ご縁その5
アホ貧乏神との出会いから一晩たった。
昨日の出来事はやはり夢ではなかったようで、俺の隣には実に心地よさそうな顔で寝ているアホの姿があった。我が家に一式しかない布団に包まって寝ており、芋虫を想起させる。
口は少し開いていて、よだれを垂らしているのが分かった。
その様子ははたから見れば微笑ましいものであったが、俺から我が家に一式しかない布団を剥ぎ取り寝ていることを思うと腹立たしい気持ちでいっぱいになる。
俺はアホが包まっている布団を掴み、思いっきり上に持ち上げた。
すると、アホは歴戦のフィギュアスケートの選手が如く、複数回空中を回転し、体を床に叩きつけられた。
「すんどぅぶ!」
アホは叩きつけられた衝撃から大変おいしそうな叫びをあげる。
うぐぐとなんとも痛そうに体を起こし、
「いたた…時雨君はまともに人を起こすことが出来ないんですか!!」とつっかかる。
「うるせぇ!!てめぇ、なに人が使っている布団剥ぎ取ってすやすや寝てんだ!」
「時雨君がいけないんですよ!私昨日言いましたよね?”布団は一緒に使いましょう”って。それで時雨君は嫌といったので仕方なく時雨君が寝た後に拝借しました」
「拝借じゃなくて強奪だろ!」
「それで今日の朝ごはんは何ですか?」
アホは俺の怒りなど関係なく話を進める。このアホめ。
「いやー、お腹空いちゃいましたよー」
ごーはーん!ごーはーん!とうるさい催促に負けた俺は布団の話を一時中断し、冷蔵庫を開け、食材の確認をする。
冷蔵庫に入っているのはきゅうり2本にマヨネーズのみ。
うん。相変わらず寂しいね。俺の冷蔵庫。
「よく聞け。今日の朝ごはんは大変豪華だぞ?きゅう…」
「あ、そういえば昨日ご飯を作った後、冷蔵庫にはきゅうりとマヨネーズしか残ってなかったですけど、まさかそれが朝ごはんじゃないですよね?」
「え?」
「へ?」
アホは冷や汗をかきながら、ぎこちない笑顔で
「嘘…ですよね…?」と俺に言う。
正直な話、俺自身も嘘であってほしいと思わざるを得ない。
しかし、他に何もない以上うだうだ言ってもしょうがない。
「残念ながら嘘じゃない。2本しかないきゅうりを1本お前にやるんだ。ありがたく思え」
「たかだかきゅうり1本で恩着せがまし過ぎます!」
「お前にやるきゅうりは本来俺の夕食になるものだぞ!感謝するのが筋だろーがっ!」
「どうしてそんなに食生活が貧窮しているんですかっ!」
「そんなんお前、金がないからに決まってるだろ。ちなみにいうと貧窮しているのは食生活だけじゃない。生活全てだ!!」
「そんなこと自信満々に言わないでください!!」
話をしながら、ふと時計を見てみれば時刻は午前7時30分をまわっていた。授業開始は8時40分。俺の住む崩れ荘から新帝都高校は1時間弱かかる。間に合うか微妙なラインだ。
俺は急いで制服に着替え、学校に行く準備をする。
「俺は学校に行く!お前はそのきゅうり食いながら神界に戻れる方法を探せ!」
「え、ちょ…本当に朝ご飯これだけなんですか…?」
「そうだ!それだけだ!あ、マヨネーズはスプーン2杯までなら使っていいぞ!良かったな!」
「えー!すごい!ってお馬鹿さん!!何も良くないですよ!!!あ!時雨君!?」
支度を終えた俺はアホの発言を無視し、勢いよく部屋から飛び出た。
今日、この日から。
めちゃくちゃな学生生活が始まる。
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ちょこっと裏話
「ねぇ、あの娘、やっと担当任せてもらえるようになったんだって」
「えー?成績一番下だったのに大丈夫なの?」
「さぁ?どうかしら」
「担当される人はたまったもんじゃないわ」
「食べてばっかのイメージしかない」
「そうそう。きっと使えないってなって帰ってくるに違いないわよ」
教室の扉を開けようとすると中から私への悪口が聞こえてくる。
私が疎まれているのはいつものことだ。
ここに私の居場所なんてものは存在しない。
私は今日、初めて担当を持つことが許された。
私はこの担当する人に幸せとは何かを伝え、実際にそれを理解してもらわなくてはならない。
それが貧乏神、私の使命だ。
ずっと待ち焦がれていた担当持ち。
嬉しい気持ちと同時に不安な気持ちもこみ上げてくる。
私が担当で本当にいいのだろうか。
私に彼を導くことが出来るのだろうか。
読んでおけと先生からもらった紙には
「古瀬…時雨……」
私が初めて担当する人間の名前が書かれていた。
常に前進、日々精進!どうも幻想ショコラです。はい!ということで今回は中身が全然なくて自分でもびっくりしていますW次回からは時雨の学校生活が明らかになっていき、第2章の前置き部分となる大事な話にしていくつもりなので本作品を見捨てないでやってください。次回もお楽しみに!!!
以上、幻想ショコラでした!!