々の更新で嬉しいです。
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