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親友

作者: CLIP

「怪しいとは思っていたけど、やっぱりそうだったのね!」

練習が終わった体育館で、二人並んで座っている浩次と仁美

二人の前に、証拠の携帯を持って立っているのが、浩次の妻、有里だった。

有里と仁美は、ママさんバレーの同じチームで、親友だと思って今日まで頑張っていた。

浩次は、そのチームのコーチ…

「今まで、さんざん浩次の浮気には泣かされてきたけど、まさか今度の相手が仁美とは…」

有里は、震える手で、携帯を握り締めていた。

二人のメールのやり取り、データフォルダに入っていた仁美の画像

練習を抜け出し、浩次のカバンからこっそり持ち出して見たのだった。

何となく、二人の視線とか、態度を見ていて、気が付いてはいたけれど

はっきりとした証拠を手に入れて、練習後、二人を問い詰めたのだった。

「ごめん…」うなだれて座っている浩次

無言のまま、目を反らしている仁美


その場を離れ、携帯である場所に電話した有里は、仁美に向かっていった

「浩次がお世話になったお礼をしないと…付いてきてもらうから」

「あなたは勝手に歩いて帰って良いから」

呆然とする浩次を残し、有里は半ば無理矢理、仁美を車に乗せた。

「有里、私…」

二人きりになったからか、仁美が何か言おうと口を開いた。

「別に、言い訳なんて聞きたくないし。ただきっちりお礼はさせて貰うから

それとも、あなたの旦那や子供にお礼した方が良いかしら?」

有里は、前を向いたまま、助手席の有里に言った。最後の辺りで横の仁美を見た。

怒りで声が震える…

仁美は、下を向いて、手を握り締めているだけだった。


車が付いたのは、一軒の床屋の駐車場だった。

「早く降りて!営業時間延ばして貰ったんだから」

降りない訳にも行かず、仁美も渋々車から出る、そして有里に押されるように店内へ入らされた。

古ぼけたような店のドアを開けると、中に男性が立っていた。

「健ちゃん、ごめんね、無理言っちゃって…どうしても今夜がイイってこの子が言うから」

有里は、その男性に向かって、妙に嬉しそうにそう言った。

「いいよ別に、どうせ部屋に帰っても、後は寝るだけだし…」

「この人、私と浩次の同級生の健ちゃん、ここのお店の跡取り息子…

健ちゃん、こちらチームメイトの仁美ちゃん」

有里は、二人をそう紹介すると

「じゃあ、仁美、早速やってもらいなよ」と仁美をイスの方に押した。

仁美は、状況も判らず、でも、反論する事も許されず、イスに座るしかなかった。


「カットとパーマだっけ?」

健は、そう言いながら、イスに座った仁美の首に、白いカットクロスを巻きつけた。

「どれくらい?どんな感じにしたいの?」

初対面とは言え、仁美が連れてきた子だから、と親しげにそう聞いた。

でも、仁美は何も答えず、答えたのは、有里の方だった。

「ばっさり切っちゃって良いんだって。そんなに長いのに、勇気あるよねえ~」

その言葉に、仁美がハッと顔を上げて、有里の方を見る。健も驚いている様子だった。

「自分じゃ言えないって言うから、連れてきてあげたんじゃない。ねえ、仁美、良いのよね?」

「え…私…そんな…」仁美はしどろもどろで、思うように言葉が出ない。

「大丈夫、健ちゃん腕は良いから、思いっ切り、ばっさりやってくれるわよ」

仁美も、健も呆然としていると、有里は更に付け加えた。

「短~く切って、パーマも、思い切りキツく掛けて欲しいんだって。遠慮しないでやってあげて

本当は、いっその事丸坊主にしたいって言ったんだけど、それはあまりに目立つと思って、止めたのよ」

仁美は、そう言って、有里の肩に手を置いて「ねえ?」と笑いかけた。


「本当に、良いの?」

健が、仁美にそう聞くと、仁美は有里の方を見て、諦めたように小さく頷いた。

その頃から、健は、二人の間に何かあったんだ、と察していた。

(どうせ、浩次のヤツも絡んでいるんだろうなあ…)

中学の頃から、つるんでいた浩次の性格も、健は良く知っていたし

二人が付き合っている時からも、結婚してからも、浩次の浮気性に悩まされていた有里も見てきた。

(…と言うと、この子が浩次の浮気相手か…)

ようやく状況を察した健は、有里の方を見て言った

「今日、浩次は?」

「知らない、どこかで飲んだくれてるんじゃないの?あのバカ…」

浩次の名前が出た途端、ビクっと肩を震わせた仁美、それで決定だった。

(浩次のヤツ、有里の友達はまずいだろう、そりゃ怒るわな…)

