第103話 第二安定同位体ハイルナメタル
「なんて光だ……」
目が眩みそうになるような光量の輝きに、思わず腕で目を覆いつつ……俺は試しに、ハイルナメタルの山に一つの錬金魔法をかけてみた。
『原子状態把握』
対象そのものには何の影響も及ぼさず、ただ対象を解析するだけの、観察用魔法だ。
これを用いてハイルナメタル原子の様子を観察すると……何が起きているのか、一目で分かった。
ハイルナメタルの原子核に、デーモンコアが発した中性子が吸着されている。
おそらくハイルナメタルは、同位体に変化しようとしているのだろう。
……同位体になんかなって、問題ないのだろうか?
俺はそう、若干不安になったが……反応が終わり、ハイルナメタルの輝きが収まると、アルテミスは嬉しそうな表情を見せた。
『……良かったのか、今の? 放射性崩壊を起こして、ハイルナメタルがハイルナメタルじゃなくなっちゃうんじゃないのか……』
俺は真っ先に、懸念していることをアルテミスに聞いてみた。
俺が知る限り、ルナゴーレムから採れるハイルナメタルは、安定した原子だ。
それが中性子を吸い、同位体になったということは……今目の前にあるハイルナメタルは、放射性同位体に変異しているはず。
だとすれば、真っ先に考えられる心配事は、放射性崩壊――ハイルナメタルが放射線を出しつつ、全く別の金属に変化してしまうことだ。
そうなると……何もしなければ、ハイルナメタルは時間が経つにつれ、徐々に減ってしまう。
そんな自体は、アルテミスだって望んでいないはずだ。
なのになぜ、あんなに嬉しそうなのか。
そう疑問に思い、俺は質問してみたのだ。
『……放射性崩壊? 何を言っているんだ、このハイルナメタルは安定しているぞ?』
『――!?』
すると、アルテミスからは思いもよらぬ答えが返ってきたので、俺は再度『原子状態把握』を用いてハイルナメタルを観察した。
すると……ハイルナメタルからの放射線の放出は、一切起こっていなかった。
『ああ、そういえば知らなかったみたいだな。ハイルナメタルには……第一安定同位体と、第二安定同位体があるのだ』
そしてアルテミスは、そう説明を付け加えた。
……マジか。
ハイルナメタル……安定同位体が二種類もある金属だったとは。
常識の範疇を超えた物質と知り、若干面食らったが……同時に俺は、安心を覚えた。
とりあえず、ハイルナメタルが永久に存在できるなら、まず心配することは何もないからな。
肝心なのは、第一安定同位体と第二安定同位体で何が変わって、俺たちにどんな影響があるのかだが……今度はそれを聞いてみようか。
『へえ、面白い金属だね。ところでアルテミス、凄く嬉しそうだけど……第一安定同位体が第二安定同位体になったことで、何かいい事ってあるのか?』
俺はそう、核心に触れる質問を投げかけた。
するとアルテミスは……その質問、待ってましたとばかりに、こう教えてくれた。
『第一安定同位体が近くにあるのと、第二安定同位体が近くにあるのでは、私の体内を流れるエネルギーの質が変わってね……。具体的には、今までと同じ威力の技を使うのに、消費する神通力の量が二割くらい減るのだ。この効果は私だけじゃなく、私の神通力を受け継いでいるヴァリウスにも現れるぞ』
なんと……俺の神通力の消費効率が、格段に良くなったということらしいのだ。
『今はまだ影響を感じないだろうが……一日もすれば、効果が現れるはずだ。楽しみにしておくといい』
アルテミスはそう言って、親指を立てた。
2割……これは結構デカいな。
数字で聞くとショボく聞こえなくもないが、実際の神通力の使い勝手は見違えるほど良くなることだろう。
少なくとも、自決島に数か月籠ってようやく得られる成長が、ただ「デーモンコアを月に持ってくる」だけで達成できたと思うと、相当お得なのは間違いない。
『ありがとう。アルテミスが目をつけてくれなかったら、強力なアイテムをゴミと思って棄てるところだった。今度ハイルナメタルを持ってくる時は……デーモンコアも一緒に用意することにするよ』
流石に今回もってきたデーモンコアが、次回のハイルナメタル納品まで十分なエネルギー放出を保ってるかは怪しいからな。
俺はアルテミスとそう約束し、月を後にすることにした。
『また来る』
『ああ、楽しみにしているぞ』
挨拶をすると、俺はアルテミスに如意棒の先端まで転送してもらい、爆速で地上を目指した。
地上に着いたら、どれくらい神通力の使い勝手が変化しているか試してみたいものだな。
 




