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第十話 メイドさんはいいよね

「さて、竹内君といったかな。春香とはいつからの付き合いかね?」


 俺はさん付けで竹内は君付けか。まあ一条(パパ)からすると娘の恩人という立場の俺に対して、竹内は娘に付いた悪い虫といったところだからそれも仕方ないかも知れない。


「あ、えっと……」

「三ヶ月を少し過ぎたところです。お父様、そろそろ」

「ああ、もう着くか。ではまた後ほどゆっくりと聞かせてもらうことにしよう」


 さすがにコチコチに固まりまくっている竹内を見ていたら、ちょっぴり可哀想な気もしてきたよ。とは言っても面白半分で俺に付いてきた結果だから自業自得なんだけどね。


 リムジンは緩やかにスピードを落とすと、両側に守衛さんと思われる人が立っている大きな門の前で停止した。ガラス越しなので何を喋っているのかは聞こえなかったが、運転手さんが守衛さんと二言三言言葉を交わすと門が左右に割れる。


「一条家へようこそ」


 夏菜がニッコリと微笑みながら言い、再びリムジンが滑り出す。その脇では先ほどの守衛さんが直立不動の姿勢で敬礼していた。




 リムジンは歩くのよりは少し速い程度の速度で敷地内を進む。そしてその前方には(きら)びやかにライトアップされた、これぞ豪邸という建物が見えた。(やしき)というよりまるで宮殿のようである。


「お帰りなさいませ、旦那様」


 メイド喫茶以外で人が旦那様と呼ばれているのを聞いたのはおそらく初めてだ。リムジンが邸の前に停まると運転手さんがドアを開け、その向こうで数人のメイドさんたちが頭を下げて出迎えてくれた。


「お父様、これは一体……」


 車から降りようとしていた一条父に、春香さんが驚いたような声で尋ねた。一体どうしたというのだろう。だがその答えはすぐに分かる。


「もてなしだよ。池之内さんは若い男性だと聞いたからな。こういうのが好きなのではないかと思ったのだ」


「へ? 俺……私のために?」


「もう、お父さんたら。亮太さん、勘違いしないで下さいね。皆普段は私服ですから」

「そうなの?」


 今度は俺が驚いたよ。怖い人だとばかり思ってたけど、この社長さんはなかなかユーモアのある御仁(ごじん)のようだ。もちろん俺はメイドコスは大好きだ。ただ、出来れば夏菜と春香さんにもやってみてもらいたい。とてもそんなことを言えるわけはないが。


「無論竹内君のためではないぞ」

「お父様ったら。あまり竹内さんを邪険になさらないで……竹内さん?」


 せっかく春香さんが(かば)ってくれようとしたのに、竹内の馬鹿は明らかにメイドさんに見とれているようだった。それに気付いた彼女がちょっぴり怒り眉になっている。


「池之内さん、紹介しよう。妻の律子(りつこ)だ」


 俺と竹内が車から降りると、俺たちを挟むようにして春香さんと夏菜が横に並ぶ。そこで一条父が一条(ママ)を紹介してくれた。


 春香さんが二十歳と考えると、年齢はおそらく四十代半ばといったところだろう。しかしどう見ても三十代前半としか思えない綺麗な人で、春香さんの姉だと紹介されたら何も疑わずに信じてしまうと思う。


「は、初めまして。池之内亮太と申します」


「主人から聞きました。この度は娘の夏菜が大変なお世話になったようですね。さあ、こんなところでは長話も出来ません。中にお入り下さい。あなた、そちらの方は?」

「池之内さんと同じオフィスで働いている、春香のただの友人だそうだ」


 ただの友人だってよ、竹内。


「まあまあ、それではあなたが竹内さんですね?」

「な、律子お前……」


「ええ、春香さんから聞いておりましたよ。さ、あなたもどうぞ中へ」


 なるほど、知らぬは父親ばかりなりってやつか。この辺りは金持ちだろうと一般人だろうと関係ないようである。


 ここで俺たちはお招きされたのが夕食であることを聞かされた。そして客間へ通され、まだ時間がかかるということでしばらくそこで待たされることになったのである。


 それにしても居心地が悪いといったらない。目の前に一条夫妻が座っているのだが、間を取り持ってくれるはずの夏菜も春香さんもどこかへ行ってしまったのだ。せっかくメイドコスの使用人さんが入れてくれた高そうな紅茶の味さえも全く分からない程である。


「池之内さん、そう固くならんでもいい」

「竹内さんも、楽にして下さいね」


 二人はそう言ってくれたが、どう考えても場違いな雰囲気に俺も竹内も縮こまるしかなかった。だが、この後さらに俺たちは驚かされることになる。


「失礼します」


 それは声と共に夏菜と春香さんが戻ってきた時のことだった。

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