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1.公爵家嫡男の泣き言

この度は、リサイクル小説を覗いて下さってありがとうございます(笑) 

「フルーチェ、お前はババロアを虐げているそうじゃないか。どういうつもりだ。」 広間の真ん中で、一人の男がいきなり大声を上げた。


「ええっと、何のことでしょう。わたくし、よくわからないのですが」


 いきなり怒鳴られた少女は、侯爵家の令嬢であるフルーチェ・ハウス・ダヨーネ。

 戸惑ったように青い瞳を瞬かせ、小首を傾げると、その動きでウェーブのかかった長い髪が、背中で金のさざ波の様に揺れた。


「一体何なのだ。この茶番は……。」 目の前の光景に頭痛と疲労を感じて眉間を揉んだ。


 今日は、私の妹ジェラートの15歳の誕生祝いを兼ねた茶会だったはずだ。

 公爵家の娘である妹が同世代の親しい者たちを招いた、言わば子供だけの集まりの予定だったのだ。



「ジェラート、お前まさか、アイツを呼んだのか?」 思わず隣にいる妹を窺う。


 やや赤みの強いストロベリーブロンドの髪をレースのリボンと共に編み込んだ今日の主役は、目を見開いて私を一瞬見つめた後眉を顰める。


「そんなわけありませんでしょう。わたくしは、お友達だけ招待しましたのよ。 あの方はおろか、『勘違い聖女様』も呼んだ覚えはありませんわ」


 綺麗なアーモンド形の目を精一杯吊り上げて、イヤそうに騒ぎの中心を睨んでいる。


「なぜあの方たちがいるのかしら。わたくしが教えて頂きたいです」


 胸もとで握り絞めた手がフルフルと震えている。これはかなり怒ってっているな。 そう思いながら、視線を元に戻す。



 どうやら招待されてもいないのに押し掛けてきた、茶番の役者その一は、私達の従弟に当たる、この国の第二王子ゼラチンだ。栗色の髪に金色の瞳。国王と同じ色彩をち、王妃譲りの中性的な容貌の優男だ。


 その義兄である第一王子も同じ様な髪色と瞳を持つが、こちらは精悍な美青年なので、比べると頼りなさそうにみえる。


 いや、軽薄さが内からにじみ出ているせいかもしれない。

 私より2つ年下でもうじき16歳になるというのに、最近益々、愚かさに磨きがかかって来た様な気がすると思っていたらこの騒ぎだ。 コイツが立太子する予定なのだから先が思いやられる。 

 また、陛下と宰相(父上)の愚痴を聞かされるな。ため息が出る。


 そして王子の相方、役者その二はジェラート曰く「勘違い聖女様」ことババロア嬢、フルーチェ嬢の異母妹だ。 昨年認定されたばかりの我が国の聖女なのだが、その認定には不正疑惑があったらしい。

 今まで何の神罰も下っていないのだから、それは無いと思うのだが、それを抜きにしてもあまり評判の良い令嬢ではない。 

 おまけに、一時期聖女候補になっていた妹とは何度かもめたことあった。


 ジェラートは金色だった髪が次第に赤く色づいてきたため、「黄金の髪に瑠璃の瞳の乙女」という予見された聖女の特徴に合わなくなり一年半ほどで候補を下りたのだ。

 ちなみに、我が家の家系では珍しい話ではない。叔父が一人と従妹たちが二人、同じように髪色が変わっている。


 妹によると、ババロア嬢は神殿での教育中も周りの者に非常に態度が悪かったらしい。

「神官や神女たちは侍従や侍女ではありませんわ。わたくしたちは候補であって教えていただいてる立場ですのに、あの方ったら呆れてしまいますわ」


「あれは淑女ではなく暴君です。お兄様、間違っても関わらないようお気をつけ下さいませ」 


「わたくしの髪色をあれこれ仰るのですけれど、あの方の髪も金というより煤けた縄色ですわ。 姉君のフルーチェ様のような方を黄金色の御髪と呼ぶのですわ。」

 など神殿から戻るたびに愚痴を聞かされていたものだ。

 改めて考えると、何だか私はあちこちで愚痴を聞かされているような気がしてきたな。



 そして、今、その聖女様は何故か自分の姉の婚約者の腕にしがみついる。

 小さく震えながら目を潤ませて悲しそうな表情をしているのだが、口元が上がっているので、教育された貴族の子息令嬢であればその様な擬態などに惑わされたりはしない。  殆どの者が白けた目で見ているのに気づいていないようだな。


「しらを切るつもりか、オレはババロアから聞いているんだぞ。 日頃から家で虐げられていると。母親違いだとしても、お前の妹ではないか。可愛がるのが普通であろうに」


 益々、声を荒げるおバカ王子とその腕にしがみついている妹殿の姿に、フルーチェ嬢は困惑しているようだ。


「第一、ババロアはこの国の聖女だぞ。不敬だとは思わないのか」


「そのように仰られても、全く身に覚えのない事ですし…… 」


 婚約者に責められて傷付いているだろうに、表情を強張らせながらも、取り乱さずに穏やかに答えるフルーチェ嬢は、おバカ王子の横で擬態している聖女様よりも、よほど健気で庇護欲をそそる。 


