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ドラゴン&リボルバー  作者: 井戸カエル
4/4

4発目

○洞窟の中

暗い洞窟の中でろうそくの明かりが揺らめく、黒服を身に纏った男たちは二人の男女を縛って周りを囲んでいる。黒服の一人は青白い肌を隠すようにローブを目深くかぶりながらもニタニタと下品な笑い顔で男に話しかける。口を開くたびにその下品な笑い声と金色の前歯が二人に不快感を与えた。

黒服の男:「さて、手間を掛けさせられた。博士、お会いしたかったよ。それとあなたの可愛らしい化け物にも」

博士と呼ばれた男は黒髪に白髪が目立ち、眼鏡を掛けている。後ろ手に縛られながらも男を睨みながら大声で答えた。

博士:「貴様ら!まだこんなことを続けているのかっ!ケダモノどもめ!」

黒服の男:「ふん… 口のきき方には注意してもらおうかっ!」

黒服の男は博士の腹部に蹴りを入れた。博士は小さく呻き、その様子に隣の女は憤慨し男を睨みつける。

女:「父様!くっ!」

博士:「ドーラ、大丈夫だ。落ち着け…」

博士はつらそうにドーラと呼びかけた女を見る。女はショートヘアに徴的特な赤い色の髪と赤い目をしていた。ドーラはその赤い目で再びニタニタと嗤っている黒服の男を睨んだ。

黒服の男:「そうだぞ。下手なことをしたら、貴様の喉を切り裂かなくてはいけないからな。」


黒服の男は博士とドーラを手下に見張らせ、自分は入り口近くで別の男から報告を受けた。

黒服の手下:「隊長。」

黒服隊長:「どうだ、もう一つの件は?」

黒服の手下:「はい、確認しました。例の実験体は英雄と呼ばれる男の子どもです。」

黒服隊長:「ちっ…〔不退転の騎士〕か… 厄介なことになったな。しかも、ここはコール・リブストラ、〔王の相談役〕の領地だ。早めに行動しなければな」

黒服の手下:「はい。博士を確保する際にやられた死体を発見され、付近の警備を増やしています。ここも幻でいつまでもつか」



○イチカの家の近くにある林

二日ほど経って全快したイチカは近くの林にいた。林には公園ぐらいの空間が広がっていて、よくイチカはここで魔術のトレーニングなどをしていた。倒れた翌日には銃を持ってきたコールが心配そうに様子を見に来てくれて、イチカに銃を譲ると言ってくれた。

ここで魔具と省略される魔法道具について触れておく。魔具は一般的には強力であればあるほど、高度な術式や質の高い魔法鉱石が組み込まれている。そのため、その魔具を使用するには要求に見合った魔力量とそれを操作できる魔力操作の技術が求められる。また、それらが十分であっても、その魔具の持つ魔力反応に同調できる素質がいる。その他にも以前の使用者や製作者が己の意識の一部を組み込み、持つに値するか試すとも言われている。これらの問題から強力な魔具を使用できる者はほとんどおらず、どうしても必要な場合はオーダーメイドの高級な品になってしまう。イチカの場合は高い魔力量と魔力操作の技術・適正・製作者との問答といった金銭以外のややこしい問題が幸運にも解決できた例といえる。しかし、使えるのと使いこなすのでは羽ばたきと飛行ぐらいの大きな違いがある。そのことをイチカは生前の記憶で文字通り痛いほど学んでいた。

イチカ:(やっと銃その物と術式の使用方法をものにできた。前世ではアサルトライフルを使っていたのに急に西部劇みたいになったな。……前世といえばこの世界では当たり前だが、漫画やゲームみたいにスキルやレベルってないよな。銃があるんだし…念じてみればステータス画面くらい出るんじゃ)

銃を抱えながらしばらく念じてみたがアニメのようにステータス画面が空中に表示されることはなかった。

イチカ:「魔法があるんだから、チートスキルの一つや二つくらいいいじゃん。どうせこの後、美少女が出てきてハーレム無双漫画みたいになるんでしょ!まったく、神様もけちくさい」

…その思いに答えたように天から何かが降って、べっちゃっとイチカの頭に落ちた。

イチカ:「……これが、答えかぁ!ちょっと甘えただけで鳥の糞を降らすって陰湿すぎんだろ!どこぞの幼女みたく喧嘩吹っかけたわけじゃねーだろうに… まぁでも前世よりは格段に恵まれてるよな…」

イチカは快晴の空を見ながらしみじみ思った。

 イチカ:(まぁ転生できてるだけありがたいわけだし。親父からは剣術、コールさんからは魔術を教わって、前世では考えられない暖かな家庭で生活できている。…俺は恵まれてる)


そんなことをひとりで感じていると後ろから声を掛けられた。

リーナ:「兄さん、サンドイッチ持ってきたわよ」

イチカ:「二人ともありがとう」

ガサガサと草を掻き分けてリーナとアーサーが食べ物の入ったバスケットを持ってきた。

リーナ:「体はもう大丈夫?」

イチカ:「ああ、アーサーには心配をかけたな」

リーナ:「アーサーったら、デモニストの呪いじゃないかって泣きそうになっていたものね」

アーサー:「死体を見た後だったんだよ。しかたなじゃないか」

イチカ:「確かにびっくりしたよな。そういえば、俺の代わりに伝えてくれてありがとう」

三人で談笑しながら昼食を食べた後、リーナとアーサーはイチカが持っている銃に興味津々といった様子で見ている。

リーナ:「それで…その杖?はどんな物なの?」

アーサー:「僕も気になってたんだ」

イチカ:「わかった、わかった。見せるから二人とも離れろ」

二人の眼差しに負けたイチカは諦めたように銃を構えて、離れた所にある倒木の上に置いたりんごを狙う。そして、引き金を引いた瞬間、轟音と共にりんごが弾けとんだ。アーサーとリーナは音と弾けたりんごを見て驚いた。あまりに一瞬のことで何が起きたか分からず、イチカを凝視している。

