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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

くるった。

作者: 火日野



父は昔、まだ母と仲のよかった頃こう言っていた。


『人間は絶対にに一人にはなれないんだよ。ある人が例えば……そう自分は一人っきりだと、だれも自分を理解してくれる人は居ないのだとそう思ってても周りは普通に生活してるし皆普通に幸せな生活を送ってる。だから一人にはなれないんだよ、きっと……。』


幼い頃の私は、それを不思議そうに見つめて何を言っているのお父さんと尋ねていた。


『……意味分からないよな、僕も自分で思っててよくわかんないと思う。ごめんな……知恵(ちえ)。』


笑いながら、いや正確には苦笑いしながら父さんはそう言っていた。

思えばあの頃から父さんは母さんとよく言い争うようになっていた気がする。


 そして、私が小学生の頃にはもう……手遅れな状態になっていた。


『『なんでこんな物買ってきたんだッ!!借金までしてッ!!』』


『『ちゃんと返すってば!!うるさいわねっ!!』』


大喧嘩。これが日常で起こるようになっていた。


ああ、あの幸せな家庭はもう戻って来ないのだと子供ながらに思ったものだ。


……そして、もう一つ変化があった。


母が私に強くあたるようになった事。


少しでも出来ないことあると母はいらつき、なんでこんな事も出来ないのと頭を叩かれた。とても痛かったのを覚えている。


加えて、父の居ない所でしか私に手をあげなかった。

ケガをしない程度に毎回叩かれ、酷い言葉を吐かれる。


もう……限界だったのだ。


小学校に入る前を思いだした、あの頃は幸せだったと。


僕のコーヒーを入れてと父が言い、母が分かったと笑う光景が思い浮かぶ。


私はそれを見ながら朝食を食べていた。


当たり前の日常が今になって当たり前ではなかったのだと気付いた。





……父には変化は特にないように思えた。


寝不足に見えたがそれでも母ほど変化はないようにみえた。





朝、音が聞こえた気がした。


私は何事かと思い、下に行ったが途中で父にぶつかってしまった。


上を見上げる。


 父はニコニコと笑みを浮かべていた。


父はこのころあまり笑わなくなっていたので私までうれしくなってしまった。


「おとーさん、さっきなんか変な音が聞こえなかった~~?」


思い出したかのように私は尋ねた。

気のせいだと笑っていた。もう、寝なさいと。


そうして最後にこう聞かれた。


知恵(ちえ)は俺がいればいいよな?』


そう聞かれたので私は迷わずうんと頷いた。


その後、母が行方不明になったことがニュースで流れた。


悲しみも起きなかったのはもう、母の事がすでに嫌いになっていたため。














……そして、ここ最近になって見つけた物がある。


先週、父が亡くなってしまったので部屋を掃除しに来ていたのだ。


そこで見つけた。いや、見つけてしまったのだ。


おそらく父の呪いがかけられているであろう物を。


人形があった。母の写真が貼付けられて釘がたくさん打たれた人形。


 





……母が行方不明になる前、言っていた言葉、父の一人称は俺だっただろうか。


僕、ではなかったか?


あんな口調だったか?。





……。




父は私が知らなかっただけで孤独だったのだろうか。辛かったのだろうか。


母は辛かったのかもしれない。だから私にあんな事をしてしまった。



しかし、今となってはなにを考えていたのかすら分からない。












フフっ



クスクスと私は笑った。










……気付いていた。見えていた。母の死体。


死体を父と一緒に隠した私。


罪深い私。


でも、母は死んでよかったのだ。あれで平穏な日常が戻ってきたのだから。




























父と喧嘩した。


私はなにも悪くない。



あれで良かったのだきっと。







真実を知るものは誰も居ないのだから。





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