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李愛  作者: 采火
6/32

夢は思ったよりも現実味を帯びている5

三人で廊下をドタバタと音を立てて、二階の突き当たりにある斎希の部屋に走る。

右側に部屋があり、左側は壁という構造の家で、一番奥にある斎希の部屋は遠い。

あまり使われない茶奈の部屋、物のあまりない連夜の部屋。通り過ぎて、連夜とは対照的に物の多い桜樹の部屋。

突き当たりに、整頓されている斎希の部屋。

三人は足を止める。

代表として、先頭で走って一番最初に辿り着いた桜樹がドアをノックする。


「斎希? 大きな音が聞こえたんだけど……」


ドアのノックしても呼びかけても返事が無い。


「寝てるのかな?」

「あんなに大きな音がしたのにか?」


桜樹の後ろで茶奈と連夜が、声をひそめて話す。


「……返事が無いから、勝手に入るよ」


一応、断りをいれてドアノブを回す。

ガチャリと音を立てて、ゆっくりと扉が開く。

足音をひそめて中に入ると、相変わらず整頓された、本ばかりの部屋のままだった。


「物は落ちて無さそう。もしかしてあたし達の部屋からかな?」


小声で茶奈が言う。


「……ミュージックプレイヤーだ」

「んー……たぶんそれかな?」


茶奈を無視して男二人が本棚の下でこそこそと話し合う。

連夜がミュージックプレイヤーを手にとって、勉強机の上に置く。

茶奈は真っ直ぐに斎希の元に行く。

何気なく斎希の顔を覗いて、表情が凍りついた。


「茶奈、斎希の様子どう?」


桜樹が本棚から離れて、斎希の様子を座って見ている茶奈に近く。

茶奈が勢いよく振り向いた。

しかも、その顔は心なしか青ざめている。


「お、桜樹」

「どうしたんだ茶奈」


桜樹はそう言いながら茶奈の隣に座って、斎希の顔の見て気付いた。


「なっ……!」


桜樹のうめき声に気付いて連夜も斎希の眠るベットに近く。

そして絶句した。


「……!」

「透けてる……!?」


言葉にしたのは桜樹。

心で思ったのは全員。

三人とも、脳内がこんがらがって固まる。

何が透けているかというと、簡単で。

何故透けているかというと、困難で。

とりあえず、目の前にある現実は簡単で。

だから、答えも簡単で。

だから、答えてみる。

全員が答えられる問題だ。

改めて口にしたのは連夜だった。


「……斎希が、透けてる」


そう。

斎希が透けていた。

顔を見ているのに枕が顔の下に見える。

明らかに異常だった。


「こ、こういう時ってどうすればいいんだっけ?」


茶奈が誰かに尋ねる訳でも無く声を震わせた。


「……とりあえず、救急車か?」


表情があまり変わらない連夜もさすがに堅い表情になって呟く。


「それ以前に触れるのか……?」


桜樹が困った顔で笑う。

三人が三人で途方に暮れた。

こんな現象、非現実的過ぎて反応ができない。

ごくり、と桜樹が喉を鳴らす。

手を伸ばして斎希の頭を撫でてみようとする。ていうか、した。


「うわ「「すり抜けた!?」」」


最初に桜樹が驚いた後、三人で全く同時に同じことを言って、震え上がる。


「え、ちょ、マジで救急車!」

「ていうか病気なのかコレ!?」

「せ、精神科に行こう。俺らの頭がおかしいんだ……!」


どうするどうする、どうしようどうしようと、小パニックを起こした三人をよそに、斎希は安らかな顔で眠っている。


「……」


それに気付いた茶奈が二人に慌ててストップをかける。


「ま、待って待って! 斎希が起きちゃう!」


ピタッと二人が、動きを止めた。

三人で顔を見合わせてから、茶奈がこほんと咳払いをして仕切り直す。


「えーと……これからどうすればいいか、妙案がある人、手を挙げて」

「「しーん」」

「口で言うなよ、口で!」


茶奈がツッコミをすると桜樹が、口に人差し指を立てて、静かにしましょうの合図をしたり顔でする。


「うわ、うざっ!」

「……黙れー」

「……スイマセン」


連夜にまで言われて茶奈はしょぼくれる。

しかし、状況が状況なのですぐに立ち直る。


「で、マジでどうする?」


茶奈がもう一度尋ねる。


「どうしようねー」

「こんな異常気象みたいなこと、病院行って診てもらえるかな?」


茶奈が首を傾げる。

こんな嘘みたいな状況が医者に診せて信じてもらえるのか。

三人の頭を、そのことがぐるぐると巡る。


「……普通は信じてもらえないな」

「かといって、斎希をこのままにしておけないし…」

「あー」


連夜は斎希の勉強机に置いたミュージックプレイヤーをいじりながら。

桜樹は斎希のベットの近くに座り込んで。

茶奈は部屋をぐるぐると歩き回りながら。

それぞれが斎希を心配して、考えを搾り出す。

考えても考えても時間が経つだけで意味が無い。

何かしなければ。

動かなければ。

それは子供の頃から知っていたこと。

連夜も桜樹も茶奈も、痛い程感じていたことなのに。


「……やっぱり俺らは変わって無いな」


連夜が落胆したような声音で漏らした言葉が、桜樹と茶奈の心をずぶりと抉る。

それだけではなく、呟いた連夜自身の心も抉った。


「言い返せないのが悔しいな」


桜樹が乱れた布団を直してやりながら言う。


───何だか、さっきよりも透けてるような……?


頭の下の枕がはっきりと見えている。


───いいや、気のせいだ、きっと。状況がぶっ飛んでいるから、不安になってそう思っただけなんだ。


気のせいであることを祈りつつ、茶奈の様子をうかがう。

茶奈は足を止めて本棚を睨んでいた。

いや、見つめていた。

斎希のことで険しい顔になっているからか、すごい形相で本棚を見つめているので、睨んでいるように見えただけだった。

桜樹の目線に気付かず、じっと本棚を見つめる茶奈。

何を見つめているのだろうか。


「……何を見ているんだい、茶奈? すごく怖い顔になってる」


桜樹が指摘すると、茶奈は表情を緩めた。


「あー……なんかね、昔、斎希がこんな物語を創っていたことをね、思い出してさ」


桜樹と連夜が唖然とする。マジか、という顔で。


「確かあれも李唄を題材にしてた気がする……あれ? でも本当に李唄だっけ?」


桜樹と連夜の顔が一層、マジか、という顔になる。

それに気付かないで、茶奈は思い出すように話し出す。


「確か、中三の時かな? 見た記憶があるんだけど……」

「それはどのノートだ?」


連夜が尋ねるが、茶奈は困った顔で首を振る。


「それがねー、どれだか忘れちゃったんだ」


一瞬、時間が止まった。


「……せっかくの手掛かりになりそうだったのに、役に立たねないなぁ」

「え、桜樹ひどっ!」

「バカ茶奈」

「がーん……」


茶奈が膝を床に付けて、落ち込む。

しかし。


「まあ、茶奈のおかげで僕らが次にやることが分かったね」

「そうだな」


桜樹、連夜が本棚の前まで来る。


「ほら茶奈、いつまでそうしてるの。探すよ、斎希のノート」

「……とりあえず、片っ端から読むしかないな」


茶奈がぱあっと顔を上げた。


「病院はどうすんの?」


答えは分かっているけど聞いてみる。

にやりとと二人は笑った。


「「そんなの、知るか!」」


仲間としては心強いが、真似してはいけない選択肢を二人は選んだ。

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