アーサー:「す、すごい音。それに凄い威力だ」

リーナ:「な、なにをしたの?兄さん」

驚いている二人にイチカはシリンダーから弾を抜き、説明を始める。

イチカ:「タネは簡単で、この術式で作った土の弾を撃ち出す。弾は的を貫いた後に形を維持できずに弾ける。これが水で作った弾なら、形の維持が難しく当たった瞬間に弾ける。まぁどちらでも人間の腕なら吹き飛ぶだろうな」

リーナ:「えっえげつない」

アーサー:「うわー」

二人が軽く引いている中で、イチカは続けて説明するためにストックの術式を起動して腕を振る。すると土煙が舞い上がり土の壁が一瞬にして出来上がる。

アーサー:「ど、どうやったの?術式で作ったの?」

リーナ:「口頭術式じゃないわよね」

イチカ:「リーナ、いい視点だ。確かに地面に術式はないから、口頭での術式を疑うのは当然だ。だが、口頭術式の場合、使用者は昔ながらの方法で呪文を間違えずに魔力を均等にすることが必要だ」

リーナ:「そうね。それに兄さんが口を動かしている様子もなかったし、発動するまでの時間が早すぎる」

アーサー:「その銃?の木の部分の術式で弾を作ってたよね。それを弾を作る時みたいに機動させて、土を集めて魔力で固めたとか?」

イチカ:「……。アーサー」

アーサー:「えっ?間違ってた?咄嗟に思いついたんだけど…」

イチカ:「正解」

リーナ:「もう、もったいぶって。心臓に悪いわよ」

イチカ:「すまん、すまん。さっきの仕掛けはアーサーの言った通りだ。弾を作るときの要領で土を集めるときに魔力でこう、強引に引っ張る感じにするんだ。それで引っ張ったあとに魔力を注いで固定するイメージだ。あと、もう一つ応用を見つけてな。これは危ないから、俺が作った壁の後ろに行ってくれ」


手に弾丸を作ったとき以上に土が集まり、野球ボールくらいの大きさになる。それをイチカが倒木に投げつけると、ボールは爆発して倒木に穴が空いた。

イチカ:「これは弾を作るときの応用で、全部で6発の弾をひとまとめにして投げたんだ。一つでも不安定なのに、それが重なるとちょっとした衝撃で貯めた魔素が弾ける。即席の爆弾だな」

リーナ:「びっくりした。大きい音がするなら言ってよ」

アーサー:「本で読んだドワーフの爆弾みたいだね」

イチカ:「やり方が薬剤を使うか、魔力を使うかの違いだからな。ほとんど同じだろう」

リーナ:「でもこれだけできると、魔力の消費がすごそうね。もしかして、周囲の魔素を集められるなんて言わないわよね!?」

イチカ:「そこまえはできない。今までのは全部、俺にある魔力だからな。もし、エルフの医療魔術みたいな規模の大きい術式と同じことができるなら、すぐに魔人か聖人になれる。でも実際はそこまで便利じゃない。注意して使わないとごっそり魔力を持っていかれて、倒れることになる」。

アーサー:「結構、効率が悪いんだね。でも、これだけの威力だと剣や弓がバカらしくなるね」

イチカ:「まぁな…」

(さすが鋭いな。実際、前世では銃が剣や弓に取って代わったからな。分かっていたが、これは世界を一変させる発明だ)

確かに銃は剣や弓に比べて射程や威力を上回り、戦いの歴史を一変させた。しかし、銃が本当に他の武器と異なるのは、人間の単一化と簡略化という二つ点だ。人間には性別や年齢などから生じる力や身体能力の差がある。だが、銃はそういった差に関係なく誰も彼も兵士という単位に統一できる。また、従来の剣や弓は習得するのに数年~数十年を必要とするが、銃は扱い方さえ学べれば半年~一年で扱える。この時間の短縮と引き金を引くだけいう殺意の簡略化ができる。これらの利点があったため、銃は人類最大の武器となった。


イチカは二人に銃のことを話した後、アーサーにこの前の山でのことを聞いた。

イチカ:「あの後、コールさんは衛兵と森を探索したらしいな」

アーサー:「うん。死体を見つけた場所をくまなく探したけど、特に何もなかったみたい。」

イチカ:「死体からは何か分かったのか?」

アーサー:「ううん。コールさんと父さんもどこの人か分からないって。でも、盗賊のわりには身なりが良かったし。何者かな?」

リーナ:「 今も衛兵の人や父さん達が警戒してるから、心配しなくても大丈夫だと思うけどね」

三人で話をした後にリーナとアーサーは母親の手伝いのために家へ帰り、イチカは死体を見つけた場所にもう一度行ってみることにした。山へ向かう途中でイチカは蝶ネクタイを身に着けた小学生の気分になり、 今ならほんの少し探偵漫画のキャラの気持ちが理解できる気がした。


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