ご縁その4
ザァーと外からは雨の音がよく聞こえてくる。部屋の静かさと相まって雨の音はより響き、お互いどう話を切り出すか、その隙さえ与えてくれないようだった。
黙り合ってから数分。いよいよ、気まずくなってきた。
貧乏神を名乗る楓という女はバツが悪そうにモジモジとし始める。
俺もこのままでは精神がもちそうにない。
「なぁ、今日は1回帰ったらどうだ?」
貧乏神に帰宅を促す。
そしたら、
「えーと、そのぉ…私…家…ないんです」
「は?」
「時雨くんに本当の幸福を知ってもらうまでは神界に帰れないようになっているんです……時雨くんに会うまでは公園を拠点にしていました…」
衝撃の事実。神様は公園に住んでいた!
こいつ、マジか。神様なのにホームがレスって。
「でも、神様なんだろ?別に公園でも…」
俺がそう言った瞬間、彼女はくわっと顔を強ばらせ、
「嫌です!もう公園住みは嫌です!時雨くん!分かりますか!?冷たい地面に体をくっつけ寝る辛さが!食べ物買うお金もないから公園の雑草食べたり、炊き出しに向かうひもじさが!なんか体が痒いなと思ったら肩からアリがコンニチハしてたときの衝撃が!」
鼻水と涙をダラダラながしながら、熱弁する。その表情は本当と思わせるには十分なものであった。嫌だ嫌だと首を振り、彼女はとんでもないことを口にする。
「というわけで、今日からここに住みます。よろしくお願いします」
ん?
「はぁ!?いやいや!それは無理だって!なんで俺が訳分からん奴を住まわせないといけねぇんだよ!」
俺の住んでる場所は六畳一間のボロアパート。2人で住むにはかなり狭く、生活をしていくのは大変だろう。その環境下でこんなヤバそうな奴と同居だと?ありえん。絶対に嫌だ。
早急にお引き取り願いたい俺は彼女に向かって帰れアピールをする。
「か・え・れっ!か・え・れっ!とっととかえれー!」
「騒音お〇さんみたいなアピールはやめてください!大丈夫です!私、結構便利ですよ!一家に1人は欲しいレベルで!こう見えても家事は得意で、好きな料理はチャーハンです。明日はチャーハンがいいなぁ。チラッチラッ」
「何が大丈夫なんだこのアホ!好きな料理はチャーハンですだぁ?そこは得意料理を言うところだろうが!あと何気にチャーハン所望してんじゃねぇ!」
なんなんだ、このアホは。疲れる。めっちゃ疲れる。こいつと話すの。
「ここダメなら本当に行くところないんです!お願いです!」
「いや、そう言われても…」
「お願いです!お願いします!」
「う、うーん…でもやっぱり無理だろ…」
「からのぉ?」
「からの!?からのとかないぞ…?」
「そこからぁ?」
「いや、だからないって!話は終わり!」
「360度回ってぇ?」
「360度回っちゃったらいよいよ終わりだぞアホ。そこは180度だろ…」
「時雨くん、本当に行くところないんです…とりあえず少しの間だけ。お願い出来ませんか?それが終われば私は出ていきます。もう時雨くんの前には現れません。でも、ここで私を叩き出したら、時雨くんが行く先々に現れてやりますよ。チャーハンを片手に持ってね。」
「うん。なんでチャーハン片手に持ちながらなのかは知らないけど。あとそのキメ顔やめてくれる?マジで殴りたくなるから」
こいつにここに住まわれるのは本当に勘弁願いたい。だが、俺の目の前にずっとこいつが現れるのもやめて欲しい。こいつ下手したら、家だけでなくバイト先や学校といった様々なところに現れるかもしれないし。
それはマジで嫌だ。
考えに考え。俺は1つ答えにたどり着く。
「分かった…少しの間だけここに住まわせてやる。その間に神界とやらに帰れる方法を探せ。いいな!?少しの間だけだぞ!分かったな!?」
俺がそう言うと、彼女は満面の笑みで、
「ありがとうございます!明日はチャーハンでお願いします!」
「引きちぎるぞアホ」
我が家に1人の貧乏神が加わりました。
常に前進、日々精進!どうも!幻想ショコラです!いやー、第4話ということで。お待たせ致しました。今回は貧乏神の楓が時雨の家に居候をする経緯を書かせてもらいました。これから、本編だけでなく、楓視点の物語も書いていきたいと思っています。これからも貧アホをよろしくお願いします!
以上、幻想ショコラでした!