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李愛  作者: 采火
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夢じゃない時の対処法2

むぐむぐとおにぎりを口いっぱいに頬張ると、梅干しの味がした。


「う、梅干し……」


反射的に吐き出してしまいそうになるが、我慢して飲み込んだ。

子供達が去ってから一時間くらい経っただろうか。

太陽が斎希の頭を真上から照らしているので、十二時頃だろうと予想する。

今は、あまりにもお腹が寂しいのかクウクウ鳴いていたので、オウキとサナの置いていったお弁当を食べている。

ちなみに、梅干し入りのおにぎりはサナの弁当箱に入っていた。


「サナって私がお弁当をつついてくるのが分かっているから、お弁当に私の嫌いなもの入れるんだよなー……」


梅干しはまだ良い方だ。

ちろりと隣に置いあるおにぎりを見る。

オウキのサランラップでくるまれていたおにぎりとサナのアルミホイルでくるまれていたおにぎり。

オウキのおにぎりはサランラップの残骸が示す通り斎希のお腹に収まっているが、アルミホイルでくるまれたおにぎりが一つ残っている。

なぜなら、


「サナめ……なんでおにぎりの具にネギを入れるかな……!」


そう、ネギ。ネギが入っているのだ。


「ネギなんて人が食べる物じゃないわ…!」


ネギは宇宙人。

きっと人類を洗脳しているのだ。

それが斎希のネギに対する持論だ。

生理的嫌悪という理由で拳を震わせてみる。


「……」


拳を震わせてみるけれど、拳が軽く感じられた。

手を開いて、もう一度握る。

なんだか、一瞬感じたこの軽さはまるで斎希の「今」のようで。


「……誰も突っ込んでくれないし。てか、いつまで同じ夢見てんだろう自分」


頭から、今思ったことを振り払うようようにぽつりと呟いた。

「今」を軽いと思ったらいけない。

今を大切に生きると決めてたから。

それはいつから?

ずっとずっと前から。

記憶に無いほど遠い時間にそっと持ってきた物。

目眩がする。

ぐらぐらと目の前が揺れて、目がチカチカする。


「かんがえちゃ、だめ……」


思いっきり、自分で自分の顔を右手で、グーで殴る。


「んあ」


目眩はなくなった。

ついでに、今考えたことも一切合切忘れた。

まるで、何かが自分の気持ちを乗っ取って考え事をしていたかのような奇妙な気分。


「……キモチワル。何コレ」


ぼやいても応えが無いことは知っている。


「こんなことしてる場合じゃないわよ」


ペチペチと頬を叩いて、気合い注入。


「何とかして、小さな私とレンヤを仲直りさせなきゃ」


名案なんて思い浮かばないけれど。

元気よく生えている足元の雑草を、ぶちっと引き抜く。つまらない。


「つまらないわ……もう、この元気な雑草がムカツクくらい」


別に雑草に八つ当たりしたいわけじゃ無いけれど、なんか当たってしまう。


「全く。喧嘩なんてしなければいいのに……」


自分のことなのに、自分を棚に上げて言う。

どうにかしたいのに、行動力のない自分が昔から嫌いだったけれど、こんな所で再確認させられるとは思ってなかった。

色々と重なって自暴自棄になってしまいそう。なりそうな性格では無いが。


「どうにかする、どうにかする……」


呪文のように呟く。

その場の勢いだけで、仲直りさせる宣言なんてするんじゃなかったらと反省する。

それでも考れえるだけは考えてみる。

回転だけは早いと誉められている頭を、フル回転させて。


「うー……」


唸る。


「うー……」


唸る。


「うー……」


唸る。

けれど、何も思い浮かばない。


「………計算の方がずっと楽ね」


文系のように見えて、実は理系である斎希だった。


「……って、そんなことじゃなく!」


ウッカリ現実逃避しそうになったが、ダメだダメだと自分を諫める。


「こんなんじゃ、何を考えても無駄ね……」


どうしようと困った顔で斎希は笑った。

一旦、考えるのを止めて上を向く。

顔にふわりふわりとスモモの花びらが落ちてきて、その香りで斎希の鼻をくすぐった。


「おいしいスモモを転がせよ……」


ぽつりと李唄の歌詞が出てくる。

斎希は子供会の行事でこの歌を知って以来、この歌が好きだった。

まるで、スモモの樹が何かを待っているようで。

その随分後に愛唄を知って、歌の真意に気付いたけれど。

そこでふと思い出す。


「そういえば、愛唄を歌っていたら近所のジジババになんで知っているって、聞きまくられたわね……」


斎希が知っていたらおかしいのだろうか。


「いつ、覚えたんだ自分……」


近所のジジババの反応から、ジジババではないと分かる。

理由は簡単。


「ジジババのクセに妙に記憶力良いんだもの。世の中に痴呆症とかあるのが、信じられないわ」


苦虫を噛み潰したような渋い顔になる。

唇を尖らせて、額にシワを寄せた。

顔に乗っていた花びらが風に吹き飛ばされた。

それを見た瞬間、パッと頭に良いことが思い浮かんだ。


「そっか、私今スモモの妖精なんだ。それなら」


夢の中の退屈しのぎなのだから、自分に正直でいいのだ。

仲直りはさせる。斎希の意地で。

方法は自体は簡単。

話すだけ。

むしろそれ以外に方法はない。


「妖精なんだから、あの子達以外知らないことを知っていてもいいよね」


不思議な物は知ってしまえば、全然不思議じゃなくなる。

斎希自身が言ったこと。

他の人が知らないはずのことを知られているのは、少なからず不思議なことだ。

恥ずかし過ぎて撤回したかった言葉が思いも寄らない所で役に立った。

思わず猫のように人懐っこい笑みを浮かべる。

子供の頃とは違って「今」の斎希なら、決して人に見せなくなった笑み。

斎希はゆったりと落ちてきたスモモの花びらを両手のひらで受け止めて、パッと両手のひらから落とした。

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