 そう思うのは私だけではないらしい。ジェラートの持つ扇から変な音が聞こえたぞ。貴族令嬢はダンスのための脚力だけでなく、握力も鍛えるのが嗜みなのか…… 

 可愛い妹は怒らせたりしてはいけないな。 以後、気を付けよう。



「お前、謝罪の言葉もないのか」


「いいのです、殿下。わたくしが至らない所があるから、お姉様の御気に障るのですわ。

 殿下、いえ、ゼラチン様が側にいて下さるからから、わたくしは大丈夫です。女神様も見守ってくださっていますし……」

胸の前で手を組み上目遣いのババロア嬢を思わずといった様に王子が抱き寄せる。


「ババロア、何て健気なんだ」

「ゼラチン様」 


 見つめ合い王子とババロア嬢は、二人だけのの世界を作り出している。周りの者が眉を顰めたり、嘲笑したりしているのは目に入らないようだ。


 ここは、どこかの劇場だったかと、二人以外の皆が現実逃避しかけた頃、王子はフルーチェ嬢を睨んで指差すと言い放った。



「反省の色がない様なら絶縁を申し渡しても良いと、侯爵から言われている。 よってお前の父親に代わって、オレが侯爵家からの絶縁を申し渡す」


 オイオイ、何を言っているんだ。人の屋敷のパーティーでお家騒動の種をまくな。迷惑だ。 


「あら、まあ……。殿下のお言葉、確かに承りました」 


 フルーチェ嬢は少し驚いてはいたものの冷静に対処していた。 まあ、それもそうだろうな。あの家は婿入りだから継承権は彼女にある。


 侯爵代理の父親が縁を切ったら、来年成人の彼女が前倒しで女侯爵になるかもしれないな。ダヨーネ侯爵(代理)も思い切ったことするものだな。


 もしかして、自分が代理だって忘れているのか? はは、まさか…… ありうるな。



 ところで、そこでイチャついてる二人「真実の愛」だか何だか知らないが、親には了承済みなんだろうな。 

 大体こんな所で婚約破棄なんてできるわけないだろうが。お前王子だろう? せめて神殿に行け。


 はぁ、バカの相手などしたくはないが、そろそろ口を出すべきか……。  なぜ止めなかったと、後で父上たちに文句を言われそうだ。



 面倒ごとの予感に憂いているうちに、第二幕が始まったようだ。

 ゼラチンが芝居がかった仕草でババロア嬢に跪いている。


「女神様の御名のもとに、第二王子たる我、ゼラチン・ハヒヤスト・カタマールは、フルーチェとの婚約を破棄し、聖女たるババロア・クリーミィ・ダヨーネと新たに婚約する事を誓う」


 王子が宣言した途端、部屋中に白い光に広がった。眩しさに皆が目が閉じたままの中に、不思議な響きの声が聞こえた。


「いいでしょう、その婚約破棄と新たな婚約を認めます。いえ、『真実の愛』なのですものね。この場で婚姻を結びましょう。 今からあなた方は夫婦になりましたわ。おめでとう」


 やっと眩んだ目が元に戻るとその場が騒然となる。


「今の声は…… 」

「まさか、女神様」


 これは、女神様の降臨か。 フルーチェ嬢の全身から清らかな白い光があふれ出ている。

 女神様に祝福されたと人目もはばからず抱きしめ合って喜ぶ新婚夫婦に、いまだ彼女の下にとどまっていた女神様から声が掛る。


「ええ、そうね」   

 静まり返った皆の見つめる声の主は、光のベールを全身にまとったかのようなフルーチェ嬢だ。


 いつも浮かべている柔らかな微笑みは無く、整った顔は無表情で、その青い瞳だけが冷ややかな視線を二人に向けている。


「なっ、おまえ 」 ひるんだ王子に、神々しい雰囲気の少女はいつもと少し違う声でつづけた。


「あなた方の婚姻は認めました。ですが、わたくしの娘を貶め、わたくしの現身を騙った罪は償ってもらいます」


 女神による断罪がはじまった。


「この娘は十年もあなたの妃になるために費やしたのに、あっさりと心変わりしたのはあなたよね。 しかも、やってもいないことで責められた。       

 わたくし怒ってもよろしいわよね」 


「それから、お前」 視線を向けられてババロア嬢がビクつく。


「わたくしの現身、ああ、聖女とか呼んでいるのでしたわね。 誰がお前を聖女だといったのかしら、お前にはわたくしの気配すらないと言うのに。 偽りばかり口にして、姉であるこの娘を虐げていたのはお前たち親娘でしょう」 

