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李愛  作者: 采火
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夢じゃない時の対処法6

オウキの部屋にて、怪しげなノウハウ教室が開かれていた。


「いいかな? 女の子はとても繊細なのです」

「せんさいー?」

「そうよ。ケンカしたら、すぐに仲直りしなきゃ駄目よ?」

「ほうほう」


斎希の斎希によるイツキのための講座である。


「で、ケンカして、ごめんなさいしても駄目だったらどうすればいいと思う?」

「どうすればいいの?」


オウキが神妙な面持ちで尋ねる。

斎希はチョイチョイと人差し指でオウキに合図を送る。

オウキはサッと戦隊モノの人形(リーダー)を取り出して、斎希に渡す。

斎希は、元々遊ぶ為にオウキに渡されていた怪獣の人形とぶつけ合った。


「こうするの」

「?」

「こうやって、誰かが仲直りさせればいいのよ。今、無理矢理ぶつけたでしょう? 無理矢理、仲直りさせるの」


斎希は、オウキに戦隊モノの人形を返す。

オモチャの多いオウキの部屋は、あまり入ったことが無い。

オウキが「汚いから」と言って、皆を家に呼ばなかったからだ。

実際オウキの部屋の大半はオモチャばかりに占領されていて、斎希とオウキの座るスペースは限られていた。

こう考えるとルームシェアをしている現在はまだマシなのだろうか。


「で。ここからが本題。イツキちゃんとレンヤ君を仲直りさせる会の発足よ」


待ってました、と言わんばかりにオウキの瞳が輝く。


「ようせいさん、しつもんです!」


オウキは斎希の本名を知っても「妖精さん」と呼ぶことたにしたようだ。


「はい、オウキ君」

「じっさいにはどうやるの?」


元気よく挙手をしたオウキを指名すると思った通りの質問がきた。


「はい、良い質問ね。イイコイイコしてあげましょうね」


イイコイイコ~。


オウキが斎希に撫で回される。

でも、すぐにオウキが逃げ出した。


「ようせいさんのせいでカミがボサボサ~」

「ん? ごめんね?」


にこやかに謝る斎希。

全然、本気じゃない。


「ん、オウキ隊員。イツキちゃんとレンヤ君のことですが……」


今までとは打って変わって斎希が大真面目な顔をして言うと、オウキもそれにつられて真顔になる。


「実は……どうすればいいのかあんまり考えていません」

「えーー!」


オウキが大きな声を上げる。

オウキは斎希の返答に不満で、ポカポカと軽く斎希を叩きながら抗議する。


「そんなんじゃイツキとレンヤはナカナオリできないよ~」


けれど斎希はそれを右手で制した。


「ん、待ちなさいな。兎にも角にも二人がまず会わなければならないの。で、まずは本人同士の話し合い。それでも駄目だったら私たちの出番よ」


うんうん、そうだね。と、自分で言ったことに自分で頷く斎希。

オウキは納得していない顔だ。


「ふふ、そんな顔しないのオウキ隊員。ヒーローはいざという時にしか現れないのよ? それに私が手伝ってあげるだけでも光栄に思いなさい」


つん、とオウキの額をつついた。

それだけで座っていたオウキの身体がバランスを崩す。

ほんの少し力を込めただけだ。

体格の差。

今の斎希とオウキたちを分けるには十分。

それに、すでにイツキはオウキたちと一緒にいる。そう、小さな自分が。

自分は斎希(妖精さん)だけどイツキ(幼い自分)じゃない。

解決するのは『妖精さん』ではない。

『幼い自分』だ。

コレは『幼い自分』が起こしたことなのだから『妖精さん』は関係ない。

オウキには悪いけど、それが斎希の出した答えだ。

『妖精さん』だから、知らないことを知っている。

そのことを生かすには斎希は傍観者に徹しなければ。

ここが本当に過去だとして、うっかり余計なことをしてしまったら取り返しのつかないことになってしまう。


「いい、オウキ隊員? これは大切なことよ」


人差し指を立てて神妙な顔で言葉を放つ。


「イツキちゃんはオウキ隊員の仲間です。レンヤ君もオウキ隊員の仲間です。私はオウキ隊員の部下です。部下が上司のプライベートに割り込んじゃ駄目だから、お手伝いのみ。分かった?」


オウキはうんうん、と頷く、が。


「分かんない」

「ですよねー」


まあ、理解していないこと前提で話していたから問題ないけど。

斎希はそっと苦笑いした。

なんか、昨日も同じことを思った気がする。

オウキではなくイツキに言ったような。

ついつい、自分はこんなにカッコつけた台詞言う性格だったっけ、もしや性格が知らず知らずのうちに変わっていたのでは、と考えてしまう。

別の意味での苦笑。

慣れないことをしているからか、それともただ単に順応しているだけなのか。

斎希の感性は少し変わったようだ。

そう、例えば。

昔から年下の子には好かれていた。

そりゃもう、うっかり「うぜー」と言ってしまいそうな程に。

それだからか。

この時代の自分たちに好かれたのは。

斎希に関して言えば、斎希は未来の自分と会った覚えがない。

いつものように面倒になったら邪険に払っておけば良いのに、今は全くそんな気が起きない。

どうしてだろう。

目を瞑る。

カタリとオウキが人形を置く音がした。


「よし、オウキ隊員」

「お?」

「明日のお昼過ぎにレンヤ君を連れて、今日の場所おいで。きっと良いことがあるから」


斎希は目を瞑ったまま。


「いいこと?」


目を瞑ったままオウキの方へ手を差し伸べる。

オウキがちょんと斎希の手をつついた瞬間、その手に自分の手を引っ張られた。


「わあ! びっくりした!」


斎希はオウキを道ずれにゴロンと床に転がる。

オウキの、子供の体温は、高くて温かい。


「オウキ君、李唄は知ってる?」

「え? うん」


オウキは斎希の腕の中で答えた。


───ようせいさん、おかあさんみたい……でも、おかあさんとはちがうかんじがする。


でも、何か違うものにも似ている気がする。

うつらうつらと思っていたら、斎希が別の質問をする。


「じゃ、愛唄は?」

「しらなーい」


オウキは思った。ナニそれ。


「んー、やっぱりオウキ君でも知らないか。なら、やっぱり自分はどこでこの歌を……」


ブツブツとオウキの耳元で呟く斎希。


「わわわわ」

「ん?」

「ようせいさん、みみ、くすぐったい!」

「あら。ごめんね」


パッとオウキを解放する。

コロコロと斎希の腕から転がったオウキは真面目な顔になる。


「ようせいさん、イツキたちきっとナカナオリできるよね」


妖精さんの言った「良いこと」はきっと、イツキとレンヤが仲直りすること。

オウキはそう決めつけた。


「いいことが、おきるんでしょ?」


そして仲直り出来ると信じたいという、真摯な瞳。

それに斎希は起き上がって答える。


「勿論。とりあえず、明日、今日の所にレンヤ君を連れてくる。私はイツキちゃん連れてくるから」

「はーい!」


そう言ってオウキが元気良く頷いた時。


「オウキー、斎希ちゃーん! ご飯が出来わよー」


美味しそうな匂いと共に吉良の声がした。


「「はーい!」」


お腹が減っては戦が出来ぬ。

斎希とオウキの関心は一瞬で吉良の作ったご飯に移った。


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