健は、有里の事をずっと見てきたし、好意も持っていた。でも浩次の事も友達として好きだったし

それだけは、やっちゃダメだろう、と自分に言い聞かせてきた事だった。

(この子は可哀想だけど、今回は有里の言う事を聞いてやるか)

健は、そう決めると、ハサミを取り出した。


「じゃあ、ご注文通り、思いっ切りばっさり切らせて貰いますよ」

仁美が、返事をする間もなく、肩下に垂れている長い髪、、耳の辺りを一房掴むと

耳の上で「ジョキッ」と切った。

仁美の身体がビクンと振るえ、鏡の中の自分を見て、すぐに下を向いた。

健は、そのまま耳の上を通るようにハサミを入れ、更に切った。

切り落とされた髪が、ばさっと床に落ちる。片耳がすっかりあらわになった。

そのまま後ろに向かい、生え際ギリギリのところを、ザクザクと切っていく。

そして反対側も、同じように、耳の上から、後ろに向けて…

落ちた髪が、床に広がる。

ホンの数分で、仁美の髪は、すっかり短いボブになってしまっていた。

「さて、まだまだ切った方が良いよね」

誰に言うでもなく、健はそう言うと、横の髪をくしですくっては、切っていく。

トップの辺りまで、刈り上げにしていく。仁美はずっと下を向いたままだった。

反対側のサイドも、そして後ろも、キレイに刈り上げにしていった。

「ロットが巻けるくらいは残しているからね、これならパーマもかかるし」

有里は、仁美のロングヘアが、ばっさりと切り落とされて行く様子を、待合のイスに座って眺めていた。


まったく、いい気味だわ。

私の知らない女相手なら、まだしも、まさか仁美に手を出すとは…

仁美だって、私たちの事、誰よりも良く知ってて、浩次と付き合うとは…

本当は、仁美の旦那の所に乗り込んでいって、ぶちまけてやりたい所だけど

子供が可哀想だし…

それにしても、浩次、あのHF男!

「ショートはダメだ、長く伸ばせ」だの「パーマは絶対に掛けるな、ストレートにしてろ」とか

私の髪型に、やたら細かく注文付けたり、Hの時も髪ばかり触っているし。

さっき見た浩次の携帯の画像…仁美の長い髪の写真もいっぱいあったし…

「浩次の嫌いなショートで、きつくパーマを掛けて…」

親友と思っていた女に、旦那を盗られた妻として、これくらいの仕返しはアリでしょ。

有里は、そんな事を考えていた。


とりあえずカットが終わり、シャンプーの後、パーマの準備に入っていた。

ついちょっと前まで、ロングのストレートヘアだった仁美の髪は

トップが立つくらいに短く切られたスタイルになり、次は細いロットを巻かれている。

前髪にも、サイドの短い髪にも、極細のロットが巻かれて行く。

時間を掛けて、何十本のロットを巻き、薬剤を付けていく…

「今は、こうしてびっちりパーマを掛ける事は少ないけどね、まあ、ご希望だから…」

健がそう言いながら、仁美のロットを巻いた頭に、シャワーキャップのようなものを被せた。


まるで、商店街で買物をしているおばちゃんのような、くりんくりんのパーマヘアが出来上がった。

「仕上げに…」と、健はバリカンを取り出し、襟足と、もみ上げをしっかり刈り上げにした。

襟足の髪が、数ミリに刈られ、うっすら地肌が青く見える。

その上から、細かくパーマの掛かった髪…前髪も、当然同じ。

仁美は、変わり果てた自分の姿に、呆然として声も出ない。

(少しやり過ぎちゃったかな、まあ、仕方ないか)

健は、そう思いながら、カットクロスを外した。

「これはこれで似合ってますよ」

嘘ではなかった…けど、やはりどう見てもストレートロングの方が可愛かった。


「健ちゃん、ありがとう。さ、仁美帰ろうか?旦那さんや子供達も待ってるし

でも、その頭見たら、さぞ驚くだろうねえ~すっごいイメチェンだもんね~」

有里は、嬉しそうにそう言うと、仁美と、外に出ようとして、振り返った。

「あ、たぶん明日浩次が来るから、お金は浩次から貰って。

で、浩次も暑くなって来たから、髪切りたいって言ってたし…」

有里がニヤリと笑う…

「OK!暑いからな、すっきり坊主にでもするんじゃないか?」

健もニヤリと笑い返す。あのバカには、俺が代わって、仕返ししてやるよ。

「じゃあ、おやすみ」

すっきりしたのか、有里は、まるでスキップをするような足取りで出て行った。



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