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第四話 夜のメッセージ

「お、早速ラインですね」

「彼女とは限らないだろ」


 俺のスマホはメッセージの受信は画面に知らせてくれるが、内容までは表示しない設定にしてあった。ただしロックを解除するとプレビューである程度のところまで表示される。そしてコイツは現時点で最新の顔認証システムを搭載している機種だ。便利なので使っているが、それがこんなところで(あだ)になろうとは。


「なっちさんらしいですよ、池之内さん」

「人のスマホを覗き見るんじゃねえよ」


 スマホをふっと持ち上げた時、カメラが俺の顔を認識してロックを解除してしまったのだ。お陰で差出人の名前と本文が表示されてしまったというわけである。


『今日はほんっとーにありがとうございました! 今度は絶対、ぜーったいにお礼させて下さいね! 既読スルーは泣きます。未読放置は体育座りで泣きます』


 色んな絵文字がふんだんに使われた、これぞ女子高生といったメッセージだった。それにしても返信強制かよ。もっとも家族や友人ならイラッとするところだが、相手があの夏菜だと思うと不思議と嫌な気がしない。


『いえいえ、こっちも楽しかったから気にしないで下さい。おじさんは仕事中だから、昼間はすぐに返信出来ないけど泣かないでね』


 体育座りで泣くというフレーズに思わず姿を想像して笑ってしまったので、ひとまず返信だけはしておいた。すると再びメッセージを受信する。


『わっかりましたぁ! 何時頃に帰るんですか? あと亮太さんはおじさんなんかじゃありませんよ』


 これまた敬礼している絵文字やら、色とりどりのはてなマークやらがあちこちに使われている。対して俺の送信するメッセージは何と味気ないことか。そして打つの早いよ、夏菜さん。


『何もなければ七時頃かな』

『じゃ、その頃にまたメッセ送ってもいいですか?』

『おっけ!』


 何とか俺も絵文字で返せた。


「楽しそうじゃないですか」


 彼女とのやり取りがいったん終了したのでスマホをポケットにしまうと、隣にいた竹内がニヤニヤしながらからかってきやがった。


「な、何だよ!」

「池之内さん、顔がニヤけてましたよ」

「うっせ!」


 この後システムにも何も起こらず、俺は定時で退社したのだった。




『お仕事お疲れさまでした。一休みしてからでいいのでお返事待ってます』


 きっとですよ〜、という可愛らしい絵文字が最後に付けられていた。夏菜からのメッセージは俺が帰宅した瞬間に届いたのである。まだ伝えた七時には少し早かったが、彼女なりに気を遣ってくれているのが分かってちょっと嬉しかったよ。


 俺はその言葉に甘えて、やるべき事を先に済ませることにした。


 男の独り暮らしは何かとやることが多いのである。洗濯は三日か四日に一度でいいが、掃除から夕食の支度、風呂に翌日の準備ととにかく大変だ。これを妻は働きながら毎日やってくれていたのだと思うと、今になってもっと(ねぎら)っておくべきだったと後悔しか出てこない。


 思わぬところで感傷に浸っていたら、いつの間にか九時を回ってしまっていた。するとスマホがメッセージの受信を知らせてくる。しかも立て続けに何度も。送り主は夏菜だ。しまった、うっかり忘れていたよ。


『亮太さん! 何かあったんですか? お返事下さい!』


『亮太さん、心配です。大丈夫ですか?』


 だいたいこんな内容のメッセージを、すでに十回近く受信していた。


『ごめんごめん、色々やってたら遅くなっちゃった』


 慌てて返信すると、すぐにまたメッセージが届いた。


『やっと既読ついたぁ! 何度もメッセしてごめんなさい』


 しゅんとした絵文字が何だかいじらしく感じられる。


『本当にごめんね』

『心配したんですよぉ。何かあったんじゃないかって』


 今度はぷんぷん怒っている絵文字だ。


『独りだから帰ってからもやること多くてさ』

『独りアピールされたぁ』


 猫が嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている動く絵文字が笑える。


『独りアピールって』


『男の人って帰ると何するんですか?』

『生きていくための食事とか、生きていくための洗濯とか、生きていくための掃除とか』


 一度入力すると、次から最初の一文字を打つだけで予測変換してくれるから、同じ文を繰り返し使うなら早くて楽だ。


『面白い言い方するんですね! 私も真似しちゃおっと』


 この後も何でもない会話が続き、気付いたら日付が変わる時刻になっていた。そろそろ寝ようというメッセージを送ると、ちょっと不満そうな絵文字が返ってきたが、すぐに了解と返ってくる。


『明日もお話ししてくれますか?』

『俺でよければ』


『やったー!』


 俺みたいなおっさんと話してて何が楽しいのかよく分からないが、特にすることもないので話し相手が出来るのはウエルカムだ。


 そんなことを考えながらスマホに充電ケーブルを挿すと、俺はすぐに眠りに落ちたのだった。

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