 静寂の中で震えるババロアの持つ扇の飾りがシャラシャラと音を立てている。


 初めのうちは強がって反抗していた王子も、事実を突きつけられて黙り込む。

 ババロア嬢に至っては聖女を騙るとは、女神様に不敬もいいところだ。まさか、神殿ぐるみの身分詐称じゃないだろうな。


 それに加えて、家族によるフルーチェ嬢への虐待だ。あの家は終わったな。

 まぁ、フルーチェ嬢が新しい当主になるのだから問題はないか。



「そうね」 フルーチェ嬢の姿をした女神は思案するように頬に手を当てる。


「罰としてあなた方には十年、二人分だから二十年ね。夫婦としての交わりを禁じます」 

 王子とババロア嬢の身体が光に包まれた。


「王子の身体の一部を若返らせたから、その分妻になった娘に加算しておいたわ。時が来れば正しい年齢の身体に戻るから安心なさい」


 二人を包んでいた光が消えると、いつの間にか抱き合って座り込んでいた王子とババロア嬢は顔を見合わせた。

 そして一瞬硬直してから慌てて王子が身を離す。


「えっ、侯爵夫人?いつの間にここに…… いや、まさかババロア? 」


「どうなさったのゼラチン様。わたくしですわ。もしかしてご気分が悪いのですか?」


 王子に答えたのは、フリルとレースがついたベビーピンクのドレスが窮屈そうというか、身動きで破けそうなくらい豊満な肢体のダヨーネ侯爵夫人だった。

 いや、そっくりな別人か? 小じわがあるので夫人よりも、もう少し年上に見えるがババロア嬢らしい。皆も唖然としている。


「ホントに君なのか? その姿はいったいどうして…… 」


「女神様が罰だと、仰ったではありませんの」


 困った者を見るような顔をして口を開いたのは、フルーチェ嬢だった。普段の様子に戻っているから、女神様はご帰還なされたようだな。


「なんだと」


「ですから、殿下が若返って、その分ババロアが年齢を重ねたという事ですわ」


「はっ、わたくし? わたくしがどうかして? えっ、なにこれ」


 キョトキョトと自分の身体を見下ろしてババロア嬢が悲鳴を上げる。 叫ぶのも無理もない。花も恥じらう乙女が母親より年上の熟女になったのだから。 観客の令嬢たちは、皆同情しているようだ。


「だが、オレは別に何処も…… 」 言いながら立ち上がってハッとしたかと思えば青ざめた。

 その手があらぬ場所を抑えたのを見て私もギョッとする。

 まさか、そこか。


 他の令息たちも、何が起こったのか悟ったのか顔色を失くしている。 男だったらそうなるだろうな。


 なぜか、何人かの令嬢は赤い顔している様だが、はは、どうしてだろう。

 ジェラートは……、キョトンとしているな。よし、うちの妹はまだピュアだ。


「ええと、その、大丈夫ですわ。二十年経ったら元に戻りますから」


 絶句したまま立ち尽くすおバカ王子に向かって、取り繕うように言うフルーチェ嬢に

「イヤ、大丈夫じゃないだろ」と私も含めて男性陣は心の中で突っ込んだのだった。



 その後は魂が抜けたようなゼラチン王子と、ヒステリックに喚いている元聖女のおばさんをまとめて王城へ送り出し、フルーチェ嬢は別室に案内して神殿に使いをやった。


 他の招待客は、さすがに皆、貴族子息と令嬢だ、何事もなかったようにジェラートの誕生日を祝ってくれ、和やかに茶会は終了したのだった。


 茶会を終わらせて王城に行けば、国王(伯父)宰相(父上)に事情を聞かれ、案の定愚痴と小言を聞かされる事になった。

 次いで、バカ息子を怒りながら泣く王妃には慰めの言葉をかけ励まして、何とか泣き止ませるというミッションを完了した。


 そんな働き者の私を、親友でもある第一王子は、二人だけになった途端大笑いしやがったのだ。

 人たぶらかしの腹黒王子め、人の不幸を笑うんじゃない。義弟の教育くらいお前がやれ。


 まったく、あのバカのせいで散々だ。慰謝料請求してやろうか。


 おまけに神殿の神官たちに請われて、女神様が降臨された時の様子を説明すれば、ありがたがって皆お祈りし始め、感極まった大神官のご老人は泣きだす始末。


 なんだって? その場に居たかっただと? なぜうちの妹の誕生日に神官など呼ばねばならない。普通は呼んでも来ないだろう。


 とにかく後始末が大変だった。 そう、私は頑張ったと自分でも思う。


 それなのに、一月もたたないうちに、また女神様の気まぐれによる騒ぎに巻き込まれるとは思ってもみなかった。


 もしかして、私がお嫌いですか? 女神様!









読んでいただきありがとうございました。 

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