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李愛  作者: 采火
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過去の真実は自分の解釈次第5

斎希はぼんやりと霧がかっている光景を遠くから見ていた。


「やくそくだからね」

「わすれちゃだめだよ」

「わかってるよ」

「……うん」


聞こえてくる声は、あの幼き自分たち。

場所はいつものスモモの木の下。

十歳ほどの少年少女が、何事かを話し込んでいる。

斎希はこの光景を覚えていた。


───『計画』を初めて提案したときの……。


丁度、斎希がタイムスリップした時代の一年後だ。

提案者はレンヤ。

小学校を卒業した後、同じ中学も卒業して、高校で分かれてしまった四人が再び集まる日まで八年はかかる計画。

その先にいるのが今の斎希。

また、別の所から声がする。

そちらへ振り向けば、オウキがイツキの頬にキスしていた。


───あの場所と服……中一の時ね。


整列された机と椅子。

誰もいない教室で、たった二人だけ。

廊下から二列目、前から三番目の席。

ぶかぶかの長袖の紺色のジャージ。

泣いてるイツキにオウキがぎゅっと抱きつく。


「泣かないで、レンヤも本気じゃないよ」

「でも私、レンヤに嫌われちゃってる……!」

「大丈夫だよ」


斎希はまばたきしずに見つめる。

あれは喧嘩したレンヤが、イツキに向かって「『計画』に参加するな」と吐き捨てたときだ。

いつもはオウキを慰める側のイツキが彼に慰められていて、自分がひどく幼く思える。

あの光景を見て心配することは何もない。

だって斎希は知っている。

レンヤとは知らないうちに仲直りしていたことを。

耳を済ませばまた別の所から。

そちらは楽しそうにイツキの家で四人が集まって『計画』をしていた。


「私は東京の大きな大学を選ぶわ! 親になんて反論はさせないくらいの!」

「行けるの~?」

「だからこの辺で一番の進学校へ行くのよ」

「うわー…」

「ちょ、レンヤその目やめて! あたしも志望校そこにしてるんだから!」

「高校かぁー」


ぐだぐだとささやかでありながらも大きな目標。

それらをすり合わせるようにして『計画』は立てられていく。

斎希は目を細める。

それは楽しそうに『計画』をしていたり、盛大に喧嘩していたり、寂しそうに泣いていたり。

斎希の中で鮮やかに残る記憶の欠片たち。

他人事のように見つめている斎希は、あることに気づく。


───私、桜樹を見つめている時間が長いわ。


いつでもイツキはオウキを見ていた。

イツキと同じくらい、いやそれよりも他者へ対する感情の起伏が激しいオウキは、心がとても不安定で揺れていた。

イツキの前で泣いているオウキの姿は、いつも他人の為に泣いていて。

今思えば、イツキはオウキに恋をしていたのだと思う。

だって斎希が見ているイツキの瞳は、恋をしている少女そのものだ。

けれど、その想いに気づかないフリをしていた。


───恋人同士で同居とか、連夜と茶奈に迷惑をかけてしまうかもしれなかったもの。


今、気づく。

この押し込めていた想いに。

斎希は怖かっただけなのだ。

もしフラれてしまったら、この生活を続けられなくなるから。

だから気づかれないように、自分でさえも気づかないように、深く深く、しまい込んだ。

それが、溢れ出す。


───どうして今更……!


これが斎希の後悔なのか。

だからスモモは呪いを与えたのか。

呪いという名の祝福。

残酷でありながら素敵な贈り物。

斎希の視界が余計に霞がかる。

涙のせいだと気づくのに、時間はかからなかった。


───でも……! 言えないじゃない……!


拒否されてしまったら、今までの生活が送れない。

せっかく何年もかけて実現させたのに、個人の感情なんかでフイにしたくない。

これは自分と桜樹だけの問題じゃない。


───私は後悔を持ったままでいい……! 『みんな』を失うくらいなら、この気持ちを隠し続ける……!


後悔の置き場所。

リザンはちゃんと片付けるために今を生きている。

では斎希は?

片づけずに散らかしているだけの子供。

散らかして在処をわざと見えなくしているだけ。

それは後にどこかへと引っ掻けて、怪我をすることになる。

斎希は分かっていた。

鳶から生まれた鷹の子。

頭が良い斎希には沢山の道が見えてしまい、『もしも』の可能性を見過ごせずに後悔を残していく。

斎希は悟った。

自分はきっと、現代に戻れないだろうと。

だって、スモモの木の呪いに適応できずに、逆らおうとしているのだから。

斎希の瞳から涙がぼたぼたと零れる。


───もうやだ……! 何回、こんなぐるぐるとした思考をしなくちゃいけないの……!


桜樹が好きだと心が叫んでる。

だけど、友達を大切にしたいと理性が叫んでる。

桜樹に想いを伝えれば今の関係を崩しかねない。

友達を大切にするなら、自己犠牲で事足りる。

選ぶなら勿論。


「友達よ……!」


ぎりり、と唇を噛み締める。

それから、思いっきり叫んだ。


「…………うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


斎希の心の決着。

だって。


「私はあの子達と一緒にずっといたいもの!」


スモモの木の呪いが恋の後悔に起因するならば。

斎希はその恋を後悔にしなければいいだけ。

その方法はひどく簡単なのだから。

だって。


「恋人じゃなくても友達で、ううん、親友で十分なんだから!」


恋を友情に。

愛する気持ちは変わらない。

どちらも大切で好きなのだから。


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