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第106話 子爵令息の暴走

【新刊のお知らせ】

11月25日に「底辺職テイマー」の2巻が発売されます!

お買い求め頂けると幸いです。

表紙はこんな感じです……!↓

挿絵(By みてみん)

「あの……そこの観葉植物の葉っぱ、一枚貰えませんか? ベルゼブブが、自白剤作れるらしいので……」


 俺はベルゼブブに頼まれたことを、そっくりそのまま領主様に伝えた。


「自白剤だと……? ……そんなことが可能なら、何でも使ってくれ!」


 すると領主様は、藁にも縋るような声で、自分から葉っぱを一枚毟って差し出してきた。


 俺は収納魔法でエリクサーが入った瓶を一本取り出し、葉っぱと一緒にベルゼブブに渡した。

 そして、約十分待っていると。


「できたぜ」


 そう言ってベルゼブブは、俺に瓶を返した。



「できたそうです」


「そうか。じゃあ……早速、こいつらを起こして飲ませてみてくれ」


 俺が完成を伝えると、領主様は俺にそう促した。


「では」


 解毒魔法を発動し、眠らせた人たちの体内のスタンガスを分解する。

 それから軽く回復魔法をかけてやると……彼らは目を覚ました。


「お前ら……ギファイ子爵のところの私兵だよな。我が屋敷内に、一体何の用で忍び込んだ?」


 彼らが起きると……領主様は、普段俺が聞くことのないような威厳のある声で、彼らを問い詰める。


「……ここには自白剤だってあるんだぞ。答えないという選択肢は無いと思え」


 そして領主様は、そう続ける。

 だが……以外にも、彼らが口を開いて出てきたのは、こんな言葉だった。


「待ってくれ、その必要はない。……捕まった以上は、吐こうが吐かまいが、どうせ俺たちが終わりなのに変わりないからな」


 彼らのうち一人が、全てを諦めたようにそう口にしたのだ。

 仲間の一人が率先して自白しようとしているのに、それを止めようとする者も一人もいない。


 よほど忠誠心が無いようだが……なら一体なぜ、こんなどう考えても悪質な計画を頼まれて断らなかったのか。

 疑問に思っていると、さっきとは別の私兵がこう語り始めた。


「まず最初に言っておくと……今回の件には、当主様は何ら関与してねえ。俺たちはその息子に、この計画に無理やり付き合わされたんだ」


「……息子に?」


 私兵の語りに、領主様が聞き返す。

 俺はそれを聞いて、屋敷の周囲に怪しい人物がいないか確認してみた。


 ……うん、いるな。

 ソワソワした様子で塀の周りをうろついている、俺より2~3歳年上っぽい小太りの少年が。


「当主様の息子は、あんた方が借金を返せるとは微塵も思っていなくてね、あんたの娘さんを貰えるものとばかり思っていたんだよ。けど……今日あんたは、借金を返しに来た。それを聞いて激昂した息子が、俺たちを動員して、当主様にすら内緒であんたの娘を攫ってこいと。そう命令してきたのさ」


 などと観察していると、私兵はそう続けた。



「な、なんと……!」


 私兵の話を聞いて、絶句する領主様たち。


 そんな三人をよそに、俺は私兵たちに、こんな質問をしてみることにした。


「でも……なんでそれを話そうと思ったんです?」


 彼らは最初に、「この計画に無理やり付き合わされた」と言った。

 そしてその後、これはギファイ子爵の息子がライリを攫おうとして、独断で起こしたことだと語った。


 ここまでで、話に矛盾とかはないのだが……もしそれが事実なら、彼らには「子爵本人ではなくその息子に握られている弱み」が存在するはず。

 その内容が説得力があるかどうかが、この話の信憑性を決定づけると思い、俺はそんな質問を投げかけてみたのである。


 すると……最初に口を開いた私兵が、俺の問いに答えた。


「麻薬の運び人に仕立て上げられたんだよ。俺たち、もともとは冒険者だったんだが……金に困ってた時、『中身を聞かないこと』を条件に高額報酬が貰える運送の案件を受けちまってな。そこをちょうど、ギファイ様の息子に捕まっちまったんだ。そして、こう約束させられた。『罪をもみ消す代わりに、私兵になって俺の言いなりになれ』ってな」


 彼はそう、自分たちが弱みを握られた経緯を話した。


 ……確かに、そんな事情があったなら、子爵の息子のために違法な命令に従ったのも納得だな。

 人さらいは成功していれば彼らが罪に問われない可能性もあったが、命令を拒絶し運び屋をやっていたことを明るみに出されたら、確実に罪に問われることになっていたろうから。


 そして……彼らが依頼主に対して全く忠誠心がないのも、これなら妥当に感じる。

 弱みに付け込んで違法行為を強要してくる奴になど、たとえ一時罪を見逃してくれたからって、恩を感じるはずがないからな。


 だからこそ彼らは、洗いざらい全てを話してくれたのだろう。

 もしかしたら、どうせ罪に問われるのなら、せめて理不尽な依頼主に一矢報いたいという思いもあったかもしれない。


「なるほど……。で、そのギファイ子爵の息子とやらは、屋敷の外で待機している小太りの少年で間違いありませんね?」


 次に俺は、私兵たちにそう確認してみた。

 本当に一矢報いたいという思いがあるなら、喜んで「そうだ」と答えてくれることだろう。


「……なんでそこまで把握できるのかが俺たちには全く理解できねえが……その通りだ。どうせ俺たちは終わりだからな、捕まえて当主様に突き出すなり、自由にやってくれ」


 すると思った通り、うち一人が、俺がそこに言及したことに困惑しつつもそう答えた。



 ……決まりだな。


「……どうします? こいつらに命令した黒幕、すぐそこにいるみたいですけど……」


 俺は領主様の方を振り返り、そう聞いてみた。


「……ああ、頼む。ヴァリウス殿が捕まえに行ってくれるなら、それが一番確実だろうからな」


 すると領主様は、頷きながらそう言った。


 ……じゃあちょっくら、行ってくるか。



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