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第99話 臨界実験で突然変異

 戦況は――まあ当たり前だが――一方的だった。


『とぉおりゃぁぁぁっ!』

『……喰らえ』


 コーカサスとベルゼブブは、それぞれ互い違いに波状攻撃を繰り出し……ものの三十秒も経たない内に、ダンデライオンキング周辺の魔物を殆ど滅ぼしてしまったのだ。

 二匹とも特に深追いはしなかったため、一部逃げた魔物もいたが……とにかく、みるみるうちにダンデライオンキングの周りからは全く魔物がいなくなった。


 これなら、何も気にせず採取に専念できそうだ。

 いつものことだが、こういう状況ではこの二匹は本当に頼もしいものである。


『満足に戦えたか?』


『ビミョー』

『一体だけ骨のある奴が……いたような、いなかったようなという感じだな』


 そんな会話をしつつ、群生している側に近づく。


「如是切。如是断。本末究竟等」


 そして俺は、例の切断魔法を詠唱し……群生地にある全てのダンデライオンキングの茎から上を、バッサリ斬り落とした。


「あとは……種を集めてっと」


 俺は全てのダンデライオンキングから種をむしり取ると、ここに来る前に採って収納していた種も取り出し、併せて地面に置いた。

 せっかくコーカサスとベルゼブブが魔物を払ってくれて安全に作業できることだし、ここで種を処理して目的の物に変えてしまおう。


『コーカサス、ベルゼブブ。近くに球体近い石が無いか、探してくれないか?』


 俺は二匹にそう指示しつつ……近くにある魔物の死体を適当に解体して、魔石を一つ取り出した。


『あったぞー』


 そうしていると……ベルゼブブがそんな感じの石を一個見つけたらしく、俺の手元に運んできた。


「ありがとう。如是切。如是断。本末究竟等」


 俺はそれを切断し、二つの半球にすると……半球の断面の真ん中に窪みを作り、そこに先ほどの魔石をセットした。


 そして、片方の半球のもう一個の半球をかぶせつつ……間に木の枝を挟んで、半球の断面どうしが完全にはくっつかないようにした。

 これで……ダンデライオンキングの種を目的の物質に変えるための、装置の組み立てが完成した。


「悪魔の核よ、臨界反応を起こさん ――デーモンコア」


 組み立て終わった装置に、錬金術師用の真・詠唱魔法をかける。

 すると装置は、石の半球部分が金属製に代わり、中にセットした魔石はぼんやりと輝きだした。


 デーモンコア。

 これがこの装置の名前だ。

 この装置は……金属でできた半球二つを完全にくっつけると臨界反応を起こし、周囲に魔力を伴う強烈な中性子線をばら撒く。

 その中性子線をダンデライオンキングの種が受けると……遺伝子損傷により突然変異を起こし、種が目的の生物に変化するというわけだ。


『コーカサス、ベルゼブブ、目は瞑っておいたほうがいいぞ』


 二匹にそう指示を出しつつ、ダンデライオンキングの種を全部デーモンコアの上に重ねた。

 そして、先ほど挟んだ木の枝を抜いて、半球同士をくっつけつつ……種の周囲を、中性子線反射結界で完全に覆った。


 デーモンコアの臨界反応は、普通に人体にも悪影響だからな。

 こうやって中性子線が外に漏れださないようにして、ダンデライオンキングの種のみが中性子線を浴びるようにするのが肝心なのだ。


 デーモンコアの半球同士がくっついて数秒が経つと……さっそく臨界反応が始まり、全体が青白く強烈に輝きだした。

 本来なら、これに伴って焼けるような痛みを感じるところだろうが……結界がきちんと機能しているので、目を閉じてさえいればどうということは無い。


 千里眼の視点を高高度にして、遠くから臨界反応を眺めるようにすると、眩しさを感じずに様子を確認することができたので……俺はそれを利用し、反応が収まるまでの一部始終を観察した。

 反応が弱まり、ほぼゼロになったところで、俺はデーモンコアを収納魔法でしまった。

 このデーモンコアは、後に然るべき方法で処分する予定だ。



 さて、中性子線を浴びまくったダンデライオンキングの種はというと……こちらは大部分が真っ黒こげになっている中、一部白く輝いているのが残っているという様子だった。


「……よし、成功だ」


 それを見て、俺は思わずそう口にした。


 デーモンコアが発する中性子線は非常に強烈であり……それを浴びてしまうと、殆どの生物は遺伝子がズタボロになり、死滅してしまう。

 真っ黒こげになっているのは、そうして死滅してしまったダンデライオンキングの屍だ。


 だが一部、そんな環境にもごく低確率で適応し、突然変異という形で生き永らえる個体が存在する。

 デーモンコアの臨界反応を受けて尚、焦げずに耐えきった物。

 これこそが、俺が求めていた生物――ケサランパサランである。


 ケサランパサランは前世で「奇跡の分解者」と呼ばれていた生物で……地中にケサランパサランを加えると土壌内の金属ナトリウムを猛烈な勢いで食べ、「聖窒素」という物質を排泄する。

 そしてその聖窒素こそが、麒麟芋を育てる上で必須となる肥料なのである。


 ケサランパサランの難しいところは、自然界には一切存在せず、かつ作り出すには先ほどやったように強力な放射線で突然変異を促さなければならないところ。

 線量が足りないと目的の突然変異が起きないので、線量を減らして生存率を上げる、という方針が取れないのだ。

 俺が種をたくさん集めようとしていたのは、数が少ないと全滅する恐れがあったので、一部生き残りができる確率を高めたかったからである。


 ここに残ったケサランパサランは言わば、そうして生き残った精鋭の集まりというわけだ。


 生き残ったケサランパサランがほんの一部だが、これを塩分が豊富な地面に埋めれば瞬く間に繁殖してくれるので、レトルガ領全土に行き渡らせるのにそう時間はかからない。


『目的のものは手に入った。帰るぞ』


 筋斗雲に乗り、俺は二匹にそう伝えて帰路についた。


【キャラクターデザイン公開第2弾♪】


活動報告にて、ベルゼブブ、アルテミス、麒麟のキャラデザを公開しております!

下に貼ってあるベルゼブブの画像をタップすると活動報告のページに飛べるので、是非見に行ってください!

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかデーモンコアwww
[一言] 島全体がやばない? 距離による減衰ってどの程度だっけ?
[良い点] 間に枝を挟んだ時点でもしや……と思いましたがやっぱりデーモンコアwwww
感想一覧
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