第102話 デーモンコアとハイルナメタル
応接室に戻ると……領主様は、狐につままれたような表情のままそこで待っていた。
ライリさんは帰るやいなや、さっそく領主様に見たこと全てを説明したが……領主様はその説明を聞いて、余計に頭がこんがらがってしまったようだった。
そしてこの二人は、ライリさんが見たものが幻覚ではなく現実であることを確かめるために、わざわざ後日現地の様子を見に行くことに決めたらしい。
まあライリさんの驚きようを見ていたこちらとしては……想定していた通りの展開になったな、という感じではあるが。
とりあえずその日は他にすることもなかったので、俺はあまり時間をおかずに屋敷を後にした。
そして……次の日。
ケサランパサランが土壌全体に行き渡るまでは少し暇になるので、俺は後回しになっていたタスクを、一つ済ませることにした。
今日やるのは、臨界状態になったまま収納されてあるデーモンコアの処理だ。
収納魔法に入れておけば一応無害とはいえ……流石に放射性廃棄物を収納しっぱなしにしておくのは、あまり気分の良い物ではないからな。
時間ができたら処分しておきたいと思っていたのだ。
前世では、放射性廃棄物は専用の魔道具で第三宇宙速度まで加速させ、太陽系外に棄てる決まりになっていたが……流石にそのためだけにあのレベルの技術水準の魔道具を作るのは、少々骨が折れる。
というわけで、俺は代替案として、如意棒で磁気圏の外あたりまで移動してデーモンコアを放り投げてくるつもりである。
そこまで持っていけば、とりあえずデーモンコアが発する放射線は地磁気で跳ね返されるからな。
地上での健康被害なんかは起きるはずがないだろう。
こっちの惑星では宇宙空間で活動する人もいないし、最低限地上の人々を守れる棄て方さえしておけば、特に問題無いはずだ。
そんなわけで、俺たちは例の湖を凍らせて如意棒を突き刺し、宇宙空間に向かって移動していたのだが。
そんな中……アルテミスから、神通力の通信で連絡が入った。
『お、ヴァリウス。またハイルナメタルが一定量できたのか?』
『いや……今回は、ちょっと別の用事で宇宙に来てるんだ。期待させたならすまない』
『いやいや、こちらこそ早とちりしてしまったな。急かす気は無いから大丈夫だ。しかし……なら一体何をしに来てるんだ?』
『これを捨てに来ただけだよ。地上に放置するとかなり害悪だからな』
そんな返事をしつつ……俺は中性子線反射結界を発動しつつ、結界の内部でデーモンコアを取り出した。
どうせ今の俺の状況も、千里眼で見てるんだろうし……こうすれば、アルテミスからもデーモンコアが見えるだろう。
『何だ、それは……?』
そう言ったきり、アルテミスは通信はしっぱなしのまま黙りこくった。
おそらく、デーモンコアを具に観察しているのだろう。
そしてしばらくすると……アルテミスはこう続けた。
『……それ、もし良かったら月まで持ってきてくれないか? さっきヴァリウスは、地上では害悪と言っていたが……私の勘が正しければ、その物質はここでは有益な働きをするはずだ。せっかくだし、試してみたいな』
なんと……アルテミスは、デーモンコアが月では有用かもしれないなどと言い出したのだ。
おそらくは、ルナメタルかハイルナメタルに何らかの影響を及ぼすのだろうか。
もしそうだとしたら……その「いい影響」は、もしかしたら俺にも及ぶかもしれない。
『分かった。アルテミスがそう言うならそうするよ』
本当は上空30000㎞あたりまで来たらそこでデーモンコアは投げ捨て、地上に引き返すつもりだったが……俺はそうはせず、月まで行くことにした。
以前なら月までの往復には8日かかっていたので、直近に予定がある時は月には行けなかったものだが……今となってはベルゼブブのお陰で移動速度が8倍になっているので、比較的気軽に月に行けるというもの。
俺は一旦デーモンコアを収納魔法に戻すと、フルスピードで月を目指した。
◇
そして、約十時間後。
「本当に尋常じゃないくらい爆速だったな……」
月に着いた俺は、思わずそう呟いてしまった。
頭では分かっていたが、実際に体感すると本当にとんでもない速さだ。
ここまで速いとなると、この棒が忉利天(=約960000㎞)までしか届かないというのが逆に惜しく思えるものである。
もっと長ければ、もっといろんな小惑星とか探索できたかもしれないのに。
……まあそもそも、如意棒を宇宙探索の道具と見なしている方が変なのかもしれないが。
などとどうでもいいことを考えつつ、俺は筋斗雲でアルテミスの近くまで移動し、デーモンコアを渡した。
『これがさっきの物質か、美しいな……』
アルテミスはそう言って、デーモンコアを手に取り色々な角度から眺めまわした。
思いっきり素手で触っているが……まあもともと宇宙線の飛び交う中平然としていることを思えば、今更デーモンコアの線量くらい対した事無いか。
『ちょっと試してみる』
そう言ってアルテミスは、一か所にまとめて置いてあるハイルナメタルの山のところに、デーモンコアを持っていった。
……やはり「有益」とは、ハイルナメタル関連だったか。
まあ本当に有益かは、今からアルテミスが行う実験で分かることだが。
さて、どうなるか。
そう思い、様子を見ていると……。
アルテミスがデーモンコアをハイルナメタルにかざした瞬間。
ハイルナメタルの山が、一斉に今までに無いような輝きを見せ始めた。
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