I should take off my pants, right?
Lesson6「私がパンツ一丁になるべきですか?」
周囲の風景がだんだん街っぽくなっていく。行き交う人が増え、2階建ての建物が増えてきた。
やがて、木造の門が現れた。門の上には看板が掲げてあり、そこにはこう記されていた。
『ようこそ温泉の街ヤクシへ』
なんで俺がこれを読めたか、それは簡単だ。
日本語で書いてあった。
これまであまり詮索はしなかったが、もしかしてこいつらの共通語は普通に日本語なのか?
どうも納得がいかないところはあるが、今はヤクシの街への興味の方が上回っていた。
「よーし、着いたぞ〜!まずは食べ物の買い出しからだな!果物屋に行こう!」
数日クミ達と暮らしてわかったが、こいつらは果物が主食らしい。リンゴや洋梨をよく食べるようだ。
「お前ら、果物好きなんだな」
「そうだね〜。私はイチゴとか好きだね。いくらでも食べられるよ……。リンゴは主食、イチゴはデザートだな」
クミはうっとりした表情で言う。
まあイチゴは野菜だけどな。
程なくして、果物屋に着いた。木造の2階建て。かなり年季が入っているが、それなりに小奇麗な感じだ。店先には俺の知っているような果物から、ファンタジー小説の挿絵でしか見ないようなモノまで、ずらっと並んでいた。
「おう、いらっしゃい。クミスティーナじゃないか」
店の奥から、ホビットらしき初老の男が現れた。背は1メートルくらい、小さなメガネを鼻に乗せて、目がグリッと出ている。俺は下から見上げられる形になった。
「お、人間じゃねえか!ん……お前、そのズボンをよく見せてみろ」
「えっ、うわっ!どこ触ってんだよ!」
俺の下半身をホビットが撫でまわす。別に変な意味では無く、どうもGパンを調べているらしい。
「『Gパン』だろ?これ。丈夫な布だから、ドワーフが高く買ってくれるんだ。おいお前、金貨4枚でどうだ?」
「やらん!」
金貨4枚がどれくらいの価値か知らないが、お断りだ。下半身パンツ一丁で帰れって言うのか。
「そりゃそうか……悪かったな。次は着替えを持ってこい」
俺は下半身を押さえて警戒する。クミはあきれた様子だ。
「こいつの下半身の話はもういーだろ!買い物に来たんだ。このメモの果物をくれ!」
クミは買い物メモと金貨の入った革袋を元気よく手渡した。ホビットはメモに目を通して、金貨を数えてから、クミをジロっと見た。
「……金が足りないな。ここんところ天気が悪いから、値上げしてね」
「え、そんな!リンゴとイチゴだけだぞ!?」
「この金貨じゃリンゴの分までだ。イチゴは諦めるんだな」
「そ、そんなぁ……」
クミは心底がっかりした様子で肩を落とす。
「主食はリンゴなんだろ?とりあえずリンゴで仕方ないじゃん。元気出せよ」
俺は慰めるが、クミは肩を落としたままだ。
「バカヤロウ……『エルフはリンゴのみに生きるにあらず』ってことわざがあるだろ……。デザートなしじゃ食卓が悲しいんだよ!」
なんだそのことわざ。『人間はパンのみに生きるにあらず』と似たようなやつか?
「おいどうした。買うのか?買わないのか?」
うなだれ続けるクミを、ホビットが急かす。
うーん、この際仕方ないか。
「おい、金貨4枚あればイチゴも買えるのか?」
「ん?なんだ人間。そりゃあ買えるさ。こいつらのいつもの量の3倍は買えるね」
「じゃあ、俺のGパンと交換だ」
「えっ!タカシ、お前、でも……!」
俺の発言にクミが飛び上がる。そりゃそうだろうな。
「お前イチゴ好きなんだし、しょうがないだろ。その代わり、そのローブ貸せよ。それ着ればなんとか帰れるだろ」
「タ、タカシ〜……」
クミは少し涙ぐんでいた。
「毎度あり!こいつを加工してやりゃあ、ドワーフに金貨10枚で売れるぜ」
あ、なんか俺ボッタクられてる?
こうして俺は、下半身パンツ一丁の上にローブという、きわどい格好で店を出たのだった。