プロローグ②
誰だ!? これは!?
オレは困惑した。
鏡の中のオレはいつもの見慣れたブサイクではない。
一〇人の女性が見たら九人は「なんてイケメンなの! 素敵! 抱いて!!」となることは想像に難くないレベルの美形だ。
「これが……オレ?」
ブサイクであるオレがさらにブサイクになるはずが、まかり間違って超絶イケメンになっていた。
しかし。
オレをブサイクに変えたはずのブサイクブレイドの驚きぶりと言ったらオレの比ではなかった。
(何故だ!? 何故ブサイクになっておらんのだ!? 今まで多くの者が我を手に入れんとしたが、そのことごとくが醜くなって己の容姿に絶望して自らの手で命を絶っていった! それなのに何故貴様はブサイクになっておらんのだ!?)
そんな声ではない声が頭に直接響いてくる。
「おそらくだが」
その問いにの答えるべくオレは口を開く。
「オレが元々ブサイクすぎたせいだろうな」
(なん……だと……!?)
ブサイクブレイドは動揺を隠せずにオレの言葉に反応した。
「オレは『人間の顔じゃない』って素で言われるレベルのブサメンだぞ? これ以上ブサイクにするのは無理だったんだろうな」
(それでは……)
確認するようにブサイクブレイドが問いかけてくる。
(これ以上ブサイクにはできない、という矛盾が生じ、美形にしてしまった、ということか!?)
「多分な」
(なんということだ……! 驕り高ぶった傲慢な人間をブサイクに変えることで身の程を弁えさせてやるのがこのブサイクブレイドがブサイクブレイドたるアイデンティティーだというのに……!)
話を聞いている限り、どうやらこのブサイクブレイドの本来の役割は「鼻っ柱の高くなりすぎたヤツをわからせる」ことらしい。
(そういえば貴様一人か)
「それがどうした」
(これまで我を手にした強者は例外なくパーティーでここまでの道程を踏破していたが)
「まあ、そうだろうな」
冒険者はパーティーを組んで行動するのが定石である。
分け前が減るのが嫌だとか、オレみたいにあまりにもブサイクすぎて誰とも組んでもらえないとかの特別な理由がない限りは。
(たった一人でここまで辿り着くとは前例のない正に比肩なき勇者)
「それはオレがブサイクすぎて誰ともパーティーを組んでもらえなかったからだ」
(なんと!)
「今はギルドトップになったオレの実力にあやかろうとしてくる連中もいるから、その気になれば組めるが、そんな連中は願い下げだからな」
(……)
ブサイクブレイドが言葉を失う。
「わからせ」ようとした相手であるオレにその必要がなかったからだ。
(辛い目に遭われてきたのだな……)
ブサイクブレイドのオレへの態度が一気に軟化したのがわかった。
どうやら根は悪いヤツではないようだ。
「まあ、一通りの不幸を味わってきた自負はある」
とだけ答えておく。
両親が流行り病で死んでからのオレの人生はブサイクを嘲笑われるのが微笑ましく思えてしまうくらい悲惨なものとなった。
引き取られた先では人間扱いされなかった。
たまらずオレはそこから逃げ出した。
そこからオレは誰の庇護も受けずに生きていくことになる。
その代価は決して安いものではなかった。
虫の味を知っている。草の根の味を知っている。木の皮の味を知っている。泥水の味を知っている。ブサイクという理由だけで濡れ衣を着せられたり入店拒否されたりしたこと、死にかけたことも一度や二度の話ではない。
エトセトラエトセトラ。
そんなことを思い返しているとブサイクブレイドが思わぬことを言ってきた。
(本来は我は所有者をブサイクに変えた時点で沈黙を守るのが倣い)
「そうなのか?」
(ああ。だが貴公には惜しまぬ助力を約束しよう)
「それは助かる」
(飾らぬ性格も気に入った。我は心より貴公を主と認めよう)
こうしてオレはブサイクブレイドの正式な所有者となった。
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作者も人間ですのでptが上がればやる気も出ますし、その逆もまた然